国王殺害計画


 美しい女性の家臣が国王に報告する。


「国王様! ご報告します! 城内に機械モンスターが溢れており現在対応中です!」


「機械モンスター? ふーん、どっから沸いてきたんだろう。」


 国王は玉座に座りながら、手の上に顎を乗せのんきに考える。

 彼が[無限の勇者 ヨウタ]。18歳にしてこの国の王に登りつめた人物だ。


「モンスターは街中に出現しておらず、この城内だけです!」


「そっか、街中には出てないならよかった。

じゃあこの城のどこかにワープホールが現れたって事だな。

《探知スキルLvMAX》発動……ああ、地下牢のところか。」


 国王は玉座から動かず、探知魔法で異変を探す。

 探知は一瞬で終わり、すぐに原因の場所を特定された。


「場所、地下牢。魔術師達に伝えて。すぐ塞いでって。」


「御意!」


 家臣が回答をして王の前から去る。


 しかしすぐに戻ってきた。

 それも大勢の兵士と共に。


「国王様! ご報告します! 駄目です、攻撃が一切効きません!」


「は? どういうことだよ。」



ドバァァァァン!!



 王の間の壁が壊される。

 そこから大量の機械モンスターが入ってきた。

 UFOのような丸みを帯び宙に浮いているモンスター[ジバエナメル]。

 手足がパイプで出来たロボット[キラーロボ]。

 四足歩行の狼型ロボット[メタルグルル]などだ。

 それを見た家臣は怒りを露わにし、兵隊に指令を出す。


「王の間に侵入を許すとは……排除しろ! 親衛隊たち!」


「「うおぉぉーー!!」」


 兵隊たちが叫び、モンスターに突撃する。

 しかし持っている剣や斧ではたいしたダメージを与えられない。

 王の近くまで避難していた家臣が兵隊に激を飛ばす。


「何をしている! 攻撃補助魔法はどうした!」


「それが……」



バゴバゴバゴン!



 国王が足元に転がった小さな破片を投げる。

 するとモンスター三体にヒットし、体がバラバラとその場に崩れた。


「へぇ、攻撃力を下げられるのか。いや違うな、俺のレベルが0になってるわけか。

ふーん、面白いスキルだね。」


「国王様さすがです! しかしこれはいったい……」


 三体倒してもまだまだモンスターは増える。

 攻撃力を下げられた兵士たちは苦戦し、王の間への侵入を抑えるので精一杯だ。

 美しい家臣が王様の横に行き、手をにぎる。

 王様は優しく微笑み、怯える家臣の頭をそっと撫でた。


「やれやれ、俺が行くしか無いようだな。」



 ――――という流れを、機械モンスターからの通信で監視する俺ら。


「どうだい? 一瞬で城内を制圧できただろう。

流石に即死スキルまでは発揮できなかったけど、相手のレベルを0には出来るんだ。

あとは0レベルになった国王を軽くひねれば終わりってわけだね。」


 魔王城、監視ルームで喋る彩魔術団長。

 悠久の国『フィフティーン』国王殺害計画進行中だ。

 部屋には計画に携わる団員と、おまけで俺とリリベルがいる。


「そううまく行くかしら。相手は無限の勇者よ?」


「確かに。チート能力は解釈によって全然強さが違ってくるから。」


 俺とリリベルが団長に意見する。

 しかし団長はやる気だ。


「まあ見てなって。あーあー、聞こえるかな? ヨウタ国王。」


 機械型モンスターのスピーカーで声を届ける――――



「ん? 誰だお前。」


 国王が玉座から立ち上がる。

 赤いマントをバサッと整え、腰に手を当てる。


『僕は魔王軍 彩魔術団 団長のシロだ。

今日は君を倒すため、とっておきの兵器を用意したんだよ。』


 機械モンスターから声が聞こえる。

 いつのまにかモンスターは玉座を囲んでいた。

 レベルが0の兵士達は、堅い機械のモンスターに戦闘不能にされていた。


「で? レベル差を付ければ俺を倒せると思ったの?」


『レベルが減っている事には気がついているみたいだね。さすがだ。』


「へー、そりゃすごいな。まるでチート能力だ。

異世界転生勇者でも味方につけたのかな。」


 監視をしている俺はちょっとドキッとした。

 でも今回は俺は何もしていない。

 監視を続ける。


『うん、なかなか鋭いな。ちょっと違うけど。

じゃあそのお仲間の異世界勇者の能力で、さっさと死んじゃってよ。』


 シロ団長が告げると機械モンスター達が武器を構える。

 そんな中、怯えながらも家臣の女性が王様に剣を渡す。

 王様は受け取ると、家臣に下がるよう命じる。

 彼は鞘から剣を抜き、軽く素振りをした。


「よっと。」



ズバン!!



 王の間の壁に大きな切り傷が出来る。

 素振りをしただけで空間が切れてしまうようだ。

 もちろん、機械モンスター達も真っ二つになってしまった。


『あれぇ……』


 シロ団長が半笑いで固まる。


「で、レベル差って何? 俺は"レベル0で攻撃力が∞"なんだけど。」


 シロ団長が頭を抱える。

 しかし。


『こうなったら出力アップだ! 勇者の全てのレベルを0に!!』


 王の間の外に潜んでいた、レベルの勇者だったものに命令を下す。

 勇者の鉄仮面が光り、スキルを発揮しようとした瞬間――



パォン!



 聞きなれない音。

 何の音だ?

 よく見ると王のマントが揺れている。

 そして手には、赤い臓器のようなものが握られていた。

 臓器からは血が滴り落ちてる。


『え……? それは……』

『団長様! [レベルの人造人間]から、心臓が無くなってます!』


 通信音声に部下モンスターの声が紛れ込む。

 それを聞いた王はニヤッと笑った。


「漫画のキャラはもっとうまく盗む。

抜き取るとき相手の傷口から血が出ないからね。」


 よくわからないことを言いながら、手に持った心臓を握りつぶす王。

 鉄仮面がカラーンと落ちる音がする。

 レベルの人造人間は拘束具や車椅子を残し消滅してしまった。


『な……何するんだよ!』



パォォン!



 再びこの音。

 高速移動したせいで空気から衝撃音が出ているのだろうか。

 彼のマントがはためく。

 次々と崩れ去る、城内を制圧していた機械モンスター達。


『え……そんな……一瞬で……』


 城内にいる全てのモンスターの動力部が破壊された。

 暗殺せんせーかお前は。


「おい魔王軍。」


 最後残っている機械兵へ話しかける王。

 俺達が監視に使っているやつだ。


「次に俺の庭で勝手なことをした瞬間、魔王の首が飛ぶからな。

よく覚えておくように……っと!」


 王がモンスターに向かって何かを投げる。



バリィン!



「痛ってぇ!」

「タカト!」


 監視モニターが壊れ、俺の頬を何かがかすった。


「だ、団長様! これ!」


 部下モンスターが指差したところの、壁に刺さっている矢。


「矢? どこから? 俺の頬をかすって……画面から!?」


「ありえないよ! 監視魔法の向こうから攻撃してくるなんて!」


 魔術研究科のシロ団長すら驚く。

 監視しているだけの俺らが"攻撃"された。

 これが「命中率∞」の能力なのか。

 俺の頭部を狙われてたら即死していた。怖えぇ。


 こうして通信も途絶え、悠久の国『フィフティーン』国王殺害計画は失敗に終わった。

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