第7話 VS 無限の勇者

馬鹿野郎お前俺は壊すぞお前!(暗黒聖騎士感)


「切り裂けッ! 《セイクリッドマター・ブレイド》!!」



バジジジジジ!!



 俺のステータス・ウィンドウに、光り輝く真っ黒な剣がぶつかる。

 ここ、魔王城の地下トレーニングエリアは、彼の技によって激しく揺れていた。

 ステータス画面に攻撃をしているのは四天王[暗黒聖騎士セイントネスナイト ジオウ]。

 俺の画面の耐久性を知り、突破したいとのことで練習に付き合うことになった。


「うあ……飛ばされる……」


 ステータス画面を展開して遠くで待機する俺。

 技の勢いからくる爆風に飛ばされまいと、必死に地面にへばりつく。


「うおおッ! うおおおおおお!!」



ピキッ



 なんと。

 四天王の全力の「突き」が、俺のステータス画面にヒビを入れた。

 チートも使わずバグったステータス次元の裂け目すら干渉する四天王。

 さすが魔王に選ばれただけある。


「ううう! ……ッカハア! ダメだあ!」


 四天王のジオウは突きをやめ、その場に倒れた。

 爆風が止んだので近くへ駆け寄る俺。


「ジオウさん、お疲れ様です。すごいっすよ見てください、ヒビが入りました!」


 ジオウが攻撃していたウィンドウを操作し、仰向けに寝ている彼に見せた。


「あーダメだ! こんなんじゃ世界最強には遠い!

いずれ魔王様も超える最強の騎士になる予定なのに、こんな壁ぶち破れねぇとは。」


 ジオウが悔しそうに、その黒い兜を掴む。

 彼はこの世界でも最強クラスの役職「聖騎士」のトップになりつつ、悪魔に魂を売った元人間。

 悪魔の力と聖なる力を融合した彼の実力は、魔王と同等に及ぶとも言われている。


 彼は勢い良く起き上がり、その場にしゃがんだ。


「本当お前ら異世界勇者共の能力はありえねぇ事だらけだ。

その女神様っつー奴はどれだけ強いんだ? 一度会ってみたいぜ。」


「いや、俺は女神様からスキルを貰ったわけじゃないんですけどね。」


 俺のバグったステータスウィンドウについて。


[1]情報表示の対象バグ

 普通は自分の情報のみ表示されるが、指定した万物の詳細が見れてしまう。

[2]出現座標移動バグ

 普通は目の前に展開されるのみだが、俺の思考したように移動できてしまう。

[3]サイズ変更バグ

 普通はA4サイズくらいに固定だが、ミリ単位から数メートルまで大きさを変えられる。

[4]多重展開バグ

 普通は一人一枚だが、複数出現させる事が出来てしまう。

[5]透過不能バグ

 普通は立体映像のようだが、俺のは限りなく薄い鉄板のようになってしまう。


 ざっと考えただけでもいくつもの不具合を羅列できる。

 しかしこの不具合がいい感じに利用できるため、俺もこの世界でやって行くことが出来た。


「よし! タカト、そこに立て!」


「はい? そこに立てとは?」


 四天王が指示を出す。

 彼が指を向けるのは、先程攻撃していた画面のあるところだった。


「やっぱり相手がいないと殺る気が出ねぇ。

お前がそこに立ってそのシールドを展開しろ。そうすれば突破できる気がする!」


「いやいやいや! さっきヒビ入ってたじゃないですか!

それで突破されてしまったら俺はどうすればいいんですか!」


「その時は……祝福しろ。」


「祝福出来るボディが残っていれば良いんですけどね!」


 四天王のジオウが立ち上がる。そして兜を脱いだ。

 サラサラの金髪、黄色い瞳。

 思ったより若い見た目でイケメンだが、顔が傷跡だらけだ。

 身長は2メートル以上あり、俺を上から見下す。


「頼むよ。それで何かが掴めそうなんだ。一つ次元を超えられるような。」


 その威圧感で近づいてくる。

 俺はちょっと押され気味に、後ずさりする。

 肩を叩かれ、真面目な顔が近い。


「大丈夫、力を抜いて、立ったまま何もしなくていい。俺が全て――」


「こらあぁぁ! ジオォォウ!!」



バダン!!



 トレーニング室のドアが勢い良く開き、リリベルが入ってきた。


「そうか! 今日はそういうパターンなのか!」


 意味不明なことを言いながら近づいてくる。


「私のタカトに何してんの! あんたは永遠に壁打ちしてなさい!」


「は? てめー何言って……」


 リリベルが素早い動きで俺の腹部をラリアット。

 そのまま小脇に抱えてトレーニング室の出入り口へ向かう。


「おい! 待て!」


「すみません、その提案は次回の練習までに考えておきます!」


 なんとか彼の方を向いて告げる俺。


「チッ、わかったよ! 次も頼むぜ!」


 そう言うジオウを置いて、俺とリリベルは階段を登る。


「で、今日は何? リリベル。」


「彩魔術団の戦略発表があるって言ってたじゃない。行くわよ。」


「あー、今日だっけか。」


 足を使わずに階段の上をふよふよ飛ぶ俺ら。

 そのまま魔王城の多目的ホールへ向かった。



◆◆◆



 ステージ上に立つ、雨合羽のようなものを着た黒い子供。

 彼が彩魔術団の団長、シロだ。

 俺とリリベル以外にも、このホールは多くの魔王軍団長と団幹部がいた。

 ってかこんなにいたんだ。自由な校風の学校で乱立する謎部活くらい多いな。

 そりゃ勇者討伐団なんてのが許されるわけだ。


「――というわけで、キメラとアンドロイドの技術を融合したわけだ。

そしてここからが本題だよ。今日は何と、その技術の結晶を皆さんにお見せしようと思う。」


 彩魔術団長がよくわからないモンスターの説明をした後、あるものが運ばれてきた。

 それは車椅子に乗っている人形のようなものだった。

 あれ? もしかして……


「紹介します。[レベルの人造人間 カイト]です!」


「やっぱり!? 怪盗のあいつか!」


 スポットライトに照らされる車椅子の男の子。

 拘束具のようなもので体を縛られ、鉄の仮面を被っている。

 微動だにしないので一見、人形かと思った。

 そういえばシロ団長に勇者討伐を手伝ってもらった際に「収穫があった」と言っていたが。

 まさかこの事だったとは。


「これはそこにいる団長、タカト氏がやっつけた異世界勇者なんだ。

みんなも知っている通り、何故か異世界勇者は死亡すると死体が消えてしまう。

そこで僕はタカト氏の勇者討伐に同行する事で、死亡した直後の死体を回収出来たんだよね。

で、その死体を研究・改造して出来たのがこの人造人間なのさ。

機械騎団の団長との合作だよ。ありがとう[アイヴィ・アイスラーク]。」


「モンダイナイ。」


 うお、びっくりした。

 ステージ横に置いてある、鉄くずで作ったようなドラゴンが喋った。

 これ団長だったんだ。


「この人造人間は『レベルの勇者』の能力、対象即死スキルを少しだけ使えるんだ。

まだ制御は難しいんだけどね。実践投入には問題ない程度さ。」


 勇者であったものは一切動かない。

 おそらく、すでに意識は無いだろう。

 シロ団長のいう通り俺ら異世界人は死亡したあと、装備などを残して消失してしまう。

 女神が作った紛い物、亡霊の類。

 だが消失の寸前で留めておくとは流石シロ団長だ。


「人造人間の技術が確約できれば、魔王軍はとんでもない力を得ることが出来る。

だって異世界勇者の力を使うことが出来るんだよ?

だから僕はこの研究をどんどん進めていきたいと思う。

そこで今回、この技術のデモンストレーションのためにある国を攻めようと思うんだ。」


 壇上のシロ団長が手を挙げると、巨大スクリーンが現れた。

 そこにはとある国の城前広場に集まる大勢の人間が映し出された。


「ここだ。悠久の国『フィフティーン』。

ここに映ってる国王[無限の勇者 ヨウタ]を倒す。」


 それを聞いた団員達はざわつく。

 無理だ、やめたほうがいい、など。

 無限の勇者? 何の能力持ちなんだろう。


「ん? そもそもこの映像のどこに映ってるんだ?」


「どうしたタカト君。ああごめんね、この距離じゃないと気づかれるんだ。

ええと、ここ、ここに赤いマントを着た国王がいるだろ? この人だよ。」


 シロ団長がふわっと浮いてスクリーンを指差してくれた。

 あー、たしかにそれっぽい人がいる。

 ここまで小さいと人物を認識してステータス確認できるかな。


「えーっと……ステータス・オープン。」


【[無限の勇者 ヨウタ]】

 レベル:∞

 HP:∞

 MP:∞

 物理攻撃力:∞

 魔法攻撃力:∞

 物理防御力:∞

 魔法防御力:∞

 素早さ:∞

 思考速度:∞

 命中率:∞

 射程距離:∞

 スキル:大賢者、魔法創造、神耐性、神鑑定――……


「……おいコラァ! ふざけんな! ここに女神を呼んでこい!!

今日こそアイツのずさんな仕事ぶりに文句を言わねぇと気がすまねぇ!!」


「まあまあタカト落ち着いて。」


 横にいるリリベルに止められた。

 思わず取り乱してしまうくらい酷いステータスを見てしまった。

 シロ団長はかまわず続ける。


「……そう、勇者討伐団長が取り乱してしまうくらい、彼は強い。

今のところ魔王軍には興味が無いようで手は出してこないけど。

でもこんなやつを放っておくのも怖いよね。

だから今回、彼の無限のレベルを消去するこの人造人間の出番ってわけさ。」


 団長たちが「なるほど」「もしかして」などと口ずさむ。

 確かに、無限×1=無限、レベル1デスのスキル範囲内だ。

 うまくスキルを発揮できれば倒せるかもしれない。


「決行は三日後、協力してくれる人は後で僕のところまで来てね!

みんなで異世界勇者を倒そう!」


 うおーーーっと盛り上がる。

 俺は出せる情報を提出するだけで様子見するが、はたしてどうなるのか……。

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