略奪能力者の倒し方


「……おかしい。モンスターが致命傷を避けてる。

私の剣聖スキルが発動していない? いや、そんな筈はない。」


 勇者は華麗な剣さばきでモンスターを切っていくが、倒すまで至っていない。

 動きの鈍くなったモンスター達だが、自分で考え適度な間合いを取り続けている。

 すると。


「ガルルル……」「ウキーッ!」

「なにっ、こいつらは!」


 狼モンスターと猿モンスターが、勇者に噛み付く。

 モンスターの動きが鈍くない。

 これは重力場を遠回りで回避し、自慢の足で勇者に追いついたためだ。

 勇者がモンスターを振りほどき、槍と剣で切り捨てようとする。


「邪魔だ! ……ッぐお!」


 後ろから大きなゴーレムに掴まれる。

 動きは遅いが重力場に囚われない自慢の力で、勇者を遠くに投げた。


「くっ……《風の翼》《強者のタトゥー》《暗器を飛ばす能力》!」


 空中に投げ出された勇者はスピードアップと攻撃力アップの補助スキルをかける。

 そして空中で襲ってくる巨大羽虫や鳥モンスターを暗器で攻撃。

 無事に着地出来たが、そこは中央軍のど真ん中だった。


「な、なんだこいつらは、何故攻撃が当たらない! うわっ!」


 自分の意思に関係なく体が自動的に反応し、モンスターを切っていく勇者。

 もうスキルを使うというかスキルに使われている感じだ。

 しかし彼の死角からは暗器が射出され、攻撃に隙が無い。

 勇者の展開したモンスターの影も残っていて、黙っていると撃ち抜かれてしまう。


 それでも。

 モンスターの被害は最小限だ。


 反射神経、行動予測……つまり戦闘経験。

 異世界勇者に足りないものだ。

 スキルで勝手に体が動くとは言え、所詮は人間の脳。

 多くのモンスター相手では処理しきれず、必ず隙が生まれる。

 そこが[千の技を持つ勇者 ユウジ]の弱点だ。


「団長様、勇者の体力が減ってきたのか動きが鈍くなりました。

次の作戦に移りますか?」


 普通に視力の良い烏天狗が報告してくる。


「いや、回復スキルがあるかもしれない。もう少し待とう……」


「……何やら楽しげなことをしているな。」


 声に驚き、後ろを振り向く。

 そこには山吹色に光り輝く、大きな人型の竜が浮いていた。

 四天王[竜神ドラゴッド マグレッド=エンド]だった。


「竜神様、どうしてここへ!?」

「あら、珍しいわね。」


 俺とリリベルが反応する。

 竜神が低い声で答えた。


「……ここまで大規模な侵略は久々だな。……これもお前が?」


「はい、俺の考えで動いてもらいました。厄介な異世界勇者を潰すためです。

そうだ、竜神様も一発、通常攻撃を撃ってもらえませんか?」


「……神である私に指図をするのか?」


「いえ、すみませんでした!」


 竜神の目が光る。

 睨まれたような気がしたが、笑っているようにも見える。


「……私は祭りごとが好きでね。……よかろう、良いものを見せてもらったお礼だ。」


 竜神が俺らの前に出る。


「烏天狗! みんなに伝えてくれ! 竜神様が通るからそこを避けてくれって……」


「……問題ない。私の通常攻撃はここから届く。」



パウゥゥゥゥ……



 え?

 竜神の口に光が集まる。

 ここからって、勇者は米粒みたいに遠いけど。



カッ! ゴッオオオオオオ!!!



 竜神の口から極太のレーザーが発射される。

 レーザーが通ったところは焦土と化し、勇者がいたと思われるところは地面がえぐれた。

 絶対仲間が巻き添え食らったよ。

 というか今のが通常攻撃って、威力高すぎる。


「え……っと、今だ! 烏天狗ちゃん、『Aチーム』を前に!」


「は、はい、かしこまりました!」


 びっくりして固まっていた天狗だったが、すぐにカラスたちに指示を送った。


 一方、勇者は巨大な盾で竜神の攻撃を防いでいた。


「なんて攻撃だ……《アイギスの守護》が付与された盾がボロボロじゃないか。」


 盾を解除する。

 その瞬間、目の前に三体のモンスターが現れた。


[ジバクロック]

 説明:ちょっとした衝撃で自爆する儚いモンスター。


[サイコモノハシ]

 説明:超能力を使えるが、常に激しい頭痛に襲われる。


[暴走天使イグ・マオ]

 説明:暴走しないように自らを"拘束"するスキルを持つ。


「こ、こいつらは!

えっと、[ジバクロック]は危険だから略奪、スキルは発動させない。

[サイコモノハシ]は略奪してから……駄目だ頭痛が酷くて使えない。

[暴走天使イグ・マオ]は略奪……したら暴走してしまう、えっと……」


 スキルの取捨選択。

 デメリット持ちも略奪出来てしまう彼の能力だが、判断に一瞬の隙が生じてしまう。

 このタイミングで、次はあの方にお願いを――――



「拙者の暗殺技術はスキルではない。"生き様"でござる。」



 ――――ちょっとまばたきをしただけだ。

 その瞬間に、首が無い勇者の死体が横たわっていた。

 首を切る瞬間はおろか、勇者が倒れる音すら聞こえなかった。

 これは……倒したのか?

 そばにいた烏天狗がハッとした表情をした後、[八咫烏]へ向かって喋る。


「えっ……あ! 『Bチーム』黒魔術師隊準備! 蘇生魔法を打ち消す準備を!」


「その必要は無いよ。」


 咄嗟の指示をしてくれた烏天狗に伝える。

 彼に蘇生スキルは無いみたいだ。


【[略奪の勇者 ユウジ]詳細検索】

 検索内容:"蘇生","リジェネ"

 検索結果:0件


「あ! タカト、ステータス画面が!」


「うん。戻ってきた。略奪の勇者を倒したみたいだな。」


 モンスターの中央軍が歓喜の声であふれる。

 それと同時に、街の防御壁にいる人間と右翼・左翼にいる冒険者は絶望していた。

 勇者の展開していた重力場と影モンスターが消えたので、察したのかもしれない。


「《ポイズンショット》! おお、飛距離と威力が上がったゲコ!」


 カエル型モンスターの前方の地面が溶けている。

 彼にもスキルが戻った上に、レベルアップしたみたいだ。


「お父さん!」

「あなた……」

「おお……お前たち……」


 手の形をした泥モンスター数体が、握手を……熱い抱擁をかわしている。

 《なかまをよぶ》スキルが復活して、家族と会えたみたいだ。


「あ、団長様、前衛から通信が入っています。」


「おう、繋げてくれ。」


 映像には嬉しそうなモンスターの顔が映っていた。


「団長様、ありがとうございます!」

「おかげでスキルが戻ったゲコ!」

「団長様、提案ですが、このままあの街を落とせないでしょうか。」


「え、このまま……」


 確かに、モンスター数は殆ど減ってない。

 しかし街には対モンスター用のトラップもあるし高い防御壁もあるし……


「「団長!」」


 通信鏡ではなく、直接中央軍を見る。

 みんなこっちを向いている。

 小さくて見えないが、みんな目が輝いている気がした。


「そうか。うん、わかった!

前方はそのまま防御壁を落とせ! 後方は右翼・左翼の支援だ!

残党共を得意のスキルでぶっ潰せ!!」


「おおおおーッ!」


 みんなの気持ちが一丸となった気がした。


「これもタカト殿の人望でござるな。」


「あっ、カゲヌイさん!」


 いつのまにか横に、四天王・暗殺忍者カゲヌイがいた。

 風呂敷をパラシュートみたいにして宙に浮いてる。


「今回はありがとうございます!」


「いやいや。こんなに士気が高い部隊を作るとは、拙者も見習わなくては。」


「そんな恐縮ですよ。」


「団長様!」


 烏天狗が報告してくる。


「右翼にいる聖騎士がかなり手練のようです!

魔法の剣を振りかざし、空中機動までこなします!

[バードマン]や[グリフォン]でも苦戦しているようなので援軍を……」


「よし、俺らが行こう。」


「ええ、そうね。」


「お願いします!」


 烏天狗と四天王忍者を置いて、俺らは右翼に向かった。


「そういえばもう自分で足場出せるけど。」


「いいじゃないたまには。」


「最近多い気がする……」


 俺はリリベルに抱きかかえられながら、ふよふよとモンスターたちの上を飛んだ。


 ちなみに聖騎士は秒殺だった。

 聖騎士は最強の職業と聞いたけど、本当かなぁ。

 それとも俺とリリベルの組み合わせがチートだったのか。

 こうして、略奪の勇者の討伐は達成された。

 と同時に、あの難攻不落だったカリールの街を陥落することができた。




VS 略奪の勇者 おわり



スキル略奪能力者の倒し方:

略奪過多で脳をオーバーフローさせる

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