包囲殲滅作戦
「では皆さん、改めて説明します。」
東門の外。
ずっと広がる平原の向こうに、薄っすらと砂埃が。
もうモンスターの大群が目視出来る位置まで来ている。
門の前に冒険者が集まった。
彼らにもう一度作戦を話す勇者。
「私達冒険者の人数は300人程度。これを右翼・左翼の二つに分けます。
右翼・左翼は敵陣の左側面・右側面へ回り込み、応戦してください。」
「おい、本当に大丈夫なのかよ。中央はお前一人って。」
「はい。大丈夫です。スキル発動、《幻影召喚》!」
そう言って彼は、空中に何体もの"影"を召喚する。
多数のモンスターの影。
これは彼が略奪したスキルを持つモンスターの幻影だろうか。
冒険者たちの表情が驚きに満ちたあと、希望に変わる。
「私はこの"影"から大量の技を放ち、モンスターを足止めします。
そして作戦通り右翼・左翼が敵を打ち倒し、中央軍を両サイドと背後から攻めて下さい。
私一人では殲滅できるとは思えません。皆さんを頼りにしています。」
「大丈夫だ。任せてくれ。」
聖騎士、そして屈強な冒険者たちが勇者を信頼の目で見つめる。
聖騎士が作戦開始の号令をかける。
「では皆の者! これより作戦を開始する!」
「おおおおーッ!」
人間たちがそれぞれの持ち場へ移動する。
勇者は余裕を見せて、ポケットに手を入れた。
「さあ、かかってこいモンスター達よ。」
◆◇◆
「――――というのが一部始終です。」
烏天狗の女の子が、街を偵察に行った[八咫烏]からの映像を見せてくれた。
こんな白昼堂々と作戦会議するなよ。
おかげで全部筒抜けなんだけど。
実は先遣隊として雑魚モンスターを放ったのは、偵察モンスターの存在を隠すためだ。
モンスターをサーチされても雑魚が大量に発見される。
そのため誰にも気づかれずに冒険者たちの様子がバッチリ録画されていた。
「ありがとう。で、今の状況は?」
「もうそろそろ右翼と左翼がぶつかるところです。」
「じゃあ俺らも現地に行くか。リリベル。」
「ええ。」
魔王城作戦本部にいた俺とリリベル。
偵察部隊の烏天狗とともに、リリベルの魔法で現地へワープした。
◆◆◆
「[地獣 ベヒモス]から奪ったスキル。《グラビティフィールド》!」
モンスター中央軍と勇者がぶつかる、ちょうど中間地点。
勇者の重力増加スキルが発動し、広範囲で地面が凹む。
そこにモンスター達が入り込むと、動きが遅くなってしまった。
「さて、ゆっくり掃除しますか。……放て!
《爆撃のブレス》《氷のつぶて》《ハイドロプレン》《雷撃刃》――――」
空中に浮かぶ大量のモンスターの影から、炎や氷、雷撃などが射出される。
重力場によって動きが遅くなったモンスターたちは、勇者のスキルを交わすことが出来ない。
次々に攻撃が当たってしまう。
「ふむ……思ったより数が減らないな。ではこうしよう。
《武器を生成する能力》《剣技レベル:剣聖》《槍技レベル:槍聖》!」
体から武器が生成され彼の周りに浮かび、その中の剣と槍を両手に持つ。
彼は重力場から出てきたモンスターに向かっていく。
「おー、やってるやってる。」
一方その頃、モンスターの大群の後方上空。
俺はリリベルに抱きかかえられ、ふよふよ浮いていた。
「見えますか? ここが映像を撮れる限界の距離です。
通信魔法は略奪される恐れがあるため使えません。
私のカラスが各所に指示を届けますので、いつでも利用ください。」
烏天狗が近くで待機してくれている。
彼女の持つ鏡には、勇者と戦うモンスターの姿が映っていた。
「うぉー!」「ぐぇー!」
モンスターが勇者に次々と切られていく。
長さの違う武器を流れるような動きで使いこなす、華麗な体術。
映像で見ている俺ですらカッコイイと思ってしまった。
しかしこれは彼自身が体得した技術スキルではないはずだ。
略奪したスキルを使用することで、体が勝手に動くらしい。
「ねぇ、あの勇者めっちゃ強いけど、このまま全滅したりしないよね?」
リリベルが耳打ちしてきた。
まだまだ、モンスター達の本気はこんなもんじゃない。
―――――――――……
「――――みなさん! いいですか、絶対にスキルは使わないでください!」
討伐隊決起集会で俺が叫ぶ。
「スキルを使った瞬間取られてしまいます!
自分の足で、手で、体の瞬発力で相手を攻撃してください!
相手が魔族の技を使ってきたら、抵抗属性のある方が受け止めてください!
炎のブレスには土属性モンスター、氷の技を使ってきたらマグマ型モンスターです!
常に動き、お互いをかばい合い、隙を見て攻撃してください!」
「で、でも俺らゴブリンは体が小さいし……」
緑色の子供のようなモンスターが手を上げて発言する。
俺は続けて説明する。
「大丈夫です! 体格差やレベル差があろうとも、攻撃をするだけでも効果的です!
とにかく死角から少しでもダメージを与えてください!
隊列なんて組んではダメです! 横一列を焼き払うスキルなどがあるかもしれません!
あなた方は人間より優秀な生き物です! 自身を持ってください――――」
―――――――――……
モンスターにはこんな指示をしていた。
ここは異世界ではあるが、ゲームの世界ではない。
ここには人間の身体能力を遥かに凌駕するモンスターたちが生きている。
それぞれが考え、それぞれの戦い方がある。
無双系ゲームのように棒立ちしているキャラクターなんて存在しない。
数千体のモンスター全員が、無双系ゲームで言うところの"武将"だと思ってもらいたい。
いくら豊富なスキルを持っていても、勇者はそこに気がつけるかな?
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