被害者友の会
「ちょっと……ちょっと! 聞いてないよこれは!」
思わず叫んでしまった。
後日、魔王城の前の広場。キャッスルフォアコート的な場所。
ここに『略奪の勇者・被害者の会』メンバーが集まることになったが……
目に飛び込んできたのは、はるか向こうまで続くモンスターの大群。
その数、およそ5000体。
「え、えー! お集まりいただいた皆さん、ありがとうございます!」
拡声魔法を使って大きな声を出す。
後ろの方まで届いているんだろうか。
一番後ろには超巨大なモンスター[山亀]までいる。
いったい何のスキルを取られたんだ。
「恐縮ながら、この会の司会を任されました! 勇者討伐団長のタカトです!
本日は皆さんから[千の技を持つ勇者 ユウジ]についての情報を得たいと思います!」
近くにいる声の大きいモンスター達が次々と情報を教えてくれた。
あるモンスターは戦闘不可能レベルまでスキルを略奪された。
あるモンスターは生活に必要なスキルすら奪われた。
スキルを取られたことに動揺し、皆ほとんど戦わずに逃げてしまうらしい。
「俺の得意技、《ポイズンショット》が奪われたゲコ!
これでは舌を伸ばして攻撃するしかなくなったゲコ!」
そう発言したのはカエル型モンスター[ポイズントード]だ。
「私は《なかまをよぶ》スキルが奪われてしまった。
私達一族に伝わる、団結の証が……」
そう発言したのは泥で出来た人間の手型モンスター[ドロドロハンド]だ。
「はい……そうですね……なるほど、そういうパターンも……」
みんなの訴えを聞き、情報をまとめる俺。
遠くのモンスターには[烏天狗]の女の子がマイクを持って行ってくれた。
「私のこれを見てください。」
声の方を見ると、そこには髪の毛が蛇で出来た女性が立っていた。
サングラスをしている女性だが、それを外す。
まさか彼女は。
「あ! ちょっとまってそれは……え?」
クリンクリンのカワイイ目が見えた。
大人のお姉さんっぽい体つきだが、目が大きいだけで幼い印象が現れる。
「私は[メデューサ]と申します。私のスキルも奪われました。
しかしヤツは《石化の邪眼》を発動していません。」
確かに。
《石化の邪眼》は眼を見た相手を強制的に石にしてしまうスキルだ。
俺は勇者の目を見たが石になっていない。
つまりデメリットは自分で調整出来るって事か。
「……あ、えっと、あんまり見つめないでください。慣れてないので恥ずかしい。」
「ああごめんなさい。」
モンスター達の話を聞いてだんだん分かってきた。
略奪スキルはオート発動。近づいただけで盗られる事もある。
さらに調整も自由自在。
複数同時発動も思いのまま。
聞けば聞くほどチートに思える。倒す方法はあるのだろうか。
考えをまとめていると、とあるモンスターから意見が出てきた。
「団長様、もしかしてこの会のメンバーで攻めればヤツを落とせるのでは?」
「バカ野郎、スキルの使えない俺達が束になっても意味ねーだろ!」
「そうよ。私達のスキルで返り討ちにされるなんて嫌だわ。」
――――いや。
悪くない考えだ。
カエル男、泥の手、メデューサなどなど……
モンスターたちを目の前にして再認識した。
ここは「剣と魔法とモンスターの異世界」なんだという事を。
「団長様! 俺達はやる気です! どうかチャンスを!」
「……わかった。」
おおーっとモンスター達から声が出る。
「これから言う私の言葉をしっかり聞いてください!
今からここは[千の技を持つ勇者 ユウジ]討伐隊決起集会に変わります!」
モンスター達から歓声があがる。
今日のモンスターはかなり殺る気だ。
◆◇◆
「ぷがー!」「ぷがー!」
街の内部に、雑魚モンスター[ブタマン]が溢れていた。
露天商は店を閉め、冒険者や衛兵がモンスター駆除に追われる。
「こっちに二体いるぞ!」
「おい、一般人の避難を手伝ってくれ!」
[千の技を持つ勇者 ユウジ]も他の冒険者と同様、駆除を手伝っていた。
「珍しいですね……この街カリールは防御壁も高くモンスターは入れないはず。
いったいどこから沸いてきたのか。」
腕を組み、考えるユウジ。
そこへ市内放送が流れる。
『市内にいらっしゃる冒険者の皆様へお知らせいたします。緊急事態です。
すぐに東門へお集まりいただくようお願い致します。』
「緊急事態?」
ユウジは瞬足になるスキルを発動し、東門まで急いだ。
「おい、どういう状況か説明してくれ!」
モヒカンの体が大きい冒険者が叫ぶ。
東門には冒険者が数百人集まっていた。
そこにユウジも追いつき、混ざる。
「落ち着いて聞いてください。実は今、この街の監視塔から連絡が入りました。
モンスターの大群がこの街に向かってきているとの情報です。」
壇上に立つ茶髪の聖騎士が告げると、冒険者達がどよめいた。
「大群!? 大群って何体くらいだ?」
「衛兵達はどこいったんだ!」
「国防軍は、援軍は来ないのか?」
冒険者たちが口々に言う。
「街にモンスターが入りこんだので、衛兵は一般市民を安全な場所へ避難させています。
私達、聖騎士隊の援軍は……まだ時間がかかります。私は偶然ここに居合わせました。
モンスターの数は……おそらく5000体近くいるものと思われます。」
「ごご、五千体だって!?」
冒険者の中には弱音を吐く者も出てきた。
中には逃げ出す者も。
「皆様落ち着いてください! 少しでも多くのご協力が必要なんです!」
慌てて冒険者を留まらせようとする聖騎士。
「幸い、この街は近隣国でも屈指の強度を誇る《ウォールジャイアント》で護られています。
なぜモンスターがこの街を一斉に襲おうとしたかは理解しかねますが……
援軍が来るまで、籠城するしか手はありません。」
納得をしたのか、静まり返る群衆。
ここで逃げては冒険者の名が廃ると考える一方、あまりにも数が多すぎる。
はたして籠城で持つものなのか、心配になるのもわかる。
その時、いきなり手を上げて発言をする者がいた。
「籠城ではなく、攻めるのはどうでしょうか?」
赤い模様が入ったローブを着た若い男性、ユウジだった。
発言すると彼は群衆から抜け、壇上へと登る。
「私に良い案があります。皆さんにご協力頂けるなら、援軍を待つ必要無くモンスターを殲滅する事が可能です。」
「何寝ぼけたこと言ってやがる!」
「誰だよてめー!」
突然の行動と発言に、冒険者からヤジが飛ぶ。
しかしそこで聖騎士は何かに気が付き、尋ねる。
「まさかあなたは、[千の技を持つ勇者 ユウジ]様ですか?」
「ええ、その通りです。ご存知でしたか。」
冒険者には首をかしげている者もいたが、驚きの表情を見せる者もいた。
「まさか! あの千体のモンスターを一瞬で沈めたという伝説を持つ!」
「最近この近くに来ていると聞いていたが、まさか目の前にいたとは!」
「行ける! これは行けるぞ!」
集まった人たちは勇者のウワサを口々に語り、それが広まっていった。
何か確信を得た聖騎士が勇者と握手を交わす。
冒険者たちの士気が上がった。
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