灼け落ちた翼


 ローブを着た若い男性が、魔力を集めながら説明する。


「今から私が《魔光雷》を撃ちます。悪魔族の基本魔法です。

これで盾が割れたら、光の加護が無い普通の盾ということになります。」


「ああ! やってみろよ!」


 エルフの盾って光の加護があるんだ。

 ちょっと見てみよう。


「ステータス・オープン。」


【エルフの勇者っぽい盾】

 防御力:+110

 効果:これであなたも気分はエルフの勇者。

 剣撃くらいは防げます。


 あ。偽物だ。

 これは割れたな。


 若い男性に黒い魔力が集まっていく。

 体からは静電気のようにバチッと音が聞こえてくる。


「《魔光雷》ッ!!」



バゴォン!!



 彼の手から放たれた黒い雷は、盾を直撃。

 盾はパッカーンと割れてしまった。


「あ……あ……俺の盾が……。

お……お前何者なんだ! なぜ悪魔族の魔法が使える!」


 確かに。

 この男性、正義感も強そうだし、かなり強い魔法使いなのか?


「まさかモンスターなのか!?」


「そんなわけ無いじゃないですか。私は人間です。

ちょっと人よりスキルの数が多いだけですよ。」


「は!! 聞いたことあるぞ、この街に出没するローブの魔法使い!

まさか『千の技を持つ――――」


「これ以上騒いだら衛兵に通報しますよ?

このことは見なかったことにします。あなたも騙された側でしょうから。」


 そう言って男性は立ち去る。

 小太りの露天商はがっくりとうなだれている。

 俺は彼に気づかれない位置まで近づき、ステータスを展開する。

 もしかして彼は……


【[略奪の勇者 ユウジ]】

 レベル:37

 スキル:《スナッチ》

 詳細:近くにいる者の能――――


「え!?」


 目の前から急にステータス画面が消えた。

 何が起こった。

 何が書いてあった。思い出せ!


「へえ、君のスキルは相手のステータスを見る事が出来るんだ。」


「な……!」


 ローブを着た男性が近くまで来ていた。

 そして彼の目の前には、見慣れたステータスウィンドウが。


「鑑定スキル無しに相手のステータス覗き見なんて、あまりいい趣味とは言えないね。

あ、君も異世界転生勇者なのかい? ん? 魔王軍……」


 スナッチ……略奪……

 やばい。

 ヤバイヤバイ!!


「くそ!!」


「あ、ちょっと君。」


 逃げる。逃げる。全力で逃げる。

 人混みに入り、間を通り抜け、とにかく彼から逃げた。

 少しでも遠くへ。彼のどんなスキルが追い打ちをかけてくるかわからない。


「あ、タカトだ。見てみてー、ここ人が多いから食べ物の出店もたくさんあるの。

このパンケーキなんて中に……え、ちょっと!」


 のんきにパンケーキを食べるリリベルの手を引っ張る。

 そのまま更に遠くへ逃げる。


「ど、どうしたの。敵襲? ワープしようか?」


「ワープは駄目だ、魔法は使うな! とにかく走って逃げる!」


「は、はい。」


 俺達は路地裏に入り、裏通りに出てからさらに町外れへダッシュする。

 そしてこの街の高い防御壁の近くまで来たところで、魔界にワープする準備を。

 誰にも見られていないことを注意深く確認した。


「もうワープしていい?」


「ああ、今のうちだ。」


 なんとか追っ手は無いようだ。

 俺達は無事、魔界に帰ることが出来た。



◆◆◆



「あー……」


 魔王城のロビーのソファーに、だらんと横になる俺。

 やらかした。

 今回こそやらかした。

 俺、能力を奪われた。


「へー、あの街にそんな勇者がいたのね。」


 リリベルが腰に手を当てて俺の前に立つ。


「でも大丈夫でしょ、いつも通り作戦を立てて倒せるんでしょ?」


「いやその作戦がさぁ。立てるにはステータス画面での解析が必要でさぁ。

俺はもう無能力者よ? 雑魚以下のクズ人間なんだよー……」


 さらに全身の力が抜ける俺。


 略奪能力者。

 彼がまさかそんなチート持ちだと思わなかった。

 悪魔族の魔法を使っている時点で警戒するべきだった。

 迂闊に近づき、ヤツに俺のスキルを奪われてしまうとは。

 この失態はクビ案件だ。

 魔王軍を解雇されてしまう。


「何言ってるのよもう~。クビになっても私は手放さないから。

ほら、元気だして作戦考えましょう?」


「どうせ俺なんて家畜より役に立たないカスなんだー……」


「何を弱音吐いてるでござるか?」


 この喋り方は。

 ロビーの影になっている場所から、四天王カゲヌイが現れた。


「あ、カゲヌイさん。」

「カゲヌイか。いつからここへ。」


 相変わらず他人の前ではビシッとするリリベル。


「今、たまたま任務から帰ったところでござるよ。

それよりタカト殿に何が起こったでござるか?」


 俺は四天王の忍者に詳しく事情を説明する。

 すると忍者も困ったような顔をして腕を組んだ。

 いや、忍び装束で顔が見えないからそんな気がしただけだ。


「略奪の……千の技を持つ……聞いたことがあるでござる。」


「本当ですか、カゲヌイさん。」


「ああ。拙者の古い友人もスキルを取られたと言っていた。

被害者はかなり多かったはずでござる。」


 そうなのか。

 まあ悪魔の技も会得してたし、多くの魔物からスキルを奪った事は予測している。

 だからこそ、この世界の魔物では太刀打ちできない。


「被害者と一度会って話を聞いてみてはいかがかな?」


「そうね。タカト、被害者たちを魔王城の前に集めなさい。

皆で話し合って解決策を練りましょう。」


「お、おう。そうだな。」


 こうして『略奪の勇者・被害者の会』が行われることとなった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る