フィジカルとメンタル


「し、シロ団長?」


「んあー、どうしたのタカト団長。」


 後日。シロ団長の研究室。

 彼は完全に上の空だった。

 よほど今回の計画は自身があったんだろう。


「シロ、失敗は誰にでもあるものだ。タカトだって何度失敗したか。」

「おい言うなよ」


 リリベルも彼を元気付けたいのか、一緒についてきた。

 若干ディスられてる気がするが、今はシロ団長を励まそう。


「そうだよ、失敗から得られる物だってある。情報は得られただろ?」


「情報ねー、異世界勇者は強すぎるって事だけかな。」


 シロ団長が口を開けながらぼーっと答える。

 実際には肌が真っ黒で口が見えないけどそう感じた。


「いやいや、有力な情報は得られたよ。

城を攻めてる時、街の警備は手薄だったじゃない。」


 実は街中をモンスターに襲わせないようにしたのは、このためもある。

 混乱に乗じて街人のステータスを見まくった。

 その中に、何か攻略のヒントになりそうな人はいないかチェックしていた。


「じゃあ、今度は俺の計画に乗ってくれない? シロ団長。」


「計画? あの無限の勇者を倒せる計画があるの?」


「ああ。どんなやつにも弱点はあるってところを見せてあげよう。」


 第二回。

 悠久の国『フィフティーン』国王殺害計画がスタートした。



◆◆◆



 後日。ここは悠久の国。

 美しい女性の家臣が国王に報告する。


「国王様! ご報告します! 城内にまたしても魔王軍の侵入を許してしまいました!」


「魔王軍? 懲りないなあいつら。」


 国王は玉座から立ち上がり、家臣へ武器を持って来るよう命じた。

 そこへ別の女性家臣が王の間に入ってくる。


「国王様! 魔王軍がこちらへ向かっています! しかし……」


「ん? しかし?」


「話がしたい、との事です。」


「ほう。通せ。」


 女性家臣がドアを開ける。

 そこから複数の兵士が王の間に入り、左右の列を作って警戒する。

 その中を俺とリリベルが歩き、王の前まで辿り着いた。


「おまえは! 四天王の[絶望の七色ディスペアレインボウ リリベル]か!」


 女性家臣の一人が言うと、兵士や家臣達の腰が引ける。

 国王は動じない。

 リリベルは堂々と答える。


「いかにも。私は魔王軍の四天王だ。そして。」


「魔王軍 異世界人対応部・・・・・・・ 部長のタカトだ。ヨウタ君、よろしく。」


 片手を上げて、軽く挨拶をする俺。


「ん、お前人間か? 異世界人対応……もしかしてお前も異世界から来た人間か?」


 国王がしかめっ面で俺を見る。

 あきらかに嫌そうな顔だ。


「そうだよ。今は訳あって魔王軍に所属してるんだ。」


「ふーん。ま、勝手にすればいいんじゃない?

俺も魔王軍には興味無いし。自分の国のことで精一杯だよ。」


 剣を床につき立て、片手を腰に添える国王。

 余裕そうな表情で続ける。


「で、何の用? これ以上ちょっかい出してきたら潰すって言ったよね。」


「まあまあ。」


 俺は両手を前に出し、落ち着いてもらうようなジェスチャーをする。


「この国は君が作ったんだよね。すごいじゃん。

俺なんてこの前転生されてきたばっかりだけど、未だにこの世界に慣れてないよ。

ここまで出来るっていうのも才能だね。

内政は安定してるし戦争も無い。モンスターも滅多に攻めない……」


「この前攻めてきたじゃん。」


「あれは別の部署が独断で実行した行為だから。ごめんね。

もう完成した豊かな国だし、たまにはトラブルがあっても良いじゃない。」


「は? 何が言いたいのお前。」


 国王は剣を持ち直す。

 少しでも変な素振りを見せた瞬間、殺そうとしているのか。

 あの一瞬で心臓を取られた人造人間のように。

 俺は緊張しながらも、その素振りを見せないよう注意した。


「わかったわかった、結論から言おう。

……俺と一緒に、現実世界に帰らないか?」


 彼の動きが固まった。

 しかしすぐ怒りの表情で言葉を返してくる。


「何言ってんだよ! 何で俺が帰らなきゃならないんだ!」


「この世界に来て三年、君は立派に成長した。

いくつもの冒険を経験して、ついにはこんな大国を作り上げたじゃないか。

豊かな国になって、もう手を加えるところは無い。

つまり……エンドロールが流れても良い頃じゃないか?」


 ゲームや大河ドラマだと「永遠に語り継がれるだろう」的なところまで来ている。

 彼の物語はもう終わっているはずだ。


「でもこの国には仲間が、友達が! 妻だってたくさんいるんだよ!」


 妻がたくさん!? 出たよハーレム。

 家臣達も女性だし多妻制だし、力を持った異世界勇者はハーレムを築きたがる。

 まー……予想通りではあるが。

 よし、ここからが作戦の肝だ。


「確かに、羨ましいよ国王は。色んな女性を抱けて。

でもさー、みんな満足してるのかなぁ。いやいやヤッてるかもしれないよ?」


 家臣の一人が割って入ってくる。


「何を言う! 国王は……あっ。」


 しかし失言に気がついたのか、口を押さえて顔を真っ赤にしてしまった。

 国王が続けて発言する。


「お前に何がわかる! 本人たちの勝手だろ!」


「そうかなぁ。不思議に思わない? 妙に周りの人間が持ち上げてくることに。

みんなそろって、さすがヨウタ様です! 素晴らしいお考え! なんて。

国民みんなが王様を好きだと思うか? 中には恨んでる人もいるかも……」


「そんなわけ……」


 王の口が止まった。

 何か思い当たる節があったのか。

 周りの兵士や家臣の顔を見る。

 こういう場合、何故か冷たい視線に感じてしまう。

 俺は口の横に手を当て、少し声のトーンを下げて勇者に伝える。


「元々さ、クラスで虐められて不登校だったでしょ?

それで自殺してこの世界にやってきたわけだ。

チートを貰って自身がついたのかもしれないけど、人が嘘をついてるかなんて見抜けないよ。

俺は社会人だけど、俺ですら他人の考えなんてわからない事だらけだ。」


 事前に見た彼のステータスを参考に、畳み掛ける。

 無限の勇者は口元に力が入り、手が震えてきた。

 俺はさらに続ける。


「ましてや力を持つものなんて利用されてなんぼだよ。

でも君はここまで大きな成果をあげられたんだから、大したもんだ。

それが誰かの陰謀だったとしてもね。」


「はぁ? デタラメ言うなよなんだよ陰謀って!」


「持ち上げて持ち上げて、一国の王になってもらう。

そしてここまで大きくなったら、もう王は必要ない。

あとはポイっと捨てられるだけかもね。」



バキィ!



 王は怒り床を踏みつける。

 すると大理石で出来た綺麗な床に亀裂が走った。


「バカが、俺を殺せるやつなんてこの世界にいねーよ!」


「あー、この世界にはいないよね。

でも病気や事故はどうだ? 対応出来ないでしょ。」


「たとえ隕石が降ってきても死なねーから!

病気だって魔法があればすぐ治るし!」


「……俺らの世界の病気でも?」


「……は?」


 王が眉をひそめ、俺の言葉を疑った。

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