天元突破ドリルの倒し方


「よお、螺旋の勇者。」


 『炎の紋章石』の宝箱を開けようとした勇者に声をかける。

 勇者は振り向く。


「んー? 誰だお前は。」


「俺は魔王軍 勇者討伐団 団長のタカトだ。

この惨状、よくもやってくれたな。」


「は? 魔王軍? 討伐? 何言ってるんだお前。」


「俺はお前と同じ異世界転生者だ。訳あって魔王軍に所属している。」


「だとしたらお前、女神様に魔王を倒せって言われただろ。裏切ったのか?」


 裏切った……と言われればそうかもしれない。

 しかし裏切ったのは俺だけじゃない。

 異世界転生者があまりにも魔王を倒さない為に、女神は消えてしまった。

 女神様には申し訳ないが、俺には俺の訳がある。


「そんなことはどうでもいい!『炎の紋章石』を何に使う気だ!」


「何にって……この国の王に認めてもらうんだよ。

王妃エーリアを守るって決めたんだ!」


 ごめんちょっとストーリーが見えてこない。

 よくわからないけど、みんなそれぞれ理由があるのね。


「ああ、そうかい。そうだとしてもこの代償は高く付くぞ、勇者。

みんなの頑張りを踏みにじった、俺はお前を許さない。」


「は、だったら何だ。俺を倒してみるか異世界転生の勇者よぉ。」


「ああ! 行くぞ! ステータス・カッター!」


 なんとなく技名を叫んでみる。

 俺は手から手裏剣のように大量のステータス画面を展開。

 クルクル回して相手の方に向かうよう操作する。

 相手は逃げようともせず、体にヒットするが……


「くそっ、ダメか!」


 スルスルっと体を通り抜けてしまう。

 やはり俺の特殊なウィンドウでも『螺旋力』とやらでいなされてしまうようだ。

 相手にまったくダメージを与えられない。


「何だよその攻撃! そんなんで俺の『螺旋力』が突破できると思ったのか!?

今度はこっちからだ! 穿け、俺のドリル!!」


 彼の指から大量のドリルが飛んでくる。

 それを走ってかわす俺。

 ステータス画面を足元に展開し、足場の悪いボスの部屋を駆け回る。

 当たりそうになったら目の前に画面を出し、壁蹴りのようにして方向転換。

 うまく立ち回る。


 あ、でもやばい、久々に運動したから体力が保たないぞ。

 もう少し時間稼ぎしたいのに。


「逃げるな!」


 バテたところを巨大なドリルが襲ってくる。


「ステータス・オープン!!」



ギュイイイイイイイ!!



 ステータス画面でドリルを止める。


「何だその盾は! くそ、俺のドリルを止めるなんて!

まだまだ行けええええ!!」


 もう何個か追加で巨大ドリルを放って来る。

 もう少しステータス画面を広げ、対応する。



ビキッ! パキッ!



「え! マジかよ!!」


 ステータス画面にヒビが入ってきた。

 このステータス画面は女神空間の性質を持つ、異界の裂け目のようなもの。

 それを壊すって、このドリルは時空をも貫く天元突破力があるって事か?


「ステータス! 多重展開!!」


「無駄だ! 全部、全て俺のドリルで突破してみせる!!」


 一つ、また一つとドリルが増えていく。

 多重展開したステータスはもうバキバキに割れてきた。


「そんなんで守れると思ってるのか! 俺を誰だと思ってやがる!!!

うおおおお!! 百連ッッドリルゥゥウウウ!!!」



ギュゴゴゴゴゴ!!!

バキバキバキバキッ!!



 まずい!

 これは!

 交わしきれないかもしれない!


「タカト危ない!」



ガゴゴゴゴゴゴーーーーーーー……



 ステータス画面が割れる瞬間、リリベルが俺ごと緊急回避。

 ドリルはそのまま天を向き、ダンジョンの壁をぶち抜いていった。

 ぽっかり、空まで見える穴が空いてしまった。


「大丈夫!? タカトぉ!」


 何故か泣きそうな顔をするリリベル。

 ペットがトラックに引かれそうになった感じだろうか。


「いてて、大丈夫だ。それより準備はできたんだな。」


 頷くリリベル。


「はぁ、はぁ、お前に感謝するよ。」


 肩で呼吸をする螺旋の勇者。


「お前のお陰で、ドリルを百連まで出せることがわかった。」


「ああ、それは良かったな。」


 リリベルに抱きつかれながら返事をする俺。


「だけどな。これで終わりじゃねぇ!!

今度は十倍、いや百倍のドリルだあああ!!」


 勇者が気合を入れ始める。

 よし、今だ!


 俺は右手を大きく上げる。

 これが合図。



ガコン



 地面が無くなる。


「なっ……!」


 勇者はそのまま重力に従い、下に落ちていく。

 下には煮えたぎるマグマが待ち構えていた。


「なにぃぃぃぃ!!」


 ダンジョンの初歩的な罠である「落とし穴」。

 一晩でビフォーアフター出来るような匠のモグラ達に、即興で作ってもらった。

 人間いきなり地面が無くなると、とっさの判断なんて出来ないはずだ。

 さらに「攻撃を受け流す」能力とは言っても足場があっての話。

 空中に浮く手段が無いなら、受け流しようが無い。


「ま、魔法道具! 《脱出ロー……」


道具破壊アイテムブレイク


 勇者がポケットから魔法道具を出すが、速攻でリリベルに打ち消される。


魔女わたしの前で使おうなんて百年早いわよ。」


「うおおお! まだだ! 横壁にドリルを撃ち込むッ!!

反動で脱出だ! うおおおおお、螺せ――ガハッ、ゴホ」



ドボン! ジュゥ……



 螺旋の勇者は溶岩に落ち、一瞬にして炭になってしまった。


 俺とリリベルは警戒を解かない。

 しかし元勇者だった黒い物体は溶岩に沈んでいった。

 あっけない終わりだったが、螺旋の勇者を倒せたようだ。


「え? 終わり? 何で最後ドリルしなかったの?」


 足場の無いボスの部屋で、俺はリリベルに抱きかかえられている。


「火山ガスだよ。あんな気合い入れて吸い込んだら人体に即影響出るわ。

ガスは自然の現象だからね。いくら螺旋力でも"受け流す"ことは出来なかったみたい。」


 まあ、モンスター[ガスクラウド]たちにちょっと多めに手配してもらったが。

 そうリリベルに指示したのに気が付かなかったのだろうか。


「で、ここにいると俺も具合悪くなってきたから外出ない?

あと俺、自分で空中に足場用意できるけど。」


「まあ良いじゃないの。このまま外へ向かいま~す。」


 螺旋の勇者が開けた穴から、俺らはふよふよと外へ飛び去った。

 こうしてまた一人、異世界転生勇者の討伐は達成された。




VS 螺旋の勇者 おわり



貫通・受け流し系能力者の倒し方:

受け流せない自然の力を借りる

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