第4話 VS レベルの勇者

巨人娘と泥棒野郎


「モグモグ……モグモグ……んー?

モグモ……! んっ……んーーー。」


「うっ……はぁ、はぁ、あーー。」


「んー、ごっくん。んべぇ。」



ダバァ



 巨大な手のひらに出される全裸の俺。

 全身よだれでベトベトだ。

 木々が遥か下に見え、空が広い。

 足元から巨大な目が俺を見つめていた。


「あ、ブルブルしてるー。」


「ああ、これはヤバイ。癖になりそうだ。モグモグマッサージ。」


 20メートル級巨人族の彼女の口に、俺の体を含んでもらった。

 口の中を動かしてもらい、マッサージを受ける。

 腰痛とか日頃の疲れとかナニとか一気に吹っ飛んでいった。


「超ーー気持ちよかった。」


「本当? 嬉しい! 団長さんに歯を立てないの難しかったんだから!」


「ありがとう。またお願いするかも。」


「じゃあついでに……もう一つの口でもマッサージしてあげようか?」


「もう一つの口? ……なるほど、それはナイスアイディアだ。

それじゃあ生命の神秘を探検しに行こうかな。」


「白昼堂々何やっとんじゃ巨人娘えええ!!」


「り、リリベル様!」


 リリベルが飛んできて大声を出した。

 驚いた巨人に落とされそうになる。

 俺は立体機動出来なくても空中に足場を作れるが、ちょっと焦った。


「いくら巨人だからってこの露出プレイはレベル高すぎよ!

遠くから丸見えなんだよ!」


「おー、リリベル。どうしてここに?」


「まったく……そうそう、またダンジョンマスターに呼ばれたのよ。」


「へー。また視察?」


「それがちょっと様子がおかしくて。一緒に来てくれる?」


 質問の答えを聞かずに、ベトベトで全裸の俺を小脇に抱える。

 そのまま森の上空をふよふよと飛んでいった。

 これはなかなかレベルの高いプレイだ。



◆◆◆



「こちらです! 四天王様団長様!」


 イカ男みたいなモンスターが俺に手紙を見せてくる。

 そこにはこう書かれていた。


『今夜9時 そちらのダンジョンで守られている

《人魚の涙》を頂きに参上する 怪盗の勇者・カイト』


 まてまて、俺参加する物語間違ってないか?

 ここはよくあるRPG風ファンタジーの世界観だったよな。

 これって……


「予告状?」


「そうなんです団長様! 今日の朝、門番が拾ったんです!」


 ここは水が豊かな国の外れに位置する、霧のダンジョン。

 ダンジョンの門番が朝、掃除をしていたら門に挟まっていたらしい。

 昨夜からあやしい人影は見ていないと言っている。

 何かのチート能力だろうか。


「この『怪盗の勇者』ってのは?」


「この国には、そう呼ばれている異世界勇者がいると聞きます。

数々の人間の宝を盗む泥棒だって聞いてましたけど。

まさか我々魔族の宝まで盗みに来るとは!」


 ほお、怪盗気取りってわけか。

 まあダンジョンの宝を奪うってのは、勇者としては間違ってないけど。

 またトラップを無視して宝だけ取りに来るようなやつだと許せないな。


「よーし。わかった。このダンジョンで返り討ちにしてやる! 作戦会議だ!」


「はい! 了解しました!」


 霧のダンジョンメンバーと、俺とリリベルで作戦会議が行われた。



◆◆◆



「さあ、総員配備に付け! 約束の時間まであと少しだ!」


 このセリフ、どう考えても怪盗モノのライバル警部のセリフだよな。

 俺は何と戦ってるんだろう。


『総員、定位置に付きました!』


 [偵察ヤドカリ]から送られてくる魔法道具映像を見る。

 今のところダンジョンに異変はない。

 いったいどんなチートを持っているんだろう。

 勇者討伐団なのに情報を持っていなくて申し訳ない気持ちがある。


「ん? ……おい、映像が白くなってきたぞ。どうした!」


 まさか。

 怪盗モノによくある「眠らせる煙」とかじゃないよな。


『大丈夫です団長! このダンジョンは定期的に濃霧が発生するようになってます!』


 そうなのか。

 さすが霧のダンジョン。

 ……って!


「おい! なんで今日は切っておかないんだ! これじゃあ監視出来ないだろ!!」


『す、すみません、今日は切るように言っておいたんですが……』


 まさか!


「しまった! ボスの部屋、ボスの部屋はどうなってる!

応答しろ、深淵魔団幹部[デスロブスター]!!」


『霧が……濃……あ……う!……』


 ザリガニ的なボスモンスターの通信から苦しそうな声が入り、途絶える。

 ダンジョンに設置されているこの隠し部屋にも少し霧が入ってくる。

 くそ、勇者は現れたのか!?


『団長! いました! 異世界勇者です! 私が足止めして……うっ!』


「おい、返事をしろ、[ドクギンチャク]!」


 何だ、何が起こってる。


「タカト、これじゃない? ここに映ってる人!」


 リリベルが指した魔法道具を見る。

 確かに人影が動いているのがわかる。

 だが、俺のステータスウィンドウが反応しない。

 霧に映った影なのか?

 ステータスを覗くには、せめて本人の姿を確認しないといけない。


「よし、このエリアだな。ちょっと行ってくる」


 ぐいっと、腕を掴まれた。


「タカト、戦闘苦手でしょ? 前に出すぎだよ。私が行くわ。」


 リリベルが隠し部屋を出ようとする。


「リリベル、でも……」


「大丈夫、私は四天王よ?」


 そう言って、勇者がいると思われるエリアに行ってしまった。



◆◆◆



『タカト、聞こえる? 見える?』


「ああ、見えるよ。」


 リリベルと魔法通信を繋いだ上に、視界ジャックをさせてもらった。

 これで勇者に遭遇した時、ステータスを見ることが出来る。


「さっきのエリアの次がここだから……」


 急いで霧を除去したため、視界はクリアになってきた。

 しかしいつの間にか侵入していた勇者を捕らえることが出来るのか。


「私のステータス見たでしょ? 運はいいのよ、運は……ほらいた!!」


 マジだ。

 真っ黒いジェントルマンみたいなスーツを着た軽装備の男性がいた。

 リリベルの運のステータスは見てないが、確かに運はいいみたい。


「おや? やれやれ、見つかってしまったみたいだね。

やはりダンジョンでお宝を奪うには、ちょっと広すぎるかな。」


 イケメン風の作り声がうざい。顔はそんなでもない癖に。

 異世界にそぐわないそのスーツも浮きまくりだ。

 ……俺も黒いビジネススーツを着てるけど。


「見つけたわよ。コソコソ隠れた泥棒さん。

私に見つかったのが運の尽きみたいねぇ。私は四天王のリリベル。」


「ほう……四天王か。」


『リリベル、気をつけろ!』


 俺はリリベルに忠告しつつ、ステータスを展開した。


【[レベルの勇者 カイト]】

 レベル:42

 スキル:レベル1デス

 詳細:レベルが1の倍数である物を即死させる。

 また、副産物としてあらゆる「レベル」を測定できる。


「はぁ!? バカ、1の倍数とか倍数の意味無いだろ!! リリベ――――」


『うぐっ……』


 リリベルの視界が消えていくのがわかる。


『おやすみ、四天王さん――』


 テレパシーも途絶えた。


「リリベルーーーー!!」

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