壁抜けチート


「ここの温泉まんじゅう美味しいわね。モグモグ。」


 翌日。

 温泉まんじゅうを食いながらダンジョンへ向かう俺ら。

 リリベルは魔法で浮遊して。

 俺はステータス画面をスケボーのようにして、山道上空を飛んでいた。


「でもこの町を制圧しちゃったら食べれなくなっちゃうわね。」


「町民をアンデッドにすればいいじゃん。」


「えー、腐ったまんじゅう出されそう。あ、寄生虫で操るとか?」


「厨房に虫を入れたくないなぁ。」


 そんなことを言いながらダンジョンに到着。

 あれ、入り口が豪華になってる気がする。


「四天王様団長様! お待ちしておりました、どうぞご覧ください!」


「どれ、あなた達の成果、見せてみなさい。」


 そう言って扇子を広げてパタパタするリリベル。

 これは温泉宿のおみやげコーナーで買ってきたものだ。


「土竜さん、お疲れ様。期待してるよ。」


 俺達はダンジョン内部に入る。


 ……なんということでしょう~!

 あれだけ歩きづらかった洞窟がしっかり舗装されています。

 壁の色や模様を統一し、既視感で迷わせる造りになっています。

 スイッチに乗せる岩にも匠の彫刻が施され、そこに世界観が生まれました。


「あそこの砂時計を回すと、足場が動くんです。

これで一定時間は向こう岸まで渡ることが出来ます。」


「おおお! いいねいいね!」


 テンションの上がる俺。ちょっとギミックに凝りすぎた気もするが。

 どちらかと言うとアクションRPGのダンジョンみたいになってしまった。

 リリベルが耳打ちしてくる。


「……ねぇごめん、私楽しさがさっぱりわからないんだけど。」


 まあこういうのはRPGを作~るゲームが好きじゃないとわからないだろう。

 冒険者たちを魅了するダンジョンを作り、少しでも楽しんで死んでもらいたい。

 そういうロマンをリリベルに伝えた。


「中ボスの部屋にもこだわりを入れました。

部屋に入ると岩雪崩が起きて戻れなくなるんです。

そして中ボスを倒すと……おーい、やっていいぞー!」



ゴゴゴゴ……ドバァァァ!!



 溶岩が川のように流れてくる。

 それが雪崩れた岩を押し流してしまった。


「なるほど! いい演出だよ!」


「ありがとうございます!」


「中ボスは彼のまま継続だね。」


【ワイズダンジョン 中ボス[クリスタルゴーレム]】

 レベル:49

 スキル:魔法透過

 詳細:あらゆる属性の魔法攻撃が無効になる。

 しかし魔法道具炎の勾玉を使われると火属性になり、水属性が有効になる。


「この《炎の勾玉》って?」


「もちろん、隠し通路の宝箱にございます。」


「さすが!」


「では溶岩の川は地下三階まで続いています。

骨の船に乗っていけますが、別のルートで行きましょう。」


「いや大丈夫。」


 俺は大きなステータス画面を水平に展開。その上に乗った。


「じゃあこれに乗って行こう。」


「は! ありがとうございます!」


 ステータス画面の動く足場で、溶岩の川を下る俺ら三人。

 最後のステージ、ボスの間に辿り着いた。


「そういえばボスって誰が担当するの?」


「はい、ワタクシが担当させていただきます。

ここで巨大化して待ち受けまして、自慢の爪で冒険者を切り裂きます!」


「巨大化ってとこが好きじゃないけど……そうか。

土竜隊隊長、頑張ってくださいね!」


「はい、かしこまりました!」


「私からはこれを授けよう。」


 そう言ってリリベルは土竜隊長に何かを渡す。


「これは……丸薬ですか?」


「そうだ。魔術を研究している彩魔術団の団長が作った秘薬だ。

キメラ化の魔術を応用して腕をコピーする事が出来る。切り札として使うが良い。」


「いいねいいね! 体力30%以下で、厄介な爪攻撃が倍増してくる!

リリベルも分かってきたじゃない~」


 リリベルがお土産の扇子で顔を隠す。

 しかし口元がニヤけているのがわかる。


「はい、ありがとうございます!

これを使わずに冒険者を倒せるよう精進いたします!」


「あー、で、このダンジョンはいつ頃リリース予定なの?」


「はい、準備は出来ておりますので、いつでも開放できます。

現在ここへ来るための『地熱山道』を死守していますので、そこの兵を撤退すれば。」


 あ、そうなんだ。

 ここへ来るときは道なき道を飛んできたから分からなかった。

 なんかドンパチ聞こえるなーと思ってたらそういうことか。


「よし、じゃあ準備ができ次第リリースだ。

最初の犠牲者おきゃくさまが来るまでここで待機してて良い?」


「はい、どうぞ!」


 俺とリリベルは地下三階・ボスの間の横にある隠し部屋に待機した。




◆◆◆



「タカト、お茶が入ったわよ。」


「ありがとう。」


 隠し部屋でお茶を飲む俺ら。

 この部屋は休憩室として使われていたようだ。

 お茶菓子や給湯器がある。


「なかなか来ないわねぇ。」


「山道にいた兵が強くて近寄れないんじゃないかね。」


 [偵察コウモリ]が魔法道具で入り口の映像を見せてくれる。

 全然人が来ない。

 ま、暇だからもう少し待つか。


 そう思ったときだった。


「たた隊長ー! 大変です!」

「どうした[マグイモリ]!」


 何かボスの間から声が聞こえる。


「出ました! 異世界勇者が出ましたぁ!」


「何だって!」


 それを聞いた俺はすぐ休憩室を出る。

 異世界から転生した勇者。この地域にも存在していたのか。

 ボスの元に駆け寄り、モンスターに話しかける。


「本当かい!? ええっと」


【[マグイモリ]】

 レベル:32

 体が溶岩でできたイモリ。


「はい! 仲間からの情報です! すごい勢いでこのダンジョンへ近づいています!」


 普通の冒険者とは明らかに違う能力、魔力、風貌。

 魔王軍には異世界勇者の悪名が知れ渡っており、モンスター達はすぐ気が付くという。

 今回も異常なまでの強さからそう判断されたらしい。

 今度はどんな能力持ちだ?


「タカト!」


 リリベルが叫ぶ。

 手には遠隔地の見える魔法道具が。

 映像には一人の男の子が映っている。


「仲間の[偵察コウモリ]から得た情報ですと、こいつに間違いありません!」


 イモリ型モンスターが喋る。

 そうか、こいつが勇者か。

 様子を見ようと思ったら……


「はぁ!? こいつ!!」


 思わず叫んでしまった。

 勇者は手から巨大なドリルを発生させる。

 それをあろうことか壁に突き刺し、貫通させた。

 ドリルはどんどん進み、地下一階への階段が丸見えになってしまった。


「はあああ!? こいつ、バカ野郎、こいつマジ、はあああ!?

ダンジョン壁抜けとかチートすぎるだろふざけるなおい!!」


 最悪だ。

 あんなに皆が頑張って作ったダンジョン。

 それを開始一発目でいきなり壊される。

 俺は助言しただけだが、それでも涙が出そうになってくる。


 地下二階に行った勇者は、そこでもドリルを放った。

 下が針の山になっている動く足場ゾーンも、柱を崩し橋にして渡った。

 中ボスの間には目もくれず、溶岩で貫通予定の場所を自前のドリルで開ける。

 地下三階に降りてくる。


「まずい、ここに来る。」


「ふん、では私が相手しようじゃないか。」


「いえ、待ってください。」


 リリベルを静止する土竜のボス、ドラーク。

 目が真剣だ。


「私にさせてください。ここは私のダンジョンです。」


「そうか……よしわかった、健闘を祈る!!」


「はっ!」


 俺達は急いで隠し部屋に戻る。

 正直土竜では歯が立たないだろう。

 しかしそれでも彼は戦うと言っている。

 だったら俺が出来るのは、今のうちに情報を集めることだ。



ボゴォ!



「おうおうモグラさんよぉ、こんな暗いとこに閉じこもっちゃって。」


 異世界の勇者がドアを破壊して入ってきた。

 年齢は高校生くらい。髪はツンツンしているが大人しそうな顔をしている。

 俺は隠し部屋からこっそり伺う。


「さっさと『炎の紋章石』を出してもらおうか。

さもないと俺のドリルがお前を貫くぜ?」


「ステータス・オープン。」


【[螺旋の勇者 アツヤ]】

 レベル:49

 スキル:螺旋力

 詳細:螺旋の力により、あらゆる物を破壊する。

 また、螺旋力を身に纏うことですべての攻撃を受け流す。


 なるほどよくわからん。

 何だ螺旋力って。

 とりあえず破壊の力と受け流す力があるということはわかるが……。


「貴様……ダンジョンを破壊して、ただで済むと思うなあああ!!!」


 土竜が巨大化していく。

 五メートルを超え、ボスと呼ぶにふさわしいサイズになった。


「ドリルだと? 私のドリルとどっちが強いか試してみるが良い!」


 そう言うと土竜の腕が回転した。

 あ、爪で攻撃すると思ったら回転するのか。

 さあドリル対決はどっちが勝つのだろうか。


「ぐわああああ!!」


 勇者が銃を構えるように人差し指を出し、そこから小さなドリルが発射される。

 それは土竜の爪を粉々に破壊し、片腕を吹き飛ばしてしまった。


「ぐううう! まだだ!」


 土竜は黒い丸薬を飲み込んだ。

 すると土竜は震え、腕が一本、また一本と生えてきた。


「はぁ、はぁ、限界を超え、腕を五本増やしてやったぞ!

これで貴様は穴どころか木っ端微塵だ! くらえええ!!」


 巨大な土竜が勇者に襲いかかる。

 しかし、勇者が叫ぶ。


「穿け! 俺のドリルッ!!」



ドリュリュリュ!!



 両手から発射された勇者のドリルは、土竜を貫通していった。

 さらに回転力は収まらず、巨体を粉々に引き裂いた。


「グゥ……無念……」


「くそっ、土竜が……」


 黙って見ていた俺だったが、やりきれない。

 誇らしげに残骸の上を歩く勇者。

 まずい、こいつをどうにかしないと。


「ええっと、説明してる余裕はない、リリベル!」


「はい!」


「これを皆に伝えてくれ!」


 ステータス画面に俺のステータス……今考えていることを表示した。

 そしてこの世界の文字に変換。

 モグラたちへの指示だ。


「え、私が伝えるの?」


「頼んだよ。」


「ええー、ちょっと!」


 戸惑うリリベルをよそに、俺は隠し部屋を出る。

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