第3話 VS 螺旋の勇者

スライム娘とダンジョン


ヌプッ、ヌプヌプ……



 ゲル状の液体に足から入る俺。

 ここは俺が居候している、魔女の館の風呂場。

 今日はスライムさんに来てもらった。


「お、おおお~、この感覚は新鮮だ!」


 浴槽を目一杯スライムで満たす。

 そこに全裸で浸かる。

 まるでゼリー風呂、とてももったいないことをしてる気がする。


「あー、そこそこ、いいねその調子で。」


 さらにスライムさんには腰のあたりを固めてもらい、マッサージしてもらう。

 スライム風呂に入りながらマッサージチェアに座っているようだ。

 腰から背中にかけて、固い触手でズンズンしてもらうのが気持ちいい。


「だんちょーさま、温度はどうですか?」


「熱すぎず温すぎず、半身浴にちょうどいいくらいの温度だね。

腰痛持ちだから本当助かるよ~」


 スライムの水面から人型の上半身が出てきて、俺の様子を伺う。

 ちなみに女性型だ。

 彫刻のように目鼻立ちも形成され、半裸の女性をしっかり再現できている。

 突起やらなんやらもあり、質感まで伝わってくる。


「ああん、だんちょーさまのエッチぃ。」


 体の一部をつまんでみた。

 グニュッと潰れて掴めない。

 そうか。弾力性までは再現出来ないのかな。



ズボボボ



「ん、ああ、ちょっとだんちょーさま……」


 体の一部を押しつぶすと指が入ってしまった。

 子供の頃さわったスライムのおもちゃと同じ感触だ。指に吸い付く。


「だんちょーさま、それ以上は……」


 スライムの表情が艶っぽくなる。

 ズボズボ出し入れしてみるが、触感あるんだろうか。


「あ、だんちょーさま、だんちょーさまも形が変わってますよ。」


「あ。本当だ。じゃあ俺の変形するスライムもマッサージしてもらえるかな。」


「はい、喜んで~」



ガラガラバタン!!



「コラァ! スライム娘ッ!!」


「はいいい? リリベルさまぁ!!」


 浴室のドアを勢い良く開け、リリベルが入ってきた。

 スライム娘は溶けてしまい、スライム風呂に戻ってしまった。


「んー、どうしたリリベル。」


「どうしたじゃないわよもう!」



ズボボボッ



 リリベルが俺の両脇を抱え、スライム風呂から引き上げた。


「これからダンジョンの視察に行くから、タカトも一緒に行こう?」


「ダンジョン? いいね、面白そう。」


「よし、じゃあ早速出発ね!」


 スライムでベトベト全裸の俺を、軽々と小脇に抱える。

 そのまま風呂場を出ようとする。


「ちょっとまって、もう一度風呂に入らせてくれ。」


「今入ったじゃないの。もう。」


 俺達は準備をして視察対象のダンジョンへ向かう。

 目的地は人間界にある山、「ワイズ火山」だ。



◆◆◆



 人間界魔王軍拠点より南西部に位置する大きな活火山。

 そこの内部に作られたのがこの「ワイズダンジョン」らしい。


「いやはや! お待ちしておりました、四天王様団長様!」


 ダンジョンに着くと現地のモンスターが出迎えてくれた。

 モグラのような見た目だが、鱗がある。

 ぱっと見ドラゴンのようにも見えるモンスター。


【魔王軍 大地竜団 幹部[土竜 ドラーク]】

 レベル:54

 スキル:鉄爪生成


「ああよろしく。ここがダンジョンか、すごいなぁ。」


 内部を案内される。

 ダンジョンは基本的には洞窟になっていた。

 ところどころ暗い部分があるが、ゴブリン達がせっせとヒカリゴケを配置している。

 壁や天井ではモグラの怪物が作業している。

 まだ完成には至ってないんだろう。

 リリベルが質問する。


「ここは何を守っているのだ?」


「はい、最近手に入れた『炎の紋章石』があります!

これに釣られた冒険者共を排除するのがこのダンジョンの役目です!」


 四天王の問いに土竜が答える。

 そうか、ダンジョンってゴキブリホイホイ的な役割だったんだ。

 土竜が続きを案内する。


「入り口からしばらく進むと、分かれ道があります。

この先には宝箱があります。中身は大したことないですが、これもエサです。

ああ、でもそこに見える宝箱はミミックですので安心してください。」


 人食い宝箱ミミックが口を開け、ぴょんと跳ねて挨拶してくる。


「こちらはスイッチです。人間共の体重では押せないので、あの岩を使うようになってます。

このドアの鍵は向こうの宝箱に入ってます。

本当はドアを開けたら岩が転がるようにしたかったんですが、予算が……」


「うん、まあ予算内に収めるのも大切だよね。」


「ありがとうございます。」


 地下二階に案内された。


「ここが中ボスの部屋です。一度入ったらオートロックが働くようになってます。

中ボスには土竜隊でも随一の防御力を誇る[クリスタルゴーレム]を配置しました。」


「ゴゴゴォ!!」


 綺麗な石でできたゴーレム。

 ガラスみたいで割れそうだけど。


「そして中ボスを倒したらボスの部屋の鍵が手に入ります。

地下三階が決戦の間です。ご案内します。」


 地下三階まで来て気がついた。


「ん、ちょっと待って。このダンジョンの地図はある?」


「はい、持ってこさせます。おーい、あそこの宝箱からマップ持ってきてくれ!」


「どうしたの? タカト。」


 リリベルが耳打ちしてくる。

 ちょっと引っかかることがあった。

 持ってきてもらったマップを広げて確認する。


「やっぱり。いいかい、土竜さん。こことここに鍵穴があるだろ?」


「はい。」


「こっちに行くときに鍵を持って戻ると、ここまで行けちゃうんじゃないか?」


「あ、ああー! そうでした申し訳ございません!」


「いや。気がつけて良かったよ。あと……」


 上司が俺にダメ出しをしまくる気持ちがわかったかもしれない。

 冒険者の立場に立って見渡すと、もっと改善できる場所がある。

 それを伝えたかった。


「……はい、わかりました! 今の指摘を踏まえ、改善してみます!」


「お願いね。いつまでに出来そう?」


「えー、明日、明日には出来上がります!」


「え? 明日!? あ、はい、無理しすぎないでね。」


 徹夜の突貫工事でもするつもりなのか。

 でも彼らのやる気を削ぐわけにもいかないし。

 そうか、こうしてブラック企業は出来上がるんだなぁ。


「じゃあまた明日見に来るよ。」

「楽しみにしているぞ。」


 俺とリリベルは挨拶をして、その場を後にする。

 土竜やゴブリンたちに見送られ、俺らはダンジョンを出た。


「さーて、明日まで何してようかな。」


「タカト、麓の人間の町に温泉があるらしいよ! 入っていこうよ!」


「人間の……バレない?」


「ふっふっふ。私を誰だと思ってるのよ。認識阻害なんて容易いわ。」


 こうして俺らは麓の町に潜入。

 温泉旅館に泊まり、一時の出張旅行を楽しんだ。

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