敵か味方か、謎の道化師


 ここは魔王城、王の間。

 何本もの柱が立ち並ぶ、薄暗くて広い空間。

 奥の階段の上には豪華な椅子が設置され、そこだけ光が当たっている。


「久しぶりだな、俺ら四天王が揃うなんてよ。」


【魔王軍 四天王[暗黒聖騎士セイントネスナイト ジオウ]】

 レベル:92

 スキル:ダーク・カタルシス


「何か良からぬことでも起きたでござるか。」


【魔王軍 四天王[辞世の忍ラストニンジャ カゲヌイ]】

 レベル:86

 スキル:陽炎


「我を呼ぶ時……破滅へと導こう。」


【魔王軍 四天王[竜神ドラゴッド マグレッド=エンド]】

 レベル:99

 スキル:神の宣告


「ふふ……破滅が近いのには間違いないわね……」


【魔王軍 四天王[絶望の七色ディスペアレインボウ リリベル]】

 レベル:97

 スキル:混沌属性


「本日はよろしくお願いします。」


【魔王軍 [勇者討伐団長 タカト]】

 レベル:13

 スキル:無し


「「「……」」」」


「一人多いじゃねぇか! 誰だてめー!」

「人間!? 曲者でござるか!?」


 黒い甲冑の騎士と、爬虫類系魔族と思われる忍者が戦闘態勢を取る。

 その後ろで15メートルはありそうな、翼や装飾が派手な巨大竜神様にも睨まれる。

 ちょっとビビったが、魔女リリベルが間に入ってくれる。


「ちょっとイジメないで? 私がスカウトした人材なんだから。」


「すみません、自己紹介がまだでした。私は――」


「集まったようだな。」


「「「「ははーっ!」」」」


 低い声がした瞬間、皆が玉座に頭を下げる。

 俺も慌てて下げる。

 玉座を見ると、輪郭のはっきりしない人型の幻影が座っているようだった。 

 あれが魔王なのか?

 ここでステータスウィンドウを展開する勇気はない。


「四天王諸君、人間界制圧に必要なものと言えば何だ。」


 魔王と思われる人が質問する。

 ワンマン社長の演説みたいな突然の質問。

 何て答えるのが正解なんだろう。


「力、だろ?」

「技術でござる。」

「……恐怖、だ。」

「魔力じゃないかしら。」


 四天王それぞれが答える。

 みんな個性がしっかりしてるな。


「そうだ。だが……それらを伝達する『情報』も必要だ。」


「情報? なんすかそれは。」

「確かに、暗殺にも事前の情報が不可欠でござるが。」


 甲冑のジオウと忍者のカゲヌイが戸惑う。

 確かに、異世界の魔王から「情報」なんて現実味がある言葉が出るとは。


「そこで我が軍にも情報戦術に長ける駒を用意した。」


 魔王が俺を指差す……ように見えた。

 俺は返事を返す。


「は、はい、そうです。勇者討伐団という部署を作りました。

自分はあらゆる情報を得ることが出来る能力を持っています。

侵略の障害となる勇者を討伐するべく、邁進してまいります!」


 黒い甲冑の騎士が俺に近づく。

 身長が高いので俺はちょっと身を引く。


「ああん? 人間じゃねぇか。魔族にもなってねぇ。

本当にこんなやつが潜り込んで大丈夫なんすか~?」


 黒い兜の奥から目を合わせ、睨んでくる。

 黄色い目がとても怖い。


「は……はい、要望があればアンデッドにもアンドロイドにもなります。

人間である事にこだわりはありません。」


「ダメよジオウ。その子は最後の人間にする予定なんだから。

人類を滅ぼした後、貴重な生き物になるわよ?」


 またリリベルが庇ってくれた。

 別に俺の目的が達成出来るならどうなっても良かったのに。


「彼は既に異世界勇者を二人倒している。」


「ええ!? 二人もだって!?」

「本当でござるか!」

「……神をも殺す、あの勇者をか。」


 魔王の言葉に四天王たちが驚く。


「異世界の元勇者タカトよ、我が軍を支え、人間界侵略を達成させるのだ。」


「ははーっ!」


 ははーとか言ってみた。

 すごく恥ずかしい。

 まだ異世界ファンタジーの世界観に慣れていない。


 その後、魔王様の幻影は消えた。

 玉座には誰も座っていない。


「へー、お前そんなに強いのか。ちょっと手合わせしてみてぇな。」


「いや、自分が強いわけではなく……」


 またつっかかってくる甲冑。

 一応団長の上が四天王だから、上司に当たる。

 めんどくさい上司だ。

 あれ、そう言えば巨大な竜神の姿がない。

 一言も発さずに消えるとか、これまためんどくさい上司だったか。


「ちょっとちょっと~、私をのけものにするなんて酷くな~い?」


 !?

 びっくりした。

 柱の後ろから声がした。

 セリフの割に声が低く、オネェっぽい。


「い、いつの間にいたでござるか! ピエロ!」

「てめぇこの部屋に勝手に入るんじゃねぇ!」


 四天王たちも驚いている。

 姿を見せたのは、忍者の言うとおりピエロみたいな格好の魔族だった。

 赤と青の派手な服、真っ白な顔面に星型の模様が描かれている。

 小さいシルクハットをかぶり、金髪の長い髪を纏めている。


「私にも紹介してよ~、新しい子!」


「立ち去れ、貴様に教える筋合いは無いでござる!」


 俺はピエロと目が合う。

 一応会釈する。

 何だあいつは。


「……ステータス・オープン。」


【魔王軍 [謎の道化師 アヴァーヤ]】

 レベル:?

 スキル:?

 詳細:魔王城の出入りが黙認されている謎のピエロ。

 敵か味方か、魔王軍にも知る者はいない。


【★ネタバレ★】

 実は魔王様。


「ブフォッ!」


 びっくりして鼻水が出た。

 酷いネタバレを見た。


「なによもう~、じゃあまた会いましょうね、タカトくん。」


「あ、はい、お疲れ様です!」


 魔王と言えば雇い主、つまり社長だ。

 挨拶はしっかりする。

 しかしピエロと目を合わせると「ナイショね」って感じで口に人差し指を押し当てていた。

 さらにウィンクもされた。

 大丈夫か、この会社……いや、魔王軍。



◆◆◆



「ふー。」


 魔王城の廊下を歩く。

 四天王と会うっていうから、どんな怖い人達かと思った。

 しかし意外とキャラもつかみやすくやっていけそうな感じはする。

 さて、面談イベントも終わったし、今日こそ一人で寝よう。


「ちょっと待ってよ~。」



ギュムッ



 後ろから抱きつかれる。

 この感覚は。


「どうしたの、リリベルさん。」


「『さん』なんてやめてよ、タカト~。」


 さらに強く抱きつかれる。

 本人はただ浮いてるだけなので、俺がリリベルを運んでるような感じだ。

 巨大な風船が背中にまとわりついてるような感覚。

 風船みたいな感触のものが背中にくっついてるけど。


「タカト、今日も私の部屋で寝るでしょ?」


「いや、緊張して疲れたから早く寝たいなぁって……」


 ――リリベルを助けたあの日。

 骨折と疲労で気を失い、気がついたのは魔女の館のベッドだった。

 魔界にある「魔女の山」山頂にある館だ。

 骨折も完治していて、助けたと思っていたが逆に助けられてしまった。


 利害の一致から魔王軍に入隊したいと相談したが、人間が魔王軍本拠地に出入りする事は禁じられている。

 そこで出たのが、魔女のペット案。

 人間をペット扱いとは……と思ったが、魔女の所有物になることは合理的だ。

 俺も衣食住仕事が確保されているのでありがたいが、変な趣味に目覚めそうで怖い。


「いいからいいから~、夜一人じゃ寂しいんだもん。」


「本当お前はキャラ変わるな。軍団員が見たらどう思うか。

……あ、見張り兵のスケルトンだ。」


 廊下の向こうから丸い盾を持った骸骨が歩いてくる。

 たしか門を守っている見張り兵の一人だ。


「お疲れ様でーす。」


「あ! お疲れ様であります! 四天王様と新団長様!」


 スケルトンに敬礼される俺ら。


「うむ。ご苦労。」


 ちゃんと地面を歩き、背筋を伸ばす四天王様。

 切り替えが早い。

 スケルトン兵はそのまま反対側に歩いていった。


「だああ~、もう疲れるのよ虚勢を張るのは。」


 また俺にもたれかかり、ふわふわ浮き出す。


「やめればいいじゃん。」


「これでも四天王なんですけど! みんなのお手本にならなくちゃ。」


 変なところで真面目だなこの魔女は。

 そこに彼女自身の優しさが垣間見え、俺はこの人に信頼を寄せたわけだ。




VS 氷結の勇者 おわり



時間停止能力者の倒し方:

能力を見せびらかすところを叩く

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