時間停止能力者の倒し方


「いやぁ、キミ強いねぇ。」


 俺はもったいぶりつつ、拍手をしながら勇者たちの前に現れる。


「は? 誰だてめー。」

「もしかして街の方ですか!?」


 女の子魔法使いが俺に近づこうとする。

 しかしそれを止める屈強な戦士。


「まて、様子がおかしい。」


「そうだ。私はこの街の者ではない。」


 両手をポケットにつっこみ、出来る限りカッコつける。


「私は魔王軍 勇者討伐団 団長、カンザキタカトだ。

以後お見知りおきを。」


 団の名称がダサいとか言わないでくれ。

 他の魔王軍の○○団、という名前に合わせたらこんなになってしまった。

 ちなみに、勇者討伐団は現在一名体制です。

 随時入団をお待ちしています。


「魔王軍……え、討伐? は?」


 勇者が聞き慣れない言葉に動揺する。

 おじいちゃん魔法使いが怒りの表情で怒鳴る。


「貴様、人間なのに魔王の手先になりおって!」


「ま、今は訳あって魔王軍に入っているが。

さあ私と戦え、[氷結の勇者 ヒョウタ]よ。

お前も女神からチート能力を授かったのではないか?」


「はっ! 勇者様! あの人の魔力の感じ! まるで勇者様と……」


「あー、わかってるよ。こいつ俺と同じ異世界転生者選ばれし者だ。

あと俺は勇者様じゃないってば。」


 何が選ばれし者だ。

 まあいい、同族だとわかってくれた。

 俺はポケットから呪符を一枚取り出す。


「見たところ氷使いのようだが……残念だったな。」


 呪符をグチャッと握りつぶすと、カードから剣が出てくる。

 これは魔王城のアイテム倉庫からパクってきた護身用の武器。

 《ファイア・ソード》って言うらしい。


「俺のこの……えっと《獄炎剣 ホムラ》の能力で氷なんて溶かし尽くしてくれよう。

相性が悪かったな、氷結の勇者よ。」


「ふーん。ま、やってみればわかるんじゃない?」


 ハッタリがうまく行ったのか、かなり余裕ぶっこいてる。

 この剣の使い方はさっぱりわからないけど、とりあえず両手で持って構える。

 そして剣を振り上げ、一歩前へ出た。


「消し炭となれ! 勇者よ! 《獄炎――――」



――――――……

「《獄炎ヘルフレイムストーム》!!!」



ゴアアアアアアッ!!!



 目の前に炎の嵐が吹き荒れる。

 全てを焼き尽くす、無敵の炎だ。

 炎が過ぎ去った後には何も残らない。

 相手パーティは全滅し……


「あ……ありのまま今起こった事を話すぜ!

『俺は奴らを燃やし尽くしたと思ったら、いつのまにか背後の噴水を破壊していた』

な……何を言ってるのかわからねーと思うが」


「おーい。どこを攻撃してるんだ?」


 後ろを振り向くと、氷結の勇者がニヤニヤしてる。

 相手パーティも健在だ。


「じゃあ次は、俺から行くぜ?」

――――――……



 って流れを期待してたんだろう。


「うあああっ!」


 俺の目の前にパッと勇者が出現し、顔の数か所から血を出してよろめく。


「ここだ! ステータス・オープン!!」



ザクッ



 手に持ったこの剣じゃ遅い。

 勇者の首元に、フチが鋭い俺のステータス画面を展開。

 そのまま素早くずらして斬首する。

 血が勢い良く吹き出る。


 時間停止能力者がやってみたいシーン第一位。

 「停止中に相手を動かして恐怖の片鱗を味わわせる」こと。

 停止を解除したときのあれ?という表情はたまらないだろう。

 そこをついた。


 まず相手を甘く見る発言、行動。

 それで相手は俺を舐めきり、イタズラしようと考える。

 そこで用意するのが、発見されづらい「1ミリ四方のステータス画面」だ。

 これを俺の周囲に多重展開し、相手が近づくのを待つ。


 相手は時間停止中に急いで俺に近づき、姿勢を動かそうとする。

 しかしそれは針の山に突撃するようなもの。鋭いミニ画面が突き刺さる。

 特に顔なんかに刺さったら驚いて能力が解除されてしまうだろう。


 俺は剣を振り上げつつ、全神経を集中。

 勇者がどこに"ワープ"してきてもいいように構えた。

 案の定目の前に現れたので、もぐらたたきのような反応速度で斬首した。


「あ……きゃああああああ!!!」


 女の子が叫ぶ。

 俺はその場からバックステップで距離を取る。

 ついでにステータス画面を四枚多重展開。

 勇者の四肢を切断。蘇生魔法対策だ。


「うおおおおおお!!……ッがはぁ!!」


 突撃してきた屈強な戦士に、持ってた《ファイア・ソード》を投げつける。

 正確に言うとステータス画面でサンドして真っ直ぐ心臓まで誘導。

 瓦礫を持ち上げるほどあるウィンドウの力で、剣を押し込む。


「あああああ!!」


 戦士が叫ぶと、傷口から炎が吹き出す。

 ああ、これってそういう魔道具だったんだ。


「貴様許さぬぅ!! 破滅の呪文、《ファイナル/

/イクスプロージョ……?」


 呪文を唱えるおじいちゃん魔法使いへ、大きなステータス画面を縦に飛ばす。

 クルクル回転しながらおじいちゃんに当たり、老体は真っ二つになる。


「あ……あ……」


「はぁ、はぁ。」


 これ以上無いくらい絶望の表情を浮かべる女の子の前で、息切れする俺。

 覚悟してても直接人を殺すのは精神に来るものがある。



ガサッ……カサカサカサカサ!



「いやあああああ!! あごっ、オゴ……」


 いきなり、女の子を無数の黒い影が襲う。

 よく見ると一匹一匹うごめいてる蟲だ。

 口も長いムカデに縛られ、動けないでいる。


「うわぁ、キモ……。遅かったっすね、クィンビーさん。」


「なによぅ、この数の子どもたちをワープさせるの大変なのよ~。」


 まったりと喋りながら飛んでくる、巨大な蜂人間型のモンスター。

 俺が事前に連絡して来てもらっていた。


【魔王軍 [蠢魔蟲団長 クィンビー]】

 レベル:79

 スキル:あらゆる蟲を誕生、使役する。


「あら、ガイアーちゃん殺られちゃったの。

うちの子達ですら寄生出来ない体なのに、よく倒せたわねぇ。」


「その女の子だよ。首をはねたのは。」


 氷結の勇者の時間停止能力は手を繋いだ人には効かないらしい。

 あの時イチャついてるかと思ったが、停止した世界に女の子を連れて行ったんだろう。

 そして女の子に魔法を撃たせ切断、停止解除したら首が吹っ飛んだという流れだ。


「そうなの~? どおりで魔力が強いわけだわ。母体にはピッタリね!」


「オゴゴ、オゴ、助け、アガ……」


 ごめんな、そっちのほう直視出来ないわ。

 俺虫が嫌いなんだ。


 今回は作戦が思った以上にうまく行った。

 もし氷魔法を使われていたら、ステータス画面の盾では耐えきれず秒殺だっただろう。

 やはり勇者討伐団に実働部隊がほしい。


 後片付けを蠢魔蟲団と魔獣兵団の兵隊に任せる。

 勇者の死体は装備を残して消えていた。

 どうやら異世界転生者は、完全に死亡するとこの世から消滅するらしい。


 そりゃそうだ、元々俺らは異世界から連れてこられた幽霊みたいなもの。

 かなり良く言うと……英霊?

 まあ英雄でも何でもない、ただの悪霊だが。

 この世の中に必要とされてない存在、消えて当然だ。


 俺は用意されたワープホールで魔王城へ帰還した。

 作戦が上手くいって簡単な任務だと思っていたが、何だか色々あって疲れた。

 ゴーストをバスターする映画みたいに頑張ろう。


 こうして、氷結の勇者の討伐は達成された。

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