幕間SS:俺とみのりの道は分かれるのか
挨拶が終わって、高橋社長が乾杯の音頭をを取り、マリエンライブの打ち上げパーティが始まった。
立食パーティは初めてだなあ。
お料理を取ってどこで食べるのか。
立ったままか。
その時、コーラのコップはどうすれば良いのだろう。
あちこちにテーブルがあって、大人はそこで「いやいやどうも」とか、「お世話になっています」とか挨拶にいそしんでいる。
そう言えば後醍醐先輩と『迷宮ぶっ潰し隊』の人達の姿が見え無いな。
と、思ったら鏑木さんに連れられて入り口から入ってきた。
「どうしたんですか」
「いやあ、おめえ、途中でホテルマンに止められてよう」
「カオルはチンピラっぽい見た目だからね」
「うるせえチヨリ」
まあ『迷宮ぶっ潰し隊』の五人はどの人も厳ついからなあ。
「でも誤解が解けて良かった」
「鏑木さんのお陰だ、ありがとうさんです」
「いえいえ、気にしないでカオルくん」
鏑木さんははんなり笑った。
この人は糸目ののっぽさんだから強キャラ臭がするよな。
「鮫島さんは来て無いんですか」
「サメは作戦トレーラーで指示だしてるよ、いろいろ大変でね」
そう言って鏑木さんは片耳に付けたインコムを指で叩いた。
『チャーミーハニー』さん達は働いているんだなあ。
チアキがお料理をお皿一杯に取ってテーブルでむしゃむしゃ食べていた。
背が足りないから椅子の上に立っている。
隣では鏡子ねえさんがニマニマしながらビールを飲み、すごい勢いで料理を食べているな。
「このテーブルが『Dリンクス』の場所かな」
「あんま関係無いっぽい、というか、ちょっと食べたらあちこち動いて挨拶するもんだ」
「そうなんだ」
「タカシもコップを置いて料理を取って来なよ」
「なんだか凄く美味しいよ、タカシ兄ちゃん」
「バウバウ」
みのりはマリアさんと一緒にあちこちで挨拶を交わしている。
そうだね、アイドルにとってパーティは遊びじゃなくて営業なんだろうね。
会場の一角で美味しそうなお料理が並んでいる一角があった。
高田君と樹里さんがお皿にお料理を入れていた。
「たかしくん、ローストビーフが美味しいお」
「ありがとう、食べてみるよ」
というか、あまり食べた事の無いようなお料理が並んでいるな。
金属のトレイの中に料理があって、固形燃料で暖めているようだね。
「お皿をどうぞ」
「ああ、すいません」
「食べおわったらテーブルに放置してください、係の者が回収します。おかわりの時は新しい皿を要求してください」
「は、初めてで、あんまり沢山取ってはいけないんですよね」
「はい、こぼれない程度に盛って何度もいらっしゃってくださいね」
「ありがとうございます」
「たかしっちは立食パーティ初めてっすか」
「そうなんだよ」
「私も初めてっすけどね」
樹里さんは笑って、高田君と俺達が集まっているテーブルの隣に歩いて行った。
あっちは『オーバーザレインボー』と『ラブリーエンゼル』のテーブルのようだ。
俺は肉とかスパゲティとか、シチューとかをほどほどに取り、パンにバターを付けてお皿に乗せた。
食べおわったら、また来ればいいんだな。
ワイワイと宴会は盛りあがり、眼下の街が暮れていく。
テーブルに戻ると、みのりが戻って来ていた。
「わ、タカシくん、美味しそう、私も取ってくる」
「なんか初めてで慣れなくて、みのりは良く参加するのか?」
「クリスマスとかに、たまに行くよ、そんなに緊張しなくて大丈夫だよ」
「私もおかわりしてくる」
「バウバウ」
みのりはチアキと一緒にお料理コーナーの方に行った。
俺は持って来た料理を食べる。
あ、美味しいな。
高田君お進めのローストビーフは確かに美味しい。
「かーちゃんは三回使ったからこれないか」
「うん、残念だけどね」
かーちゃんにも打ち上げをさせたかったなあ。
「次の機会で呼べば良いよ、タカシ」
「そうだな」
みのりとチアキが戻って来た。
チアキのお皿が山盛りだな。
空の皿も持って来ていて彼女は床にお皿を置いて半分置いた。
「バウバウ」
「くつしたの分か」
「くつしたも頑張ったからね」
それを見て、みのりは微笑んで料理を口に運んだ。
「わ、美味しい」
「峰屋家の水準でも美味しいのか」
「それはそうだよ。お母さんお料理上手いけどプロじゃないし」
上流階級の水準って想像も付かないなあ。
みんなと一緒にワイワイと食事をした。
偉い人が挨拶とかしてきたりしたが、大体泥舟か朱雀さんがさばいてくれた。
みのりも挨拶が上手いな。
俺はどうしてもへどもどして格好が付かない。
お腹がいっぱいになったので、窓際に移動して川崎の夜景を眺めていた。
みんな楽しんでいるね。
なにげにレグルスも良い感じに馴染んでいた。
暴虐大帝だから、パーティとかも慣れているんだろうな。
「何を見てるのタカシくん」
みのりがよってきて隣に並んだ。
「夜景が綺麗だなって。なんだか少し前までは酷い生活をしていたのに、信じられないな。って、考えていたんだ」
「大丈夫だよ、これからタカシくんには良い事がいっぱいあるよ、もう、迷宮で走り回って一日の稼ぎをおばさんに全部取られるような生活には戻らないんだよ」
そうだと良いな。
「みのりは『Dリンクス』を離れるべきだと思うんだ」
「え?」
「Dアイドルとして忙しくなるし、迷宮攻略に参加するよりも、世界のお客さんを喜ばせるべきなんだと思う。俺とみのりの道は今日、別れるんだ……」
言葉に出した瞬間、胸が痛んだ。
だが、必要な事だ、みのりが世界的な歌い手として大成するのに、『Dリンクス』は邪魔だ。
学業と、アイドルとしてのレッスンと、迷宮探索を一度にやる事は出来ない。
だから、辛いけど必要な事なんだ。
「なに言ってんの、タカシくん」
みのりが怒った声を出した。
「私は
「だけど、これから世界ツアーとか……、一度には出来ないだろう」
「出来なくてもやるよ、『
「そうじゃないけど……」
みのりは俺の手を握った。
「私はタカシくんが好きだよ。私の幸せは、大好きなタカシくんの隣で『
「みのり……」
はっきりと好きだと告白されてしまった。
いやその、初めての事だから何と言っていいやら解らない。
顔が熱いな。
ええとええと。
「俺も、その、みのりが好き、なような気がする」
「ぷっ、タカシくんらしいね。うん、タカシくんが、はっきりと私が好きだと言えるまで私は待ってるから」
「ご、ごめん」
「いいのよ」
みのりは花のように笑った。
「迷宮はどこから入っても一緒なんだから、全国ツアーでも、全米ツアーでも、世界ツアーでも、みのりの行く所に『Dリンクス』がくっついて行けばいいんだよ。私らも旅行が沢山出来て嬉しいしさ」
いつの間にか、近くに鏡子ねえさんが居た。
うわ、いつからだ。
聞かれてた?
「そうね、これまでのように隔日でダンジョンアタックして、レッスンすれば良いわね」
みのりの頬もリンゴのように赤い。
気が付けば、チアキも泥舟も朱雀さんも近くにいてニマニマしていた。
「タカシ兄ちゃんも一歩前進で」
「そうだね」
「甘酸っぱいですね」
「バウバウ」
うわ、いたたまれない。
自分一人で悩んでいて馬鹿みたいだな。
でもなんだか心の底からほっとした感じもあった。
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