第299話 沈没しそうな船の上でミハエルを蘇生させる
ぱあっと辺りが光輝いて、俺は元の世界に戻ってきた。
『暁』はミハエルの急所の背中のコブを挿し通し、かーちゃんの【
ミハエルはその巨体を震わせ音を立てて床に倒れた。
ぐらりと船が傾く。
「タカシ兄ちゃん、逃げよう! 船が沈没するっ!!」
「ばうばうっ!」
「まだだ、ミハエルを蘇生させないと」
「な、なんでよ?」
「きゃりありる~?」
「ロシアに政変が起こったらしい、新政権は迷宮を誘致するそうだ」
「そうですよ~~♡ 私のウクライナの分体がクレムリンで会談中です~~♡」
マジかよ、だったら早くミハエルに知らせてやれよ。
まったく悪魔は底意地が悪いな。
「氷結陣急急如律令!」
朱雀さんが符を投げると、船体に空いた大穴からの水が凍り付いた。
ナイス。
「わあ、朱雀ちゃん、便利やねえ」
「恐れいります、タカシくんのお母様」
朱雀さんの氷結陣で入り込む海水量が目に見えて減った。
「タカシさん、海上保安庁のタグボートが近づいてきています、なんとか沈没は免れるよう努力しますよ」
キャットウォークの上から鮫島さんが声をかけてきた。
「手伝うわ、タカシくん」
「柊さん」
「『そは氷雪の絶叫、凍てつく波動にこごえる嵐よ、我が怨敵を打ち抜きたまえ』」
柊さんが詠唱すると、猛烈な冷気が固まった船体穴の氷に張り付き更に成長させた。
「ありがとうございます、来てくれたんですね」
「何かの役に立つかと思ってね、第二便のヘリで来たわ」
田上さんとかは居ないな。
「田上さんたちは?」
「あー、その迷宮、ちょっと『たこ焼き一番』に意地悪しに行ったわ、私はライブが見たかったから、こっちに来たの、来て良かったわ」
『たこ焼き一番』に意地悪って、何をしているのか、田上さんは。
俺は朱雀さんに向き直った。
「朱雀さん、ミハエルに【
「解りました」
「正気かタカシ、せっかく倒したというのに」
「これからのロシアにはミハエルの力が必要なんだよ」
「人間の考える事は良くわからんな」
レグルスは【サイズ変更】で元の三メートルぐらいの大きさに戻っていた。
それくらいの大きさが喋りやすいね。
「『冥府の門よ再び開け、力尽きた同胞をわが大地にもどし新たな活力を与えたまえ、【
キラキラと光る粒子が依然怪物の姿で動かないミハエルの元に漂い、光った。
「……、失敗です、この呪文、成功率がある感じですね。もう一度やります」
「MPとかはどうなの、朱雀さん」
「大丈夫です、みのりさん、あと二回は」
あと二回しか蘇生チャンスが無いのか。
『蘇生の珠』を使うのはなんだかもったい無いしなあ。
「『冥府の門よ再び開け、力尽きた同胞をわが大地にもどし新たな活力を与えたまえ、【
ゴボっといってミハエルが毒々しい体液を口から吐き出した。
よし、蘇った!
「『ひふみ よいむなや こともちろらね しきる ゆゐつわぬ そをたはくめか うおえ にさりへて のますあせゑほれけ』」
みのりの[謡]の元でもう一度[浄化]の光を『暁』に宿らせ、刃先の光でミハエルを浄化していく。
おお、なんだか、もの凄い大きい魔石に結晶化していくぞ。
ミハエルの体はどんどんしぼんでいき、最後には裸の中年外人男性となって床に横たわっていた。
ボチャリとスイカみたいな大きさの魔石が海水に半分沈んだ。
「ああ、ああ、ありがとうデース」
「よかったな、ミハエル」
「タカシくんのお陰デース、なんとお礼を言えば良いのかわかりまセーン」
「うん、なによりだ」
『さあ目を開けて傷を癒やそうよ~~♪ 頑張った君の勇気を力に変える~~♪ 治れ治れ治るんだ~~♪』
みのりが[謡]を終了させて、【回復の歌】を歌い出した。
ぼろぼろのミハエルから煙が出て傷が治っていく。
「ほな、うちは帰るで」
「ありがとう、かーちゃん、助かった」
「ライブも上手くいったようやし、良かったな、ほなな」
かーちゃんは笑顔で手をふって粒子になって消えていった。
俺は足下に沈んでいた『バーバ・ヤガー』の魔石を取り上げた。
ずっしりと重いな。
「あの~~、それを下さいな~~♡」
「えー、只で?」
サッチャンが見え見えのおねだりをしてきた。
「そうだそうだ、タカシ達はワシの魔石まで使って罪獣を倒したのだ、何かやるべきではないか」
「竜の魔石が流失したら大変だったので、弾丸で消費したのは願ったり叶ったりですが~♡ なにか欲しい物とかあるんですか~」
「【従魔創造の珠】をやるべきである。そしてワシの魔石でレッドドラゴンの従魔を創るのだ」
「レグルスの魔石は使っちゃったよ」
「今からワシが自害して、タカシに魔石をやろう、それで従魔を創るのだ」
レグルスが自分の爪で心臓をえぐろうとした。
「だめだ!!」
「何故だ、今の魔石ならスキルの【サイズ変更】も付いているし【人化】もあるぞ、お得だぞ」
「駄目だ、仲間を自害させて創る従魔なんか要らない。俺達は相棒だろ、レグルス」
「タ、タカシィ~~!!」
レグルスが泣きながら抱きついて来た。
「120階で待ってろよ、必ず倒して、その魔石で従魔を創るよ」
「うむ、うむ、早く上がってこいよ」
「ということなんで、レグルスのちぎれた右腕を治してくれたら、この魔石はあげるよ、サッチャン」
「いえ、陛下は迷宮所属の竜なので、健康管理は私どもの仕事なので、ご褒美とはなりませんよ♡」
そう言うとサッチャンは懐から小瓶を出してレグルスにぶっかけた。
シュウシュウと煙が吹き出して、レグルスの右腕は治った。
「ああ、そうだ、りっちょんにそのエリクサーをかけてやってくれよ、それでいいや」
「え、どんだけ聖人なんですか、タカシくんは♡ 気持ち悪いぐらいですよ」
「罪獣の魔石を俺達が持ってても、魔石弾として発射するぐらいだしさ」
そう言って俺はサッチャンに『バーバ・ヤガー』の魔石を手渡した。
「罪獣の魔石に比べたら、『エリクサー』なんか誤差の範疇なんですけどね~♡ まあ、お礼は後で考えますよ~~♡」
「うん、楽しみにしてるよ」
俺の返事を聞いて、サッチャンは苦虫を噛みつぶしたような表情を浮かべた。
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