第298話 浄化の世界でミハエルと話しこむ
「ここはどこですカー」
「浄化の世界、たぶん冥界と現世の間っぽい所だよ」
ここに来るのは四回目だな。
里山のバス停みたいな風景でなんだか懐かしい感じだ。
後ろにはぽっこりした里山、俺達の居る場所にはベンチがあり、そこで座っている。
砂利道が一直線に伸びていて遠くに細く青い海が見える。
道の両側にはひまわり畑だ。
ひまわりはアマテラスさまのお花なのかな。
「とても綺麗な所ですネー」
ベンチでミハエルと座ってひまわり畑が揺れるのを、じっと見ていた。
「私は……、死んだのですカー?」
「死んだ、肉体が死なないとここには来ないようだよ」
白虎君は来なかったからね。
「なんだかとても懐かしいデース。子供の頃のウラジオストックの夏の景色を思いだしマース。ロシアの夏はとても短いですが、その分とても美しく思い出に残りマース」
「良い所なんだろうな」
「はい、冬は寒くて過酷な場所ですが、労働者はみな明るく楽しく働き者デース。私は何としてもロシアを救いたかったのデース。悪魔に世界が乗っ取られては必死に戦って妖魔を封印した先祖に申し訳無いのデース……」
そこまで言って、ミハエルは言葉を切り、黙り込んだ。
「タカシくんはどう思いますカー? 悪魔は信用できますカー?」
「解らない、個人個人の悪魔さんたちは、良い人も居るし、あまり良く無い人も居る感じだ。集まってまとまりになった時、信用出来るかどうかは解らない。でも、それはロシアも一緒だよ」
「痛い所を突かれましター、ロシアの民は一人一人はとても好人物ですガー、まとまるととても信用ができまセーン、幾つもの間違いを起こしましター、そのたびにロシア人は、もう間違いはするまいと思って頑張りマース。でも、また間違いを起こしマース」
正直だな。
浄化の世界だから、隠蔽するとか、ごまかそうとかの心が消えるのかな。
「核兵器を使ってまで、迷宮を拒否したのに、外国の迷宮に出稼ぎしてまで魔石や武器を集めてマース。衛星国から出たレアアイテムはモスクワに送られマース。アンドレイが覚えた【絶対回避】は、先週、北朝鮮から出た物デース」
「衛星国のレア物はロシアが独り占めにしてるのか」
「武器や石油で払ってマース。矛盾してマース。ウクライナを占領して迷宮からの資源を独占しようと戦争も仕掛けましター」
「そうだったね」
「モスクワが何を考えて居るか、解らないのデース。矛盾した指令が下りてきマース」
「そうだったのか」
「悪魔を退治したい、は本当なのでショー、でも、そこに至る迄の道筋を迷宮にたかろうとしてマース」
ミハエルは寂しそうに、そう言った。
「なんとか指令を達成しようと頑張りましたヨー、でもそれで、タカシくん、ミノリさんには迷惑を掛けました。リツコも可哀想です。本当にごめんなサーイ」
「うん、どうしようも無い事もあるよ、怒って無いさ」
ミハエルは大粒の涙を流した。
「本当は、本当は、最初に会った時のように、タカシくんと仲良くなりたかった。頑張っている子供を掠ったりはしたく無かったのデース。でも政府に逆らう事は出来なかったのデース。逆らえば先祖伝来の魔術武器を取り上げられ、仲間と一緒にシベリアに送られてしまいマース。でもそんな事情は日本の人には関係の無い事デース。本当に悲しいネー」
「ああ、解ってるから」
ミハエルはすっきりした顔になった。
そうか、ミハエルの心残りは、俺と、みのりと、りっちょんに謝罪したかったんだな。
ミハエルたちのやった事は許せないし、拒絶すべき事だけど、気持ちは解る。
組織に所属するという事は、苦い物を飲まされたり、嫌な事をやらされたりする物なんだろう。
大人になるってそういう事なんだろうな。
「どうも、この世界は輪廻転生があるみたいだ。ミハエルがどこに生まれ変わるか解らないけど、また出会えたら、今度は友達になろう」
「タカシくん、タカシくん。ああ、なりましょうなりましょう、次の生が、素晴らしい物であるように、私は祈りマース」
ミハエルは立ち上がった。
「行くのか?」
「はい、多分この道をまっすぐ行けば冥府に着きマース、きっと海まで行けば生まれ変われるのデース、そろそろ行きマース」
「うん、良い旅を」
ミハエルは一歩道を歩き始めた。
『ザーーーー』
気が付くと、ベンチの横のテーブルに、ラジオが置いてあった。
かなり古い大きいラジオだった。
こんな物、さっきまであったかな。
『速報です、たった今、モスクワで武力蜂起が起こり、プーチン大統領が失脚したとの情報が入ってきました』
「「は?」」
『新政府はモスクワを制圧し、大魔王迷宮に対してロシアの政策を謝罪、迷宮を誘致すると発表しました』
大事件じゃん!!
ロシアで政変が起こって、迷宮を誘致?
『大魔王迷宮のスポークスマンであるサッチャンは『歓迎いたします、早い内に赤の広場に地獄門を再発生させましょう♡』と語っており……』
ミハエルは引き返してきて、ラジオを掴んで揺すぶった。
「本当の事ですカー! これは現実に起こった事なんですカー!!」
「神様がなんか教えてくれたっぽいな」
「タカシくん、あの、死ねませんになりましター」
「そりゃ、死んでる場合じゃないだろうけど」
蘇る事が出来るのか?
「とりあえず、上手く行くかどうか解らないけど、朱雀さんに【
「おねがいしマース、おねがいしマース、お礼に『グラデンツィヤ』と『オハン』をあげマース」
「ああ、良いから、ロシアに迷宮が出来たら、魔武器は絶対に必要になるだろ、無償でやってやるから」
「タカシくーん、あなたって人は~~!」
ミハエルは俺を揺すぶって泣いた。
本当にもう、しょうが無いなあ。
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