第296話 タンカー内部での激闘

 毒ガスがみのりの所まで行ったらやばい。

 『謡』が止まれば俺達の負けが決まる。

 レグルスが羽を広げ羽ばたいて毒ガスを押し戻した。

 ナイス。

 だが、右腕は切断され、あちこちに酷い傷があり、血を吐いている。

 ジョン爺さんがM2を乱射するが、パワーアップした罪獣ミハエルには効き目が薄そうだ。

 毒ガスがやばいな、接近戦が挑めない。

 レグルスのブレスも効き目が薄い。

 くそ、『バーバ・ヤガー』の弱点はどこだ。


 踏み込んで鶏の足に切りつける。

 罪獣ミハエルは毒ガスをブハーッと俺に向けて吐いた。

 地面に『彩雲』を叩きつけ、斜めに飛んで逃げる。


 げほげほっ。

 少し吸い込んだ、咳が止まらない。


 ……、このガス……。

 石化ガスか!!

 直撃した右手の甲が石のように堅くなっている。

 やばい、『暁』が振るえ無くなる。


「ガスは石化ガスだ、当たるなレグルス!!」

「うおっ、そりゃ厄介だな!」


 レグルスは羽ばたきとブレスで毒ガスを押し戻す。


『あはは、あはは、石化ガスは低い場所に溜まりマース。量が増えれば押し返す事も出来まセーン!』


 そう言いながら、ミハエルはブワリブワリと石化ガスを吐く。

 ジョン爺さんが、タンカーの壁にM2機関銃をぶっ放し、穴をあけ、反対側の窓にも発射して穴を開ける。

 外気が入ってきて、毒ガスを吹き散らした。


『ナイス、ジョンおじさん!』

『わりい、時間切れだ、なんとか頑張れ、タカシボーイ』


 そう言うとジョン爺さんは粒子になって消えて行った。


『石化しなサーイ! 固まるのデース!』


 そう言いながらミハエルはこちらに走って来た。


 やばい、近づくと毒ガスが……。


 ガチャーン!

 上の方のガラス窓を蹴破って誰かが飛びこんで来た。


「またせたなっ! きゃりありあありあああっ!!」

「鏡子ねえさんっ!」


 ねえさんがひしり上げながら【狂化】バーサークして跳び降りて来た。

 窓の向こうには大型ヘリコプターが居て、泥舟が下りてくる所だった。


「泥舟!!」


 泥舟は黙って長銃を構え、ミハエルに打ち込んだ。


 バキューン!!


「回復陣急急如律令!」

「朱雀さん!!」


 窓から飛びこんで来た朱雀さんから無数の回復符が飛んで、レグルスの傷に張り付き煙を上げて治療させた。


「おお、助かるぞ、オンミョウジ!」


 レグルスが喜びの声を上げた。


 くつしたに乗ったチアキが飛びこんで来た。


「タカシ兄ちゃん!!」

「チアキ、くつした!」


 よし、『Dリンクス』が揃った。

 何だか、もう誰にも負ける気がしない。


『みのり、[謡]は私がここで、あなたは呪歌でサポート!』


 葛城さんに抱き上げられてマリアさんも降りて来た。

 マリアさんは上部のキャットウォークでみのりに繋げて[謡]を始める。

 助かる!


「きゃりありあああるいぃぃぃっ!!」


 ガチャンガチャンと『金時の籠手』を変形させながら鏡子ねえさんがミハエルに向けて突撃する。


「ねえさんっ!! 石化ガスが!!」

「『そは人間なりき、迷いを忘れ元の姿へ戻れ、【解呪ディスペル】』」


 俺の右腕の石化のこわばりが解けた。


「ありがとう、朱雀さん!」

「石化ガスね! 任せて! 暴風陣急急如律令!」


 朱雀さんは五枚の緑色の符を宙に投げる。

 複雑な軌跡を描いて符は風を呼び、石化ガスを吹き飛ばして行く。


「鏡子おねえちゃんっ! いっくよーっ!! 『ぐるぐるぐるぐる♪ おまわりおまわりなさい~~♪ 空も地面もぐーるぐる♪ 足下ぐらぐら気を付けて~~♪』」


 みのりの【ぐるぐるの歌】に乗って【狂化】バーサークした鏡子ねえさんはミハエルに肉薄する。

 ミハエルは平衡感覚を狂わされて、膝を付いた。

 泥舟とチアキの銃撃がバンバン当たっている。

 力を取り戻したレグルスがブレスを放つ。


「きゃりありああああぁぁっ!!」


 光輝き打ち込まれる杵腕に向けて、鏡子ねえさんは無数の見えないパンチを繰り出す。

 ズガガガガと轟音が発せられて、杵の腕の中程あたりがはじけ飛ぶ。


『ぐああぐああっ、ゆるさんゆるしません、よってたかって反革命な行動をして、ゆるせまセーン!! 粛正しマース!!』


 ミハエルは箒腕で鏡子ねえさんを絡め取ろうとするが、[縮地]で瞬間移動する彼女を捕らえる事が出来ない。


「『ゆっくりゆっくりゆっくりなりたまえ~~♪ あせってもしかたがないからのんびりいこうじゃないか~~♪』」


 みのりの【スロウバラード】が流れ、ミハエルの動きがゆっくりになった。


「チアキ、泥舟に魔石を持って行ってくれ」


 俺はくつしたの上でミハエルにバンバン拳銃をぶっぱなしているチアキに言った。


「良いアイデア! でも、この前の狩りの魔石は売っちゃったんじゃ?」

「これで、ミハエルをぶっぱなしてやる」


 俺は収納袋からレグルス陛下の巨大な魔石を出してチアキに託した。


「ひっ、ひひひひっ、タカシ兄ちゃんはいかれてるから大好きさ」

「俺が弱点を看破する、そこにぶち込むように泥舟に伝えてくれ」

「わかった! いくぞ、くつした!」

「わおおおおんっ!」


 チアキを乗せたくつしたが、ぴょんぴょんと跳ねてキャットウォーク上で狙撃している泥舟に向かった。


 よし、お前はぶっ殺す、ミハエルめ!



 




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