第294話 『オハン』を打ち抜く
『グラデンツィヤ』の影でできた剣がミハエルの周りをぐるぐると回る。
まるで回遊魚のようだな。
念で操作できるのか、影の剣は空中を飛んで斬りつけてくる。
が、『暁』で斬りつけると蒸発して消える。
相性が良くて助かった。
消滅させる事ができなかったら恐ろしくやっかいな魔剣だぞ。
なんとかして、『オハン』のガードを打ち抜きたい。
考えろ、何かあるはずだ。
何か……。
おっ。
思いついた。
行けるか?
結構ギリギリの手ではあるが。
俺はミハエルとの間合いを詰めた。
「どんな事をしても魔盾『オハン』の防御は破れまセーン! 死にナサーイ!!」
ミハエルは『グラデンツィヤ』とその影の剣を使い、猛攻をくわえてきた。
手数が多い。
『暁』で斬り結び、『彩雲』の[圧迫]で影の剣をそらせる。
間合いが詰まる。
じれたミハエルは『オハン』を使ってシールドバッシュしてきた。
俺は姿勢を地に着くほどに低くして、『オハン』の下縁に『彩雲』を接触させた。
ドカーーン!!
轟音と共に爆発が起こり、『オハン』が浮いた。
俺は左手の爆発をそのまま回転力に変え、浮き上がった『オハン』の下に潜り込んだ。
一回転すると、見上げる位置にミハエルの焦った顔があった。
『グラデンツィヤ』の柄で殴ろうとした。
影の剣たちが一斉に俺に襲いかかってきた。
「だが、もう、遅い」
『彩雲』の[圧迫]で影の剣をはね返し、『グラデンツィヤ』の柄に頭突きを入れて立ち上がり、立ち上がり際に『暁』でミハエルの左腕、甲冑の関節部分を切り上げた。
ザッシュ!
手応えがあった、血が噴き出した。
関節の金属を割って、『暁』がミハエルの左腕を半ば切り裂いた。
「ぐわあっ!!」
ミハエルの左腕がだらりと下がった。
俺はそのまま踏み込んでミハエルの顔面に『彩雲』を叩き込んだ。
ドカーン!!
兜を着けて無かったのが敗因だな。
ミハエルは二メートルほど吹き飛んで転がった。
「降伏しろ、俺の勝ちだ」
「おお、やったなタカシ!! さすがワシの相棒だ!!」
「タカシくん!!」
みのりが悲鳴を上げてミハエルを指さした。
血だらけのミハエルが凄まじい形相で俺を睨んでいた。
奴はゆっくりと立ち上がる。
「ロシアの為なのデース! 人民ため、ウラジ騎士団は命を掛けて悪魔と戦うのデース! 我々がロシア各地の悪魔を封じたからこそ、革命は成就したのデース!!」
「降伏しろ、国の為に、よその国の物を略奪しても人民は喜ばないぞ」
「そんなことはないそんなことは無いのデース!! 我々の犠牲で罪の無い労働者達は悪魔の支配から逃れ、永遠の平和を楽しむのデース!! そのためなら……」
白虎くんみたいな事を……。
あっ!!
俺はやっと気が付いてミハエルに駆け寄った。
ミハエルはニヤリと笑って『グラデンツィヤ』を捨て、懐から出した注射装置で何かの薬液を首に打った。
「罪獣とあなた方は呼んでましたネー。どんな手段でも、最後に立っていた者が勝利者なのでーーー、うごごごうがぎがぐあ」
ミハエルは紫色の泡を吹き出しながらびくんびくんと体をくねらせた。
くそっ!!
ウラジ騎士団が、罪獣化の黒幕なんだから、ピンチになったら使うに決まっていた。
降伏勧告なんかしないで即死させるべきだった。
「タカシくんはいつもどおりツメが甘くて、お坊ちゃんですねえ♡ まあ、そこが魅力なんですけれどね~♡」
うるさいぞ、サッチャンめ!!
あっ、『暁』と『彩雲』から、赤と緑の光の珠が離れていく。
「みのり! [大神降ろし]を再開だ!!」
「あ、ああっ『ひふみ よいむなや こともちろらね しきる ゆゐつわぬ そをたはくめか うおえ にさりへて のますあせゑほれけ』」
離れかけた光の珠たちが再び戻り、マタギナガサと手盾に宿った。
だが、一拍遅れた。
その間にミハエルは異形の形に変化していた。
「あれは『
うるせえぞ、サッチャンめっ!!
ミハエルの肉体はねじくれ膨らみ折れ曲がり異形の形に変わった。
苔に覆われたような体表。
下半身は寸胴で、まるで
そこから鶏のような足が生えていた。
顔は老婆のようで、鼻が長く、目が邪悪な感じに赤く光っていた。
両手は伸びて、右手は
奴は、五メートルはありそうな、いびつな巨人と化した。
床に落ちた『グラデンツィヤ』と『マハン』を体を丸めて拾い上げた。
『タ、タカシタカシタカシタカシ、剣を剣を剣を剣を、祖国祖国祖国に、栄光の為に、迷宮を壊し魔王を倒し、米帝を打倒し、世界はロシアの元に統一され、千年の至福の楽園を立てるのでーす』
「そんな楽園はごめんだっ! 来い、ミハエル!!」
俺はミハエルの残骸に向かって怒鳴った。
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