第292話 反撃を開始する!

 ガッキーン!!


 みのりが片手に持った『浦波』が勝手に動いて殴ろうとしていた銃のグリップをはね返した。


『なっ!! なにいっ!!』


 武装解除してないのか、ロシア人は雑だなあ。

 映像の中のみのりはナイフを抜いて『盗賊』シーフに切りつけた。

 が、相手は【絶対回避】を持っているので避けられた。

 だが、相手の掴みかかりも『浦波』に受けられた。

 【絶対回避】と[自動防御]は性質が少し似ているな。


『タカシくん! 私は大丈夫だからっ!』


 みのりが健気な事を言うので、少しジーンとした。

 あれ?

 もしかしたら。


「【オカン乱入】!」


 みのりの映っている画面の向こうに光の柱が生まれた。

 いいぞ、見えている所なら、かーちゃんを呼び出せるのか。


『わわ、なんや、タカシはどこ?』

『おかあさまっ!! こいつ、ぶっとばしてくださいっ!』

「かーちゃん、頼むっ! そいつ【絶対回避】持ちだ!」

『わかったで、みのりちゃん、呪歌や!』

『はいっ!! 『ゆっくりゆっくりゆっくりなりたまえ~~♪』』


 よし、画面の向こうは、かーちゃんに任せよう。


「ミハエル! お前の負けだ! 降参しろっ!」

「ぐぐぐ、なんてことデースか、でもかまいません、タカシのマーチは三分しかいられまセーン、タカシを討ち取り、ドラゴンを倒すだけの、簡単な仕事デース」

「おう、言ったな、やってみろっ!」


 レグルスが怒って尻尾でビタンビタンと床を叩いた。

 たぶん、レグルスが来たのは計算外のはずだ、ここの対応は俺と鏡子姉さん、泥舟と、くつした対策までだろう。

 後ろ頭がチリチリした【危険察知】だ。

 ミハエルの後ろから、地対地ミサイルを持った二人の工作員が現れ、レグルスに向けて発射した。


 火を噴いて接近するミサイルに向けてレグルスはブレスを撃った。

 途中でミサイルは爆発し、壇上にいるミハエルと工作員にブレスが襲いかかる。

 ドラゴンブレスは威力凄いなあ。

 工作員二人は吹き飛ばされて、ミハエルは盾の影に隠れた。

 盾はブレスの火炎を切り裂いて防ぐ。


「生意気なあっ!!」


 再度レグルスが息を吸い込むと、俺たちの後ろに光の柱が生まれた。


『へーイ、タカシボーイ、手伝うぜ!!』

『キャシーのお爺さん!』


 コメントチェッカーに文字が流れていく。


『ぎゃあ、キャシーちゃん、サッチャンチャンネルの動画に向けて【サーバント召喚】したあっ!』

『タカシがやってたから、真似したんだな』

『画像越しに呼べるとは便利じゃな』


 ライブ会場では『サッチャンチャンネル』を流しているのか?

 いろいろ助かる、ありがとうキャシー。


『さあ、パーティの始まりだっ!! ロッシャン!!』


 ジョン爺さんはM2機関銃を背中から下ろしてガガガガガと銃撃を始めた。

 レグルスは間欠にブレスを吐いてミハエルの周りの機械を赤熱させ、溶かしている。

 ミハエルは猛攻に盾に隠れて動けない。

 しかし、凄い性能の盾だな。


『ミハエルの盾は魔盾『オハン』だ、細かい性能は解らないけど、ブレスも機関砲も効かないっぽいな』

『ロシアの隠し球だな、よし、タカシ、ぬっころして奪え』


 リスナーは気楽に言ってくれるな。


「タカシくん!!」


 上の手すりからみのりが顔を出した。


「脱出したか!」

「うちにまかしときっ!」


 そう言うと、かーちゃんはみのりをお姫様抱っこして、手すりからジャンプした。

 どーんと床が揺れて、俺たちの後ろに、かーちゃんが着地した。


「たかしくんっ!」

「みのりっ!」


 みのりは涙ぐみながら俺に抱きついてきた。

 しっかりと抱き留める。

 暖かくて柔らかい。

 ああ、みのりを失わなくて良かった。


「ありがとう、かーちゃん、『盗賊』シーフは」

「ぶっ飛ばして来たで、手足を砕いたからしばらくうごけへんわ」

「【絶対回避】あるのに」

「みのりちゃんの【スローバラード】を掛けてもらって、二段攻撃すれば、二発目は当たるわ」


 そうか、全部の攻撃を回避できる訳じゃないのか。

 認識した攻撃だけを避けられるのか。

 【スローバラード】が掛かった状態だと、かーちゃんが超高速で動いてる感じになるから、意識の外から当てられたんだろうな。

『ジョンさん、うちはそろそろ時間です、この子らを頼みますよって』

『おう、まかせとけっ、ヨシエ!』


 かーちゃんは俺に向き直った。


「タカシ、今日はあと一回しか、うちを呼べん、でも、危なくなったら、ちゃんと呼ぶんやで」

「ああ、頑張るよ、かーちゃん」

「おかあさま、ありがとうございます」

「そんな水くさい、タカシと頑張るんやで」

「はいっ!」


 かーちゃんは消えていった。


 依然、レグルスのブレスと、ジョンおじさんのM2機関銃の猛攻でミハエルは動けなくなっていた。


『ちい、堅い盾だぜっ! どうするタカシボーイ、応援のあてはあんのかい?』

「レグルス、ブレスは温存してくれ」

「どうするんだ、タカシ」

「俺が倒す、みのり[大神降ろし]だ」

「解ったよ、『浦波』は返す?」

「何があるか解らない、今回は『彩雲』で行く」

「わかった、頑張って、タカシくん」

「ああ、ミハエルをぶっ飛ばす」

「一騎打ちか、燃えるな」

『ひゅー、タカシボーイは漢だなあっ』

「雑魚が出てきたら、レグルス、ジョン爺さん、頼みます」

「おう、任せろ!」

『後ろは俺にまかせときなっ』


 かーちゃんを呼べるのは後一回。

 だが、これは俺がやらないといけない戦いだ。


「ミハエル!!」

「タカシ! 一騎打ちなら勝てるとでも思いますカー、生意気デース! 無敵の魔剣グラデンツィヤと、無双の魔盾オハンで、あなたを殺しマース。死体を持ってロシアで蘇生させマース。覚悟デース」

「やってみろ!!」


 みのりの[謡]を背にして俺はミハエルのいる壇上に駆け上がった。

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