第285話 そしてデビューライブは始まる

 お茶を飲んで待っていると開場十五分前に縄谷さんがやってきた。

 今日はスタッフジャンパー姿だな。


「こんちゃっ、今日はよく晴れたねえ、さあ、席に案内するよ」

「ありがとうございます」

「『チャーミー』は全員スタッフで入ってんのか、縄谷」

「そうだよ、鏡子ちゃん」


 『チャーミーハニー』が全員でライブの警備をしているのか。

 対ロシアシフトだな。


「公安警察と内閣調査室、あと自衛隊の諜報本部も詰めているさあ。日本の諜報組織の意地を見せるって感じで頑張ってるよう」

「大事になりましたね」

「へへへ、『Dリンクス』は日本の宝だからねえ、アマテラスさまが宿った武器をロシアに奪われるな、が合い言葉さあ」


 只の高校生たちに過分の期待だなあ。

 ありがたいんだけど、ちょっと重たくもあるね。


 縄谷さんの案内で、俺たちは開場前に客席に入った。

 パイプ椅子の後ろに番号が書いてある。


「パイプ椅子なのか、安っぽいな」

「タカシ、ライブが始まったらみんな立つからさ、椅子は目印みたいなもんだよ」

「あ、そうなのか」


 アイドルのライブとか行った事がいからなあ。

 しかも野外フェスである。

 勝手がわからないね。


 『Dリンクス』の席は一番前の一列目の真ん中だった。

 さすが身内席だな。

 『オーバーザレインボー』の席は隣、『ラブリーエンゼル』の席は俺たちの一列後ろだった。


「高田っ、おめえでっけえんだっ、縮めよっ!」

「そうだそうだっ、縮め縮めっ」

「めちゃくちゃいわないでお、姫川さん、高木さん」

「おとなしくしてましょうよ」

「まあ、コウコが言うならしょうがねえな」

「最前列が良かったのに、高田替われっ」

「い、いやだお」


 高田君も後ろが『ダーティペア』で災難だなあ。


「『Dリンクス』は、一番前で、みのりんの姿がくっきり見えるよ、良かったねえ。何かあったらステージに飛び込みやすいし」


 縄谷さんが笑って言った。

 日本中の諜報組織で、そういう事態になる前に未然に防いでくれよ。


 鏡子ねえさんが、席からステージを目算していた。

 観客席とステージまでは、スピーカーやライトの機械類と鉄柵があって簡単に入れないようになっている。


 シュンッと鏡子ねえさんが[縮地]で瞬間移動をした。

 パッパッパとねえさんは鉄柵の上に瞬間移動し、機械の上に瞬間移動、そしてステージの端に乗って、こちらに振り向いた。


「なんとかなる」

「ねえさん、帰ってきなさいよ」

「わかった」


 ステージで準備をしていたスタッフが目を丸くして鏡子ねえさんを見ていた。

 しかし、瞬間移動は便利だな。

 とはいえ、Dチューバーのジャンプ力ならば間の機械は問題無く飛び越せそうだ。

 ステージ上で何かあったら飛び込もう。


 鏡子ねえさんが[縮地]で帰ってきた。


「タカシ、あいつ、二つ後ろの列にいるな」


 俺が振り返ると、ラオウ風味のごつい外人がこちらを見ていた。


「縄谷さん、あれ、誰ですか?」

「んん~、知らない。開場前に席に着いてるって事は関係者だと思うけどねえ」


 諜報関係者じゃないのか。

 『ホワッツマイケル』か、アメリカの関係者かな?

 どちらにしろ、ただ者では無さそうだな。


「こちらにどうぞ、マイケルさま」

「ありがとうよ、鏑木、お、隣はタカシか」

「マイケル、あんたも来たのか」

「ああ、マリアは『ホワッツマイケル』の仲間だからな、お、チアキ、元気か」

「げ、元気……」


 チアキはまた気後れしたようだ。


「お、くつした~~、会いたかったぜ~~」

「ばおんばおん」


 くつしたは嫌がってチアキの向こうに隠れた。

 マイケルの事はあまり好きじゃ無いようだ。


「おい、マイクー、あれ誰かわかるか」

「マイクーってよぶなキョウコ。……、でかいな、だが知らん」

「メリケンのDチューバーじゃないのか?」


 隣のパティさんが振り返ってラオウさんを見た。


『ステイツのチューバーの顔は大体知ってるけど、知らないわね。どこの関係で入ってるんだろう』

『アメリカ関係者じゃないのか』

『違うわよね、テレサ』

『そうだな、あんなデカブツはしらないよ』


 隣に居る『重戦士』のエリベルトさんぐらいの体格だよな。


「鏑木はしらねえのか」

「知りませんね、どこの招待客……、三列目はどこ関係だったかな」

「ちょっと後ろも警戒しとかねえとな、アレは相当強いぞ」

「そうだよな、すげえ強い、喧嘩売ってきて良いだろうか」

「そ、それはその、野蛮じゃあねえか、キョーコ」


 マイケルに野蛮と言われるとは、鏡子ねえさんは凄いな。


「ちきしょー、失敬だぞマイクー」

「マイクー言うなってんだっ」


 ブブー!


 ブザーが鳴って、お客さんが入って来た。

 このマリア&みのりのデビューライブは一般販売もされたのだけど、ものすごい競争率で、プレミアム価格で転売されていたらしい。


「私も、デモカリでチケット三十万超えているのを見て、売っちまうかなあって思ったんだけど、クラスメートのライブだしな」

「そうそう、あたいらも将来はDアイドル目指さなきゃだからよ、一応研究の為に見とかないとってなあ」


 『ダーティペア』が適当な事を言っているなあ。

 転売とかすると捕まるぞ。


 人が静かな波のように入って来て、パイプ椅子に陣取っていく。

 ああ、なんかお祭りって感じだよなあ。

 文化祭とかの感じ。


「開場から一時間で開演か、長いな」

「私、ライブとか初めてだよ、動画では見たことあるけど」


 チアキが満面の笑みで言った。


「僕はクラッシックとかピアノのは行った事があるんだけど、ライブは初めてだね」

「わ、わたしもです、泥舟さん、ドキドキしますね」


 うん、ギラファ装備だと相当目立つけど、マリちゃんは初めてなんだね。


「ぎゃー、ギラファメイルの子がいるー」

「というか、『Dリンクス』の人が完全装備だ」

「鏡子様がフル装備でおじゃる、レアですぞー」

「くつしたくん、いるーっ!! うわあ、もふりたいーっ」


 フル装備で来たのは間違いだったかもしれない。

 超目立っているなあ。

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