第286話 オープニングアクト『サザンフルーツ』と『チョリズ』
ライブ開始直前だ。
観客席に詰めかけたDアイドルファンの熱気が膨れ上がって怖いぐらいだね。
ブッブー。
ブザーの音が鳴り、スモークが焚かれて『サザンフルーツ』の三人が出てきた。
「川崎マリエンライブにみなさんようこそっ! 今日は目一杯楽しんで行ってくださいねっ」
『
軽快な演奏が青空に溶けていく。
『サザンフルーツ』の三人は踊り始めた。
お、やっぱりDアイドルなんで動きに切れがあるな。
「そうよ私たちは遠くまで~♪ 南の果てまで突き抜ける♪ 南洋じゃ美人だとあなたは憎らしい事を言うけれど~♪ そうよ私たちはサザンフルーツ、どれから食べてもおいしいぞっ♪」
歌詞は甘ったるくてベタベタっだけど、プロの生演奏に乗せて、本職の
おっと、みんな立ち上がり始めたな。
俺も立とう。
メロディの切れ端に、ちらりちらりと呪歌の感じがあるね。
『おはようの歌』だったり、『元気の歌』だったり、ちょっと良い感じに盛り上げてくれる。
なるほど、これが
気がつくと良い感じに観客席がノリノリであった。
「ミキちゃーん!! ヒカリちゃーん!! ヤヤちゃーん!!」
チアキが大声で声援を送っていた。
『サザンフルーツ』のファンだったんだなあ。
最前列なんで、小さいチアキでもよく見れていいな。
ドンチャドンチャと音の圧が凄いな。
ヒカリさんも、ヤヤさんもコーラスで参加する。
ミキさんは笑顔で踊りながら歌う。
いやあ、ライブ始めてだけど、何か凄いな。
自然に気持ちが盛り上がっていくね。
【気配察知】でヒデオさんを探してみたら、舞台袖にいるっぽい。
うん、ヒデオさんリズム感無いね。
透明ゴリラも曲に合わせて踊っていた。
おお、ゴリラさんたちはリズム感良い。
ドーンと音がして、スモークが吹き出し、曲が終わった。
「『サザンフルーツ』のデビュー曲、『南国フルーツパラダイス』でしたーっ!! みんなありがとー、次は『チョリズ』さんです~、拍手~~!!」
ミキさんが軽快に紹介すると、曲のイントロが流れはじめ、『サザンフルーツ』は退場した。
舞台袖で、ヒデオさんとハイタッチして健闘をたたえているな。
「あー、生の『サザンフルーツ』よかった~~!」
「ばうんばうん」
くつしたも気に入ったようだ。
「バンドはチープだけど、透明ゴリラは面白れえな」
隣のマイケルがぼそりと言った。
「配信冒険者目線かよ」
「俺は世界一のDチューバーだからなあ」
確かに透明ゴリラは戦力として良いけどさ。
バード入りパーティとしてもなかなか良いバランスになれるような気がするな。
前衛をゴリラさんたちに任せて、『
六人パーティーだと、『
編成は奥が深いんだぜ。
スモークがどばどば出てきてステージを流れ落ち、バチバチと火花が散って、チヨリ先輩が現れた。
「みんなー、私のライブにありがとー。と言えれば良いのだけれど、今日はかわいい後輩のみのりんと素晴らしい先輩のマリアさんのディオのデビューライブなのよね」
「チョリ~~」
後ろから後醍醐先輩の声援が聞こえた。
チヨリ先輩は苦笑して、手を小さく振った。
「それでは聞いてくださいねっ、『おはようの歌、ロングVer』ですっ」
チヨリ先輩はマイクを持って、歌い始める。
ああ、なんだか、朝の学校で見るよりも綺麗で、歌が上手いなあ。
『おはようおはようおはようございます~~♪ すてきな朝、青い空、白い雲に今日の元気をはじけさせましょ~~♪』
歌い出しは、朝のワイドショーでチヨリ先輩がよく歌っている『おはようの歌』であった。
ああ、フルバンドでアップテンポにすると良い歌だなあ。
続きの歌詞は転調して『労働の歌』のメロディに乗り、皆の心の労働意欲をかき立て、『お願いの歌』のメロディで、私だけを見てくださいねと引きつけ、『冷静の歌』の切れ端を挟んで冷まして、そしてまた『おはようの歌』に戻った。
いやあ、テクニカルだなあ。
呪歌の効果を使って聞いてる聴衆の気持ちを上下左右にぐいぐい動かしていく感じだ。
観客もヒートアップに次ぐヒートアップ。
チョリファンなのか、斜め後ろの一団がサイリウムを振り回し、サビを合唱した。
そろいの法被を着ているな。
チヨリ先輩は一人なのに、堂々としたアイドルであったな。
スモークが焚かれ、曲は終わった。
「では次は、真打ち、『マリア&みのり』の登場だよ。みんな楽しんでいってねっ!」
お辞儀をしてチヨリ先輩は袖に引っ込んだ。
マリアさんとみのりの気配があって、チヨリさんが声を掛けているみたいだ。
がんばれよ、みのり。
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