第282話 透明ゴリラ二匹と戦う

 やばい、恐ろしく強い気配がする。

 推定でレベル50は超えている感じだ。

 一匹一匹がミノタウロスよりも覇気があるぞ、こいつら。


「きゃりあああありああ」


 狂化バーサーク状態になった鏡子ねえさんが駆けこんできた。

 ガシャンガシャンと『金時の小手』が変形を始める。

 パッパと[縮地]で瞬間移動しながら透明ゴリラに近づく。


「タカシにいちゃん、銃!」

「タカシ、銃!」


 くつしたがバウバウと吠えながら透明ゴリラに突っ込んでいく。


 ……。


 ゴリラたち、動かないな。


『ぎゃー、ヒデオ!! 『Dリンクス』さんがゴリちゃんたちと戦ってるう!!』


 ステージ上でリハーサルをしていた『サザンフルーツ』の女の子が悲鳴を上げた。


「うわ、なんてこったあ」


 さえない感じの寝癖のおっちゃんがバタバタ駆けこんできた。


「きゃりありあ?」


 鏡子ねえさんとくつしたが動きを止めた。

 敵じゃないのか?


『すいませーん、うちのボディガードのヒデオの超能力でーす』


 超能力?


「すいませんすいません、ステージ近くだとこいつら邪魔なので、ここに置いていたんですよ、魔物じゃないです」


 ヒデオさんが俺に向けてペコペコ頭を下げた。


「超能力でできた、ゴリラ?」

「おお、さすが『Dリンクス』のタカシさん、存在を感知して、ゴリラと解るなんて、いつも配信みてますよ」


 ヒデオさんは人の良さそうな顔で笑った。

 『サザンフルーツ』の三人の女の子がステージを降りてこっちに駆けてきた。


「『そは人間なりき、迷いを忘れ元の姿へ戻れ、【解呪ディスペル】』」


 朱雀さんが鏡子ねえさんの狂化バーサークを解いた。


「ぎゃあ、鏡子さんにタカシ君だあ、初めまして、『サザンフルーツ』のミキって言います、よろしく~~」

「あ、はい」

「ひゃあ、チアキちゃん、くつしたくんっ、あたしはヒカリだよ、よろしくねっ」

「ここ、こんにちは、ヒカリさん、いつも配信みてます、噂の透明ゴリラはこんな感じだったんですね」

「わ、ありがとう、あたしも『Dリンクス』の配信は欠かさず見ているよ、ゴリちゃんたちを察知できるなんて、【気配察知】スキルってすごいねっ」


 なんだ、チアキは知っていたのか、早く教えてくれよ。


「こんにちは、私はヤヤです。はあ、生泥舟さん、そして朱雀さん、こんにちはこんにちは」


 おとなしそうな白い衣装の女の子がそういった。

 ミキさんが吟遊詩人バード、ヒカリさんが射手アーチャー、ヤヤさんが僧侶プリーストの後衛Dアイドルパーティーだな。


「こここ、こんにちは、丸出英雄まるでひでおともうします、『サザンフルーツ』のボディガードみたいな事をやってますよ」

「よろしくおねがいします、『Dリンクス』の新宮タカシです」


 ヒデオさん、なんか温厚そうでいい人みたいだな、さえないおっちゃんだけど。


「丸出家……、ヒデオさん、滋賀の出身じゃないですか?」

「え、はあ、なんかヒイヒイ爺さんの時に関東に来たみたいですが、滋賀だったのかなあ」


 朱雀さんは透明ゴリラの方を見た。


「これ、陰陽の護法童子ですよ」

「「「「えっ!」」」」

「このゴリラ、陰陽系のもんなのか」


 鏡子ねえさんが透明ゴリラのおなかあたりをポンポンと叩きながら言った。


「あ、毛がわしゃわしゃだ」


 チアキも寄っていって、足のあたりをなで回した。


「なんと、俺は超能力だと思っていたんですが、陰陽系の物だったんですか」

「もう、本流では失伝した技術ですよ、丸出さん。これは本家に報告しなくては」

「そうなんですかあ、うちが陰陽の家系とは、農家の家系だとばっかり思ってましたよ」

「ヒデオのルーツが解って良かったね」

「ゴリちゃんたち、術の存在なんだねえ」

「パワーアップ方法とか伝わってるかもよ」


 『サザンフルーツ』とヒデオさんは仲が良いみたいだな。

 この見えないゴリラ二体が居れば良い前衛になるだろうしね。


「ヒデオ、ロシア人が来たらゴリラを動かして制圧してくれ」

「あ、はい、やりますよ、鏡子さん」


 鏡子ねえさんはにっこり笑った。

 これは警備に心強い味方ができたな。


「護法童子というのは、安倍晴明とかの流れですか、朱雀さん」


 泥舟が詳しい話を朱雀さんに聞いていた。


「そうね、五条戻り橋の下に住まわせていたらしいわね。前鬼、後鬼のセットで運用していたみたい」

「ひい爺ちゃんが未来に持って行け、かならず二体が役に立つ時がくると言ってたけど、この事だったのかねえ」

「『サザンフルーツ』さんは今何階ですか」

「いま、十二階です。ゴリちゃんが居たおかげでなんとか十階を抜けられましたよ」

「そうですか、下の方に来たら、一緒にレイドしましょう」

「ぜひぜひ、うわああっ」


 『吟遊詩人バード』のミキさんの表情がパアッと明るくなった。

 さすがは『吟遊詩人バード』だけあって魅力的で綺麗だな。


「ヒデオのおっちゃんはパーティーで何やってんの?」

「え、無職だよ、チアキちゃん。なかなか何をするって決まってなくて困ってねえ」

「ゴリ頼りなのかあ、何かやった方が良いよ」

「そう思ってるんだけど、なかなか合う職業が無くてね。『盗賊』シーフをやろうとしたら毎回敏捷度でひっかかるんだよ」


 十二階を過ぎても、まだ『参入者ビギナー』やってるのも凄いな。

 後衛はそろっているから、定石だと『戦士ウォリアー』かなあ。


職業ジョブチェンジは特にペナルティ無いから、仮に『戦士ウォリアー』とか入れといた方が良いですよ」

「そうしようかねえ」

「そうだよ、ヒデオは鈍いから『盗賊シーフ』とかじゃなくて『戦士ウォリアー』かやれば良いんだよ」

「いやあ、ゴリ太郎とゴリ次郎に命令出さなきゃならないしねえ、むずかしいよ」


 ああ、そうか前衛に出るとゴリラたちに命令を出すのが難しくなるのか、言ってみれば指揮能力だしな。

 中衛の槍とかかなあ。

 珍しい能力があると職業選択が難しいね。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る