第280話 マイクロバスでマリエンに行く

「おはよーございまーす」


 マリちゃんがやってきてドアを開けた。

 そしてぎょっとして立ちすくんだ。


「装備着て行くんですか?」

「ロシア人とかりっちょんとか来そうだから念のためだよ」

「武器とかは」

「さすがに武器は持っていかない、状況が始まったら配るよ」

「状況……。わ、わたしもギラファメイルですか?」


 フルプレートメイルは目立ちそうだなあ。


「うむ、マリはギラファ装備で」

「ううう、おしゃれしてきたのに~」

「まあ、『Dリンクス』だって、すぐ解って良いでしょ」

「ギラファメイルって着てると大変?」

「意外にそうでもありません、本当は下にチェーンメールを着るんですけど、ジャージでごまかしてますから。ちょっと重いぐらいですよ」

「うん、じゃあ、マリ姉ちゃんには私の替えジャージを貸すよ、はいこっちはいこっち」

「サイズが合わないのでは~」

「迷宮産の衣類は魔法のフリーサイズ」


 そこらへん便利なんだよな。


 マリちゃんは台所の方、ついたての向こうで着替え始めた。

 鏡子姉さんは『金時の小手』『蹴早』アシッドパイパーのボディスーツ、胸当てでフル装備だ。

 泥舟は、手甲、すね当て、胴丸のフル足軽装備。

 チアキはジャージにガントレット、グリーブ、胸当てで俺と一緒だな、カウボーイハットを目深にかぶっている。

 朱雀さんはスーツかな、巫女服をそろそろ着て欲しい所だが。


 マリちゃんがギラファ装備に着替えて、『Dリンクス』フル装備である。

 でもワンルームマンションでフルプレートは無いわ。


「これ、凄いんですよ、可動域が広くて、ほら、正座できるんです」

「おお、凄いなあ、でも意味がわからない」

「可動域が広いと動き易いんです」


 迷宮には狭い所もあるから動き易くできているのかもしれないな。

 ギラファメイルは結構高級品だし。


「うんうん、目立つ目立つ、うっしっし」


 鏡子ねえさんが猫みたいな顔で笑った。

 楽しんでるなあ。


「ロシア人かりっちょんが来たら、私が[縮地]で飛び込むから」

「ステージの前には機材がありそうだね、ジャンプして乗り越えられるかな」

「峰屋さんに『浦波』を渡しておけばどうかな」

「衣装にもよるなあ」

「ああ、バードスタイルだぞ、『吟遊詩人の帽子』もかぶってた」


 リハーサルを見ていた鏡子ねえさんが教えてくれた。


「それなら腰に『浦波』があっても不自然じゃないか。レーザーが怖いからなあ」


 みのりは意外に動きが悪いからレーザーの良い的だな。


「私はくつしたに乗ってステージにジャンプするよ」

「ばうばうっ」

「くつしただけを護衛に走らせた方が良くないか」

「えー、私もステージ立ちたいしー」


 もう、イベントの出し物じゃないんだぞ。


「僕は観客席から狙撃するよ、りっちょんも、ロシア人も殺しても良いんだよね」

「うーん、最悪の場合は朱雀さんに【復活リライブ】してもらうけど、長銃は難しいな、りっちょんを見た瞬間に煙幕弾を当てた方が良くないか」

「うう、なんだか、凄い事がおきそうですね。私は席でおとなしくしています」

「マリちゃんはそうだね」


 収納袋から煙幕弾を出して泥舟に渡した。


 Dスマホが【元気の歌】のメロディを奏で、着信を伝えた。


『東海林だ、マンションの前にいるぞ』


 ベランダから乗り出して下を見てみると、東海林達『オーバーザレインボー』が居た。

 丁度良く、マイクロバスも来たな。


「出発しよう」

「「「「「おうっ」」」」」


 みんなでエレベーターで一階に下りた。


「おはよう新宮……、なんでフル装備?」

「荒事あるかもしれないしさ」

「りっちょんとロシア人か、やっかいだな」

「ああ、手斧を持ってくるんだったお」

「やめとけ、人混みで戦うのはあぶねえ」


 お、珍しく霧積がいるな。

 なんか久しぶりだ。


「うぎゃー、くつしたくん~、今日もかわいいっす~っ」

「もふもふもふもふ」


 樹里さんと藍田さんがくつしたの首筋をもふもふした。


「ばうばう」


 マイクロバスが横付けされて、チヨリ先輩が下りてきた。


「『Dリンクス』と『オーバーザレインボー』みんな居るわねっ」

「おはようございます、チヨリ先輩」

「早く乗っちゃって」


 俺たちはどやどやとマイクロバスに乗り込んだ。

 あ、運転手は『チャーミーハニー』ののっぽの前衛さんだな。

 俺が会釈すると、彼女はニッと笑った。


 マイクロバスの一番後ろには、後醍醐先輩と『迷宮ぶっ潰し隊』の人たちが居た。


「おっす、タカシ、今日は良い天気で良いな」

「おはようございます先輩」

「ああ、くつした、こっちに座れよう、おーよしよしよし」

「ば、ばうう」


 後醍醐先輩と強面の先輩がたにくつしたが可愛がられた。

 この人たちももふもふ好きなんだよな。


「チヨリも前座で出るんだろ、良いのかこんな所に居て」

「まあ、そうだけど、あんた達もほっとけないからね、会場に着いたら急いで準備するわ」


 チヨリ先輩はなにげに世話好きだから、助かる。


「あ、ちょっと止めてください」


 運転手のお姉さんがどうしたという目で俺を見た。


「知り合いが居たんで、乗せていいですか」

「お、確かに『ラブリーエンゼル』の四人か」


 窓の外の歩道で、『ラブリーエンゼル』の四人がこちらを見上げていた。


「空いてるから問題無いわ、早く収納しちゃって」


 俺は窓を開けて、姫川に声を掛けた。


「おはよう、マリエンだろ、乗ってくか?」

「おお、良いのか、バスで行こうと思ってたんだっ」

「ぎゃはは、迷宮行くのかよ、タカシ、おめーっ」

「なんかあったら困るからな」

「林道くん、おはようだおっ」

「高田、おはようっ」

「おはようございます、タカシさんっ」

「良いから乗りなさいよっ」


 『ラブリーエンゼル』を拾ってマイクロバスは走り始めた。

 川崎マリエンまでは、そんなに遠くはない。

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