第277話 八階を一回りしてロビーに戻る

「それじゃ、うちはこれでな」

「かーちゃーん」


 チアキが名残惜しそうにかーちゃんに抱きつき、かーちゃんは目を細めて頭をなでて粒子になって消えていった。


「ばおんばおん」

「くつしたも名残惜しいか」

「ばうばう」


 俺たちは『マルタ会』の奴らを放っておいて広場を通り過ぎる。

 ポーションや傷薬で必死にけが人を回復させようとしているな。

 死人は五人ほどだ。

 奴らに人望があれば悪魔教会で蘇生されるだろうし、無ければ迷宮の肥やしになることだろう。


『まあ、待ち伏せなんかする奴らの自己責任だな』

『迷宮は食うか食われるかなのだ』

『鏡子さん居ないからって嘗めすぎだわな』


 リスナーさんたちも配信冒険者が多いから俺たちを非難するコメントは無いようだ。

 先生の方が複雑な表情だな。


 隊列を変えて八階を歩き回り、狩りをする。

 八階でも、先生方は良い感じに戦えているね。

 次回ぐらいにフロアボスにいけるか、それとも九階を狩りするか、悩む所だね。


「新宮君の恫喝で、少しは半グレたちもおとなしくなりそうかな?」

「いえ、あいつら記憶力も洞察力も無いので」

「ちょっとましぐらいじゃないかな」


 やっぱりチアキは半グレに詳しいな。

 俺は三年間、半グレを沢山見てきたんだけど、あいつらは徹頭徹尾楽天的で自分の思った通りに進むと信じて疑わない。

 上手く行かなかったときは「なんでだよっ!」と怒り狂うのだ。

 慎重な奴、考える奴は最初から半グレとかやって無いんだな。


 今回の制圧で少々掛かってくる奴らは減るだろうが、『Dリンクス』が介護しない場合は普通に襲ってくるだろう。

 先生方が六人、平均で二十レベルぐらいあれば二の足を踏むかもしれないけどね。


 オークやゴブリン、ヒュージスパイダーなどを倒していく。

 やっぱり、望月先生の麻痺水鉄砲が良いね。

 狩りが格段に楽になっている。

 二十階ぐらいまでは『錬金術師アルケミスト』は良い職業だな。

 いろいろな薬剤も調合できるし。


 九階への階段まで来て一休みだ。

 お茶を飲んだり、軽食を食べたりする。

 チアキがおにぎりをぱくついているな。

 くつしたにやったりしている。


「迷宮は過酷な所ね、生徒を入れたく無いわね」

「とはいえ、生徒は入りたがりますしね、お金も名声も運次第ですし」

「十階を超えて、生徒を運んで育成しても良いかもしれませんね」


 半グレ階を飛ばすのも手ではあるね。


「五階まで修行して、十階からですか」

「どうかね、泥舟くん」

「五階と十階だと魔物の強さが跳ね上がりますから、難しい所ですね」

「なかなか悩ましいねえ」

「プロ級、C級越えの先生パーティを作ればいいよ」

「いやあ」

「いやあ」

「難しいわねチアキちゃん」


 ミノタウロスを倒すには、レベルとレア武器が要るからなあ。

 なんだかんだ言ってもレア武器が一本あると無いとでは戦闘力が違うし。

 なので、十階、二十階でレア武器が出るかの勝負ではあるんだよ。

 迷宮は残酷で不平等なんだな。


「学校教育に組み入れるには色々と障害があるねえ」

「物騒な場所ですしね」

「文部科学省としては、Dチューバーの生徒が増えて欲しいのでしょうな。知力、体力が段違いになりますし」


 大人の世界でも色々と困惑しているのだろうね。


「次回は九階を回って、その次にフロアボス戦ですね」

「そ、そうかね」

「倒せるかしら、ワーウルフさん」

「竹宮先生とマリちゃんは装甲が厚いですし、あと、チアキとくつしたもいるからなんとかなると思いますよ」

「その時は長銃貸してよ、泥舟兄ちゃん」

「そうだね、拳銃より火力が大きいし、良いかもしれない」


 魔石弾でワーウルフの足を止めるかすればいけるか。

 お付きのフォレストウルフ三頭はくつしたがやっつけそうだ。


「全滅したら、私が生き返らせますので」


 朱雀さんが笑って言った。


「ああ、【復活リライブ】があるのはありがたいな」

「心強いわ」

「お任せください」

「朱雀さん、何回【復活リライブ】できる?」

「魔力満タンで二回ですか、マジックポーションを使えば後二回増えます」

「マジックポーションの作り方をテレサさんに聞いておくよ」

「助かります、望月先生」


 なんだかんだ言って職業ジョブが色々あると戦略に幅ができるね。

 あまり人気の無い職業でも必要が無い、という事は無い。


『自作錬金できるのは良いなあ』

『化学教師の天職だねえ』

『まだ、迷宮産の方が効果高いみたいだけどね』


 熟練のテレサさんでも、自作ポーション類は迷宮産の物よりも効果は薄いらしい。

 迷宮で産する薬草とか、毒消し草を使わないで外界の物で代用しているせいらしい。


 ナッツバーをかみ砕き、泥舟が入れてくれたお茶を飲み干して、俺は立ち上がった。


「さて、ロビーに戻りましょう」

「解った、帰ろうか」

「今日もよく戦ったわ」

「魔物よりも半グレの方に気をつかうねえ」


 俺たちはロビーを目指して歩き始めた。


 帰りは特に事件も無く、行き会った魔物を倒しながら進む。

 半グレたちもなんだかおとなしくなった感じだな。

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