第276話 待ち伏せを噛み破れ

 七階階段を下りて八階である。

 大分、オークとかゴブリンたちも強くなってきてるが、先生方もマリちゃんも強くなっているので魔物戦は安定だ。


 半グレパーティーとすれ違う時は緊張感が出る。

 だが、相手は、なんだかニヤニヤしながら素直にすれ違う感じだな。

 Dスマホでマップを確認する。


 待ち伏せに丁度良い場所はと……。

 下の階へ行くのに必ず通る場所、ある程度の人数が戦える広さ、そうすると、この先の広間だな。

 ふーむ。


 簡単なのはここから今日の狩りを切り上げて帰る事だが、そうすると別の日に襲ってくるだろう。

 今日対決しておく方が楽かな。


『『マルタ会』、この先で待ち構えてやがるぜ』

『人数は十八人、やる気だな』

『凄い配信冒険者はいない、平均十レベル内外だな』

『簡単に全滅させる事ができるよ、タカシ』

「ありがとうございます」


 リスナーが色々教えてくれるのは助かるな。


「やるかい、タカシ」

「ああ、殲滅させよう」

「それがいいよ、タカシにいちゃん」


 宮川先生が表情を曇らせた。


「殺す、のかい?」

「……、殺します」


 先生方は目を伏せた。


「敵は野獣と一緒ですからね、殺す気が無いと解ったらなめて襲ってきます」

「そうっすよ」


 東海林と樹里さんは賛成のようだ。


「可能なら降伏させますが、何人かは殺します」

「そうか、そうだな、迷宮とはそういう場所だ」

「外の社会とはルールが違うのね」

「はい、話し合いも法律も及ばない場所ですから、武力で従える以外の方法が無いのです」


 先生たちは近代の文明人だから、こういう方法は飲み込み難いのだろうけど、ここは迷宮だからね。


 俺は収納袋から『鬼の面』を取り出してかぶった。


「【恫喝】を使うんだね、タカシ」

「とりあえず、何か言ってきた奴を先手で射殺、その後、リーダーとおぼしき奴を射殺してくれ」

「おっけー、タカシにいちゃん」


 あんまりチアキに人殺しをして欲しくないけど、やる気まんまんだな。


「初手『ドラゴンファイヤー』でも良いけど」

「一撃全滅はやり過ぎだよ」

「そうか、『ファイヤーボール』かな」

「準備しながら移動してくれ」

「了解だ、新宮」


 マリちゃんと俺、くつしたが前衛、泥舟、チアキが中衛、朱雀さんと樹里さんが後衛に振り分けた。

 先生方は最後尾に付いていてもらう。


 【気配察知】で、前方を探る。

 人間が十六人、待ち伏せている。

 こちらの動きをスマホで見ている奴がいる。

 緊張感をみなぎらせて敵は編成をそろえた。


 通路を歩んで行くと、『マルタ会』を中心にした十六人が見えてきた。

 半グレの一人がニヤニヤ笑いながら前にでてくる。


「『Dリンクス』だな、お前ら……」


 バキューン!!


 泥舟の魔弾の一撃で半グレが倒れた。


「お、おいっ、まだしゃべっている……」


 バキューン!!

 ダキュンダキュンダキュン!!


 泥舟とチアキの銃撃で半グレが倒れていく。


「いくぞ、くつした!」

「ばおん!」

「マリちゃんはそこで壁!」

「了解です!」


 俺とくつしたはダッシュで『マルタ会』に近づいていく。


「お、おいっ! 問答無用かっ!!」


 敵は隊列を組んでいる。

 隊列というのは、装甲の堅い前衛で、遠距離の後衛を守る布陣だ。

 つまり、後衛に近接職をぶち込むと大混乱を起こせる訳だ。


「【オカン乱入】!!」


 俺は敵の後衛の後ろに、かーちゃんを呼び出した。

 光の柱が下りてきて、かーちゃんが現れる。


「お?」

「かーちゃん、後衛をぶっとばしてくれ」

「了解や!」

「な、なにいっ!!」


 かーちゃんはメイスを振りかざし、射手アーチャーを殴り飛ばしていく。

 後衛は、射手アーチャーが六人、魔術師ウイザードが一人、もちろん、かーちゃんにかなう奴はいないので面白いように吹っ飛ばされていく。


 俺とくつしたは前衛に接敵した。


「タカシーー!!」

「しっ」


 俺は呼気を吐き出すようにして、『浦波』で剣を受け、『暁』で手首を切り落とす。

 派手に血しぶきが上がるが、体をひねってよける。


「ガウガウガウガウ!!」


 くつしたは首を三つに増やして敵の足をかみ砕く。


「やめろやめろっ!! なんだよ、話を聞けようっ!!」

「聞く気は無い」


 泣きそうな顔をした半グレの膝を切り裂く。

 絶叫を上げて奴は転げ回る。


「降伏しろっ!! 皆殺しにするぞっ!!」


 『鬼の面』の力で俺の言葉は【恫喝】のスキルが乗る。

 ブルブルブルっと半グレたちが震え上がった。


「地面にひざまづきっ! 武器を手放すんやっ! 死ぬでっ!」


 かーちゃんがそう叫ぶと、半グレたちは武器を慌てて投げ捨て地面にひざまづいた。


「ゆ、ゆるしてくれ、ゆるしてくれ、お、俺たちはただ脅かそうとしてただけなんだ」

「迷宮でそんな事が通用しないのは解ってるだろう」

「こ、高校生だし、お、脅せばビビるかと思って、許してくれ許してくれ」

「C級まで行ったパーティーがそんな事でビビるわけ無いだろ」


 かーちゃんがにっこり笑った。


「なんや、こいつら、チンピラか」

「うん、先生との狩りだから、なめられててさ」

「せやな、どつかんと解らん奴らはあっちの世界でも多いで」


 異世界でもそうなのか。


 泥舟とチアキとマリちゃんがやってきた。


「やったなあ、タカシ」

「これで、『Dリンクス』をなめる奴は少なくなると思うな」

「こいつらは治療はしてあげるんですか」

「しない、勝手に悪魔寺院に行けだよ」


 マリちゃんは肩をすくめた。


「当然ですね」


「生き残りに告げておく、臨海第三高校関係のパーティーに迷惑をかけた奴らは『Dリンクス』が追い込む、半グレは半グレ同士で食い合いをしていろっ!」


 【恫喝】がかかったのか、半グレたちだけでなくて、泥舟やチアキやマリちゃんまでぶるっと震えた。


「はい、ごめんなさい」

「もうしません」


 半グレたちは土下座をして降伏した。


 ふう、これで『ラブリーエンゼル』たちも安全に通行できれば良いんだけどな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る