第269話 三十五階まで行くことにする

「ほなな、うちはいくで」

「またね、かーちゃん」

「「かーちゃん……」」


 かーちゃんが粒子になって消えて行った。

 肉食姉妹が寂しそうな顔をしているな。


 ハイアントマンも粒子になって消えていった。

 ドロップ品は、魔石と、アリナミンドリンク、アリの飼育セット、アリ兜であった。


「あー、きくきく」


 鏡子ねえさんがアリナミンドリンクを勝手に開いてゴクゴク飲んでいた。

 ねえさんはいつも元気だからいらないでしょ。


『ドロップ品は微妙だな』

『ハイアントマンだからなあ』


 魔石とドロップ品を収納袋に収めて先を行く。


 ケイズハウンドが三匹の群れで出たが、まあ、なんとか倒した。

 こいつらは頭が悪いのが解ったので巨体でも何とかなるようだ。


 ドロップ品に、ケインズ著『雇用、利子、お金の一般理論』、ケイズの盾、ハイポーションが出た。


「なんだか難しそうな本を……、あ、読んだ事がある」

「昔の鏡子ねえちゃんはインテリだったんだな」

「英語もできるしな、弱かったが」


 ケイズの盾は、表面に大きくケイズハウンドが笑っている絵が描いてある盾だった。

 カイトシールドだな。

 ハイポーションは地味に嬉しい。


 少し歩くと三十四階への階段があり、下りた。

 安全地帯で小休止だ。


 ランタンを広範囲モードに切り替えて岩の上に置く。

 隅に水場があり、壁におトイレが作ってあった。


「さあ、三十四階を抜けて、三十五階に行こうよ、そうすれば『たこ焼き一番』とタメになるよっ」

「必要か、それ?」

「要るようっ!」


 チアキが張り合っているなあ。

 まあ、三十五階まで行っても大丈夫そうだけどね。


「しかし、ヘイストが掛かる『疾風丸』と『転移の兜』の二つのレア装備でここまで潜れるかな、レアスキル持って無いかな」

『あるよ、サブリーダーが戦技『回転斬り』持ちだ』


 リーダーが、レア剣、サブリーダーが戦技か、慎重に敵を選んだり、相手を良く見て対処したりすれば可能か。


『なんだかんだ言って、『たこ焼き一番』も良いパーティだよ。最近は三十階台を何ヶ月も狩りしてレベル上げをしているね』


 三十階台になると、魔石やドロップ品を売ることで、かなり儲かるからなあ。

 C級からがプロと言われる由縁だ。


「このまま四十階まで下りて勝ってもいいぜー」

「あまり無茶は好きじゃないな」

「タカシくんは慎重派ね」

「ソロでやってたからね、死んだらそれっきりなんだ」


 今は【蘇生の珠】が四つあって、朱雀さんが【復活リライブ】を使える。

 だいぶ安心して冒険ができるよ。


 泥舟が暖かいお茶を入れてくれて、ほっこりと和む。


 さてと、どうしようかな。


「三十五階まで行って戻ろうぜ、プレッシャーを与えるのは悪く無い」

「そうだそうだっ」

「みのりは大丈夫か?」

「大丈夫、元気元気!」


 まあ、疲れていたらくつしたに乗る手もあるし良いか。


「じゃあ、三十四階を突破して三十五階へ、そこから戻ろう」

「「やったあっ」」


 肉食姉妹が飛び上がって喜んだ。


「朱雀さんは大丈夫?」

「ええ、スタミナだけはありますし、僧侶はそれほど戦闘しませんから」


 なにげに符を撃ったり、治療符で細かい傷を治したりしてるけどね。

 陰陽僧侶の便利さよ。


 安全地帯を出て隊列を組んで歩き始める。


「真ん中に大噴水がある階だね、タカシ」

「めんどうだなあ」

「どんな場所なの、ロマンティックな名前だけど」

「この階は真ん中に大きなホールがあって、その中心に大噴水がある。大噴水はライトアップされて、時間によって噴水方法が変わるとても綺麗な所だ」

「いいじゃないいいじゃない」


 みのりがうっとりとした感じでつぶやいた。


「付いたあだ名がトレイン大噴水」

「は? 列車トレイン


『噴水の周りに魔物のパーティが何個も居て、大噴水の近くで戦闘になると、どんどん襲ってくるんだ』

『走り回って魔物を沢山釣って、人のパーティになすりつけるトレインの絶好の場所が、ここ、トレイン大噴水だ』

『ちなみに遠回りになるが、トレイン大噴水に入らないで下り階段まで着けるルートもある』

「突っ切ろう」


 なんというか、鏡子ねえさんは男前だなあ。


「他のパーティが居なければトレインされないで済むのね」

「まあ、そうだけど」


 泥舟がDスマホを開いて動画を検索した。


「わ、トレインしてるパーティがいる」

「ええっ」


 中堅パーティだろうか、全員で駆けて魔物を引き連れて大噴水の周りを回っていた。


「狙って来やがったか」

「どうするタカシ」

「回り道を行く。トレインしているパーティは付かれて死ぬだろう」

「そういやそうだ」


 俺達は進路を変えた。


『あ、タカシちょっと待て、今、あっちのパーティに『リンクスは迂回路行ったって書くから』

『ばっか、そんな事したら、迂回路に……』

『そうそう、迂回路の方に誘導してったら、『Dリンクス』は誰も居ない大噴水をつっきれば良い』

『おー、冴えてんなあ』

「それ、良いアイデアですね」


 俺達はDスマホで相手の動画を見ながら進む。

 トレインを作っているのはB級の『メロウリンク』であった。


『こいつらコスイ事ばっかするから嫌いなんだよな』

『トレインで『Dリンクス』全滅狙いか』

『トレイン魔物をけしかけて、さらに自分たちも斬り掛かるんだよ』


 さすが、ここは汚い川崎大迷宮ですね。

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