第268話 苦戦じゃ無いけど【オカン乱入】

『お、系図出た、買い取りカウンターで何故か凄く高く買ってくれる。五十万ぐらい』

『換金アイテムなのか、でもなんで?』

『異世界の公爵家の世継ぎスキャンダルの証拠なのじゃ、口止め料として公爵家が高く買ってくれるのじゃ』


 余さんは何でも知ってるなあ。

 異世界の公爵家も災難だ。


『ちなみに異世界の大魔王迷宮では出ないドロップじゃ』

『公爵家、口止め損』

『貴族とはそうやって金を使う物じゃ』


 さてさて、三十三階の偵察再開だ。


 チアキがスパイダーロープを使って綱橋を作ってくれた。

 割とがっちりしてるし、手すりもあって安心だな。

 みのりが心配なので後ろで渡ったが特にこける事も無く渡りきった。

 くつしたが渡り終わったらチアキはロープを振って縄橋を解いた。

 魔法みたいだなあ。


「凄いですね、チアキちゃん」

「えへへ、これくらい『盗賊シーフ』の基本技能だよう」


 朱雀さんに褒められて、チアキは嬉しそうに笑った。


 隊列を組んで歩きだす。


「オーガファイター、一」


 道の向こうからランタンの光が一つ近づいてきた。


「よし! 強そうだ」


 遠いとランタンのオレンジ色の光でシルエットしか見えない感じだが、見上げるような巨人で筋肉がムキムキなのは解る。


 泥舟が膝射の体勢を取る。

 チアキが拳銃を構えた。


 バキューン!!

 ダキュンダキュンダキュン!


 銃弾が当たり、オーガーファイターの巨体が揺れる。

 吠え声を上げて、奴は走り込んでくる。


「『ぐるぐるぐるぐる♪ おまわりおまわりなさい~~♪ 空も地面もぐーるぐる♪ 足下ぐらぐら気を付けて~~♪』」


 オーガーファイターは、転んだ。

 本当に二足歩行の魔物相手にはチートな歌だな。


「おおおおおお!!」


 鏡子ねえさんは[縮地]で跳んで転んだオーガーファイターの頭を蹴り上げた。


 GAOOO!!


 打ち上がり立ち上がった姿勢になったオーガーファイターの肩口にかかとおとしネリチャギが入る。


「おおおおおおおおっ!!」


 またも地面に叩きつけられたオーガーファイターの頭をさらに蹴り上げる。

 浮き上がった胸に見えないパンチ。

 ドガガガガガとパンチが着弾、背中側が弾けて、オーガーファイターは倒れた。

 相手は剣も抜いてない。

 一方的な攻撃であった。


「食い足りん!」


 鏡子ねえさんが馬鹿強くなったなあ。

 【狂化】バーサークも使って無いし。


『オーガーファイターでも一匹だと相手にならないね』

『単なるオーガーの強い奴だしな。みのりんの【ぐるぐるの歌】が掛かれば敵ではない』

『トガリネズミの方が苦戦してた件』


 鏡子ねえさんは手数が多いしね。


 ドロップ品は『鬼ころし』の一升瓶だった。

 ねえさんが開ける前に収納袋へ。


「せめて一杯」

「飲酒冒険禁止」


 酔拳使いになられても困るからね。


 通路を進む。

 宝箱をチェックする。

 意外に残ってるな、さすがは三十階超え。


 木箱が二、銀箱が一だな。

 設置物には、みのりの【豪運】が効いて無い感じがする。

 出方が普通だ。


 チアキが苦もなく罠を解除して開いていった。


 木箱から宝箱の鍵とマジックポーション、銀箱から『幸運の腕輪』が出た。

 幸運関係は無条件に幸運の『吟遊詩人』バードさん行きだ。


「あ、ありがとう、綺麗な腕輪~~」

「ちえ、いいな、みのり姉ちゃん」

「いいでしょ~~、ふふーん」

『幸運はあればあるほど良い』

『マスクデータだからなあ、みのりんの幸運はどうなっているやら』

『きっと、もの凄い。『Dリンクス』の一番の怖さは、タカシでも、鏡子さんでも無く、みのりんの【豪運】だよな』

『異常にドロップするし、品物が良い』


 装備品が潤沢なのはそのお陰だよな、いつもありがとう、【豪運】さん。


「な、なんで、祈るの、タカシくん……」


 みなも俺に習って【豪運】さまに手を合わせた。


「な、なによ、みんなしてっ! なんか嫌よっ」


 さて、狩りだ。


 釣り天井の罠をわざと作動させ、落ちた所をチアキが楔で固定して殺した。

 俺達は釣り天井の上を通って先に進む。


「ハイアントマン、三」


 ランタンの光が三つゆらゆら揺れながら近づいてくる。


 バキューン!!

 ダキュンダキュンダキュン!


 鉄砲組の銃撃だったが、一匹を傷つけただけで終わった。

 近寄ってくると、マッチョ度が上がったアントマンであった。

 筋肉で銃弾が効かなかったようだ。


「『ゆっくりゆっくりゆっくりなりたまえ~~♪ あせってもしかたがないからのんびりいこうじゃないか~~♪』」


 みのりの【スロウバラード】が掛かり、アントマンの動きがゆっくりになり、奴らは動揺した。


「うらららららっ!!」


 鏡子ねえさんが[縮地]で接敵した。


「【オカン乱入】」


 俺はかーちゃんを呼んだ。

 光の柱からかーちゃんが出て来た。


「お、ハイアントマンやないかっ」


 かーちゃんは手近な一匹の頭をどついた。

 俺は傷ついた一匹にすり足で近づき、足の一本を『暁』で斬り飛ばした。


「そんなに苦戦しとらんやん」

「ああ、普通の時も呼んでおかないと夜ばっかりに召喚になるからさ」

「ああ、なるほどなあ」


 泥舟がハイアントマンの頭を狙撃し、一匹を倒した。

 俺は【弱点看破】の導くまま、ハイアントマンの心臓に一撃し、倒した。

 鏡子ねえさんとかーちゃんが二人がかりで最後の一匹を仕留めた。


「「かーちゃん!!」」

「おお、鏡子、チアキ、元気にしとったか」


 鏡子ねえさんとチアキがかーちゃんに抱きついた。


 うん、やっぱりかーちゃんが来ると安心するな。

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