第267話 狩りは続く(三十二階、三十三階)

「わはははははははは」

「わはははははははは」

「わはははははははは」

「シルバーバット三」

「『ぐるぐるぐるぐる♪ おまわりおまわりなさい~~♪ 空も地面もぐーるぐる♪ 足下ぐらぐら気を付けて~~♪』」


 いきなり空中から銀色のコウモリが笑いながらやってきた。

 シルバーバットだ。

 一匹一匹が巨大なコウモリで、何故か笑っている。

 強敵な雰囲気だったが、【ぐるぐるの歌】で平衡感覚を狂わされて地に落ち、壁にぶつかり、鏡子ねえさんに踏み潰されて、くつしたにかみ砕かれた。


「わはははははははは」


 バキューン!!

 ダキュンダキュンダキュン!


 【ぐるぐるの歌】の影響下だと、竜の尻尾由来の【平衡感覚】持ちであるチアキの銃の方が当たる。

 三発の魔弾を食らって最後のシルバーバットが落ちてきた。

 『暁』で首を刈り、とどめとした。


「へんな魔物だったねえ」

「笑っていた」

『本来はもっと強いんだけどな』

『【ぐるぐるの歌】が飛行敵に効きすぎ問題』

『このパーティ、鏡子さんとチアキちゃんが【ぐるぐるの歌】の中で動けるのが強いね』


 飛行敵はチアキの拳銃で撃ち落とせるしな。

 シルバーバットは粒子になり、魔力霧が発生し、魔石とドロップ品が落ちてきた。


 シルバーバトン、呪文スペルの【超音波探知アクティブソナー】、コウモリマント、であった。


「シルバーバトン?」

『魔法の杖じゃな、そこそこ良い奴じゃ』


 余さんは何でも知っているな。


「【超音波探知アクティブソナー】かあ」

「どんなのどんなの?」

「この呪文を掛けると音波で遠くを探知出来る。二十メートルぐらいかな」

「【気配察知】みたいな?」

「魔法の【気配察知】、みのり、覚えるか?」

「何に使えるかなあ」

「暗黒地帯で動けるようになるよ、みのりねえちゃん」

「「「あ」」」


 それもそうか。

 感知系だからMPも軽そうだな。


「よし、せっかくだから覚えるよ」


 みのりは呪文スペルスクロールを広げた。

 金の粒子が胸に吸い込まれる。


「『わが耳に伝わる調べよ周囲を見渡す視界になれ、アクティブソナー』」


 ココーン、……、ココーン。


 間欠に音がするな。

 みのりは目をつぶって集中している。


「おお、意外に広範囲に解りますね。あっちの方角にトガリネズミ、こっちにはヘビーリンクスがいますよ」


 【気配察知】を使って見ると、うん、だいたい示した方角にそれっぽい気配がある。

 いがいと良いかもな。


「わはっ、目を閉じながら歩ける、面白いっ」


 みのりはうかれた足取りで歩いて、石にけつまずいてバランスをくずした。

 とっさに俺は肩を抱いて転倒を防いだ。


「あ、あわっ、あああ、ありがとうタカシくんっ」

「気を付けろ」

「う、うんっ」


 細かい石とかを感知するのは苦手のようだな。

 しかし、『吟遊詩人』バードは何でもできるな。


 コウモリマントは、マントだった。

 防御力が上がり、なんか格好いい感じの。


 ねえさんがトカゲ柄のボディスーツの上から付けると、なんだかヒーローのようで格好いいな。


 さて、どっちに行くかな、トガリネズミか、ヘビーリンクスか。


「ネズミはちまちましていて好かん、リンクスを共食いに行こう」

「そうだね、階段もそっちの方が近い感じ」


 泥舟がDマップを見ながら、そう言った。


 みんなでヘビーリンクスを倒しに行き、倒した。

 速度があって強いけど、みのりが【スロウバラード】を掛けて、姉さんが一匹、俺が一匹、泥舟とチアキが一匹倒すと終わりである。

 くつしたと朱雀さんは戦闘補助であるな。


 ドロップ品はヘビーリンクスTシャツ、肉球ブーツ、聖典【位置判定】であった。


「Tシャツもらいっ!」

「ああん、チアキちゃんばっかり~」


 肉球ブーツは猫装備シリーズだな。

 前に取った猫耳カチューシャと、猫尻尾ベルト、猫のふわふわ胸宛てでコンプリートらしい。

 なんだか猫っぽく成れる装備で、女性配信冒険者が着て配信していたりするな。

 性能はまあまあである。


 聖典【位置判定】は座標を数字で教えてくれる奇跡なんだが、手書きマッピングなど誰もしないからあんまり需要は無い。

 だが、四十三階に全面ダークゾーンという馬鹿げた階があるので、覚えておいて損はないだろう。


「では覚えます」


 朱雀さんが聖典を開いた。

 これまで、聖典が出ても売るか上げるかだったので、使ってくれる人が出るのは嬉しいな。


「僕だけダークゾーンで迷子になりそうだ」

「その時はくつしたに乗せてあげるよ、泥舟兄ちゃん」

「わうんわうん」

「ありがとう」


 というか、朱雀さんも位置の数字が解るだけだからなあ、泥舟と一緒に、くつしたに乗せようか。


 先に進み、階段を下りる。

 三十三階だ。


「ここからハイアントマン、オーガーファイターが出てくる。ケイズハウンドが三匹チームも出てくるよ」

「腕がなるぜっ」


 鏡子ねえさんが『金時の籠手』をガチンと打ち合わせた。


「ケイズハウンド二、あ、ちょっと待って」


 チアキがみんなを止めた。

 ケイズハウンドの光る目が四つ、近づいて近づいて近づいて、ガコンと音がして消えて、下の方からピギャーという情けない悲鳴が聞こえた。


「落とし穴の罠があった」

「チアキは良く見ているなあ」

「えっへへへ」


 落とし穴の底をライトで照らしてみると、ケイブハウンドが二匹、トゲに刺さって死んでいた。


「魔物も落とし穴に落ちるのね」

「重量感知の罠だからね、そりゃ落ちるよ」


 ケイズハウンドが粒子に変わり、魔力霧はこちらに漂ってきたが、ドロップ品と魔石が穴に落ちた。


 チアキはスパイダーロープを腰に巻き、片方を鏡子ねえさんに渡した。

 

「持ってて」

「おう、無理すんなよ」

「へーきへーき」


 チアキは宙づりになってムカデ鞭を振るって、魔石とドロップ品を回収した。

 魔石が多いぞ。


「他にも落ちた奴がいるっぽい、ドロップ品は二個だから、魔石だけだったみたいだね」


 魔石が四個、大きさからするとヘビーリンクスのかな。

 ドロップ品は、どこかの家系の系図、異世界文字だなあ。

 あとは、ケイズハウンドのマグカップ。

 なんだか憎たらしい感じの笑顔のケイズハウンドが描いてある。

 であった。

 ドロップ係のセンスが解らないなあ。

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