第265話 三十一階で狩りをする

「タカシ、この階は何が出る?」

「んー、アントマン、ケイズハウンド、ヘビーリンクス、ってとこかな」

「おお、リンクスでるのか、共食いだ」


 でっかい豹みたいな山猫だけどね。


「ケイズハウンド一」


 おっと、新顔の魔物だ。

 夜行性なのか目がピカピカ光っているな。

 鏡子ねえさんがガチンと『金時の籠手』を打ち鳴らし、ブルリと武者震いをした。


「『ゆっくりゆっくりゆっくりなりたまえ~~♪ あせってもしかたがないからのんびりいこうじゃないか~~♪』」


 初手【スロウバラード】でケイズハウンドの動きがもっさりした。


 ヘッドライトの中にその巨体が現れる。

 六本足のオオトカゲ、が第一印象のモンスターだ。

 牛ぐらいの大きさで、噛みつかれると麻痺するらしい。


 バキューン!!

 ダキュンダキュンダキュン!


 鉄砲組の一斉射がケイズハウンドを襲う。

 避けようと体をくねらすが動きが遅い。


 ねえさんが縮地でケイズハウンドの至近距離に飛びこみ、ワンツーパンチ。


 どがっ、ゲシッ!!

 バクッ!


 パンチから一拍置いて殴った部分の奧がはじけ飛ぶ。

 表権能[楔]だ。


 BOOOOOOONN!!


 ケイズハウンドはわめくように鳴く。

 俺も踏み込んで首筋に『暁』で一撃。

 血が天井まで吹き上がり、ケイズハウンドはドサリと倒れた。


『安定安定、ケイズハウンド単体じゃ歯が立たない』

『やっぱ、【スロウバラード】しか勝たん』

『四十階までノンストップで行けるかな』

『放課後狩りは二時間程度しか潜れないのがなあ』

『学生パーティのつらさよ』


「何でもなかったな」

「【スロウバラード】が掛かったからね。みのり次は【お休みの歌】で行こう」

「オッケー、タカシくんっ」

「きゅ~ん」


 活躍できなかった、くつしたが悲しげな声を出した。

 くつしたはチアキを乗せてるからなあ。

 なかなか突撃させる気にならない。


 ケイズハウンドが粒子に変わり、魔力霧が漂い、魔石とドロップ品が落ちてきた。


「なんだこれ?」


 結構大きい段ボールがドロップした。

 泥舟が改めていた。


「液晶一体型パソコンだ、良かったね、タカシの部屋に置こう」

「お、おう……」

「だけどなんでパソコン?」

「ケイズ電気のパソコンらしい」


 ケイズつながりかあ、ドロップ係遊んでるな。


「幾らぐらいの物だ?」

「ちょっとまって、ああ、十八万、結構当たりだ」

「おお、良かったなあタカシ」

「お、おう……」


 パソコンは苦手なんだけどな。

 

 パソコンの段ボールを収納袋に放り込んで狩りを再開だ。


「色んな物が出ますね」

「ドロップ係の人は遊んでるから」


 黄色いざらざらな通路は何となく変な感じだ。

 エジプトの砂漠のダンジョンみたいだな。

 ときどき壁に変な象形文字が書かれていたりする。

 ネットによると、学者さんが解読しようと研究したけど、地球のどの言語形態とも違っていたらしい。


「アントマン三」


 ぼうっとしたランタンの光が三つ近づいて来ていた。


 バキューン!!

 ダキュンダキュンダキュン!


 鉄砲組が先制攻撃、三体のうち一体のアントマンが倒れた。


 俺と鏡子ねえさんは前に出る。


 みのりの前奏を聴いてハッカ飴を口に放り込む。


「『ねーむれ~~よいこよ~~♪ おかあさんのむねのなかで~~♪ ゆめをみよ~~よ~~♪』」


 む、ちょっと動きが悪くなるぐらいで、効き目が甘いな。


 アントマンは上半身が人間、下半身が蟻の魔物だ。

 人間の体の方はムキムキで赤銅色のマッチョマンで槍を持っている。

 ワシャワシャと四本の足で歩き、お尻から酸を吐く。


「いっくぜーっ!!」


 鏡子ねえさんが[縮地]で瞬間移動してアントマンの背後を取り、絡みつく。


 ボキン!


 あっけなく一匹の首が折られ、倒れた。


 俺は酸を『浦波』で受けながら接敵、足を切りつけバランスを崩した所を刺殺。

 【弱点看破】で光っている所にぶち込んだら一撃であった。


「蟻人間」

「【お休みの歌】は効かないみたいっ」

「足が多いから【ぐるぐるの歌】もあまり効かなそうだな」

「やっぱり【スロウバラード】かしらね」


 アントマン達は粒子に変わり、魔力霧が俺達の胸に納まり、魔石とドロップ品が落ちてきた。


 アントマン槍、アントマンぬいぐるみ、餡ドーナッツであった。


「おお、美味そう」

「鏡子、わたしにもわたしにもっ」


 さっそく鏡子ねえさんがパッケージを開けて餡ドーナツをむしゃむしゃ食べ始めた。

 チアキとくつしたも食べ始める。

 俺も貰って歩きながら食べる。

 甘い。


 アントマンの槍は泥舟が鑑定したところ、まあまあ、だそうだ。

 たぶん、泥舟が最初に使っていた手槍よりも格下だな。


 三十階を越えると宝箱狙いのパーティはあまり居なくて、結構残っていた。

 木箱と銀箱をチアキが罠解除して開く。

 木箱からはポーション、銀箱からは盗賊の七つ道具セットが出た。


「パティ姉ちゃんから貰った奴の方が上等だね」

「樹里さんにでも上げるか」

「彼女喜ぶよ」


 『ダーティペア』の高木にやってもいいんだけど、ううむ。

 樹里さんの方が俺の好感度は上だ。

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