第264話 迷宮に行くと『たこ焼き一番』が絡んで来た
電車に乗って川崎を目指す。
「今日は三十階台の偵察だ、新しい魔物が出るかな」
鏡子ねえさんが良い笑顔でそう言った。
「結構出るね、大分魔物も強くなってきてるよ」
「今日もネームドを倒して良い物を貰おう」
そう簡単にネームドは出ないと思うけどなあ。
京急川崎駅から複合商業施設を目指す。
JRの陸橋を渡るとすぐなんだ。
「きゃ、Dリンクスよ」
「フルメンバー、メイン狩りね」
「ああ、鏡子おねえさまぁ~~!!」
Dチューバーの追っかけの子たちが入り待ちをしていた。
あいかわらず地獄門のある広場は人が多くて縁日みたいだな。
「おっちゃん、このたこ焼き不味いなあっ、こんなんで金とんのかいっ」
「せやせや、酷いもんや」
「う、うるせえよっ!」
たこ焼き屋のお兄さんが、Dチューバーのパーティに絡まれて……。
『たこ焼き一番』だった。
ざっと目で勘定する。
六人居るな。
男子が四人、女子が二人。
よしおともう一人が戦士系、女子射手、女子僧侶、男子魔法使い、男子盗賊、良いバランスだな。
「お、来おったな、腰抜けタカシ」
「女子ばっかのハーレムパーティやのう、それでええんかっ」
「あっはっは、やめとけ、きのど……」
気の毒と言おうとしたのだろう、だが、それは言えなかった。
鏡子ねえさんが踏み込んでぶん殴ったからだ。
「きょ、鏡子おねえちゃんっ!」
みのりが悲鳴を上げた。
ねえさんに殴られたよしおは顔を上げた。
「ぼ、暴行罪や、け、警察……」
「……」
鏡子ねえさんは黙ってよしおをぼっかぼっかと殴った。
「や、やめ……」
ねえさんはよしおの胸ぐらを掴んで地獄門の方へ引きずっていく。
「なんや、なにするんやっ!!」
「迷宮の中で、殺す」
「ぎゃーっ!! お、お廻りさーんっ!!」
「ね、ねえさん、そのへんで」
「いや、殺そう、うるせえ、この口ばっかり配信冒険者」
婦警さんが一人すっとんで来た。
あれ、この人。
「はいはい、警察です、逮捕しますー」
婦警さんはよしおの手に手錠をかけた。
「な、なにしてんのや、ワイは被害者やでっ!!」
「うるせえだまれ、お前には黙秘をする権利がある」
ああ、やっぱり、『チャーミーハニー』の前衛軽戦士の人だ。
「ここは私がお説教しとくから、君たちは迷宮に行きたまえよ」
あ、鮫島さんと縄谷さんも出て来た。
「婦警さんもチャーミーですよね」
「いしし、ばれましたか、公安所属の石橋ですっ」
公安警察と掛け持ちなのか。
「こいつ、中で殺したいんだけど」
「傷害までは隠蔽してあげられるけど殺人はね、ちょっとね」
「くそう」
傷害を隠蔽も法治国家として不味くないだろうかとは思うけど、ねえさんがよしおをぶん殴ってすっきりした所はあるので黙って迷宮の中に入った。
「鏡子おねえちゃんは短気でこまるようっ」
「ええ、そうか?」
「でもなあ、半グレ達には効くんだよね、殺されるのはやっぱ嫌だから」
チアキが肩をすくめながら言った。
うちの盗賊は小さいのに半グレに詳しい。
ロビーには朱雀さんがいて手を振ってきた。
「何かありましたか?」
「『タコイチ』に絡まれた」
「え、それでどうしたんですか」
「殺そうと思ったら『チャーミーハニー』に止められた」
「そ、そうですか、外で殺人は不味いですからね」
「外界はめんどうくせえなあ」
「つかまると面倒ですよ」
鏡子ねえさんは、むーと言って黙った。
ねえさんは記憶を無くす前の知識はあるけど、まあ、実質幼女みたいなもんだからなあ。
「まあ、今日は新しい階だから、がんばろー」
「「「「「おお~!」」」」」
ポータルホールに入って、皆が三十階のポータル石碑に触って跳ぶのを見ていた。
朱雀さんは権利が無いので、鏡子ねえさんが抱きしめて跳んだ。
ねえさんは漢らしいなあ。
最後に俺が石碑に触って跳ぶ。
一瞬世界がブワンとたわみ、目の前の景色が変わる。
三十階ポータルルームだ。
ちょっと進んで階段を下り、安全地帯で装備を調える。
ふよふよとカメラピクシーたちもやってきた。
今日もよろしくねリボンちゃん。
『お、今日は三十階台か、がんばれ『Dリンクス』』
『また『タコイチ』が煽り動画だしてたなあ、馬鹿だなあ』
『ああ、地獄門前で、さっき鏡子さんがよしおをぶん殴った、すかっとしたぜ』
『外かあ、やべえ』
『傷害狙いで挑発だろ、大丈夫か?』
『説明はできないが、まかせておけい』
『(チャーミーだ、チャーミーがおる)』
『頼むぜ日本政府』
チアキは従魔の珠をポシェットから出して床に投げつけた。
「くつした、君に決めた!」
要る? その決めぜりふ。
「バウバウ!」
くつしたが出て来て尻尾を振りながらチアキにじゃれついた。
泥舟に装備と長銃を渡す。
鏡子ねえさんに『金時の籠手』と『蹴早』を渡した。
みのりにリュートを渡し、朱雀さんに防具を渡す。
俺も防具を着けて、腰に『暁』と『浦波』を挿した。
三十一階は一転黄色い砂岩みたいな肌触りの岩肌だな。
薄暗いので、ライトとランタンを点ける。
チアキがくつしたに跨がって先行する。
さあ、三十階台狩りの始まりだ。
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