第263話 『ダーティペア』のメンバーマッチング

 放課後である。


「タカシくん、今日は三十階台の偵察?」

「そうだな、三十五階まで見に行くか、三十六階にはまた謎かけ扉があるけど、答えはわかってるからすぐ通れる」

「オバケ階とか虫階は無い?」

「ああ、次のオバケ階は四十階台、虫階は五十階台だな」

「良かった~~」


 みのりは胸をなで下ろしていた。

 女子はオバケも虫も嫌いだなあ。


 俺は教科書を収納袋に入れて立ち上がった。

 廊下を歩いて行くと、泥舟と高田君と樹里さんが歩いてきた。


「タカシ、すぐに迷宮に向かうかい?」

「なんでだ?」

「望月先生のパーティマッチングを覗きに行こうお」


 ああ、それで高田君と樹里さんか。


「『オーバーザレインボー』は今日は?」

「今日はお休みっすよ、日曜日にフロアボスっす」

「ああ、二十階フロアボスか、東海林が範囲魔法を取ったから行けるんじゃ無いかな」

「なんか、藍田ちゃんも高田も『Dリンクス』のお陰でパワーアップで本当にありがとうっす」

「樹里さんも頑張ってるしね」

「そんなそんな」


 樹里さんは照れて手を振った。

 でも頑張ってると思うよ。

 【気配察知】スキル取得にも熱心だったしね。


「行こうよ行こうよ、姫川さんと高木さんのお相手がどんな人か見たい」

「野次馬だなあ」


 まあ、俺も興味はあるけどね。


「理科室だっけ、科学部の部室」

「そうだお、こっそり行くお」


 俺達は階段を上がって理科室に向かう。


「お、やってるやってる、二人とも緊張してる、向かいの痩せたメガネの男が林道くん?」

「林道くんだお、勉強できるんだ。隣の女の子はしらないお」

「科学部の子っすね」


 緊張した『ダーティペア』の前にはメガネで神経質そうな林道くん、その隣にはお下げで地味だけど目がくりっとしたメガネっ娘さんが居た。


「こここ、こんにちは、林道倫太郎です。め、目指しているのは『魔術師』です」

「お、おう、その姫川ひとみだ、『ラブリーエンゼル』のリーダー、『戦士』だ」

「あたいは高木恵子、『盗賊シーフ』をやってるぜ」

「こんにちは、目白香香こうこです、『射手アーチャー』志望です、よろしくお願いします」

「おお、『射手アーチャー』かよ、弓か? 短弓か?」

「いえその、投石器を」

「「は? 何それ」」

「ふむ、僕から説明しよう、投石器とは文字通りスリングにて石を撃つ武器で、聖書にも載っている由緒正しい武器だ。石を弾にする関係で迷宮でも弾切れは無いし、飛距離も威力も弓と遜色はないんだ」

「あー、おめー、東海林と同じタイプだなー」

「いけすかねえインテリだ」

「ほう、そうかね」


 林道くんはメガネを指で上げた。


 話を聞いていた望月先生が雲行きが怪しくなったので割って入った。


「ま、まあまあ、せっかくマッチングしたんだ、宮地さんを呼んで、今日、僕と一緒に潜らないかい、試しに冒険してからでも断れるんだから」

「そ、そりゃあ良いけどよ、石投げ? あんまりピンとこねえなあ」


 俺の懐でプーピャリ~と間抜けな音楽が鳴った。

 おっと姉さんから着信だ。


『タカシ、今どこ、私らは校門だけど』

「あ、ちょっと野暮用で、今行くよ」

『わかったー』


 ガラッとドアが開いて望月先生が顔を出した。


「ああ、新宮くん、それにみのりさんと泥舟君、高田君と樹里さん」

「なんだよっ、タカシ、覗いてんじゃねえよっ」

「締めっぞこらっ」

「悪い悪い、気になってさ」

「お、高田殿ではありませんか」

「林道くんひさびぶりだお」


 なんだか、目白さんがじっと俺を見てるな。


「し、新宮くん!! だ、大ファンですっ!! が、がんばってください!!」

「あ、ありがとう、目白さんも頑張ってね、投石器」

「おう、投石器なんか役に立つのかよ」

「タカシ、お前の何でも受ける盾で威力試してみせろやっ!」

「おまえらは……、自分で受けろよ」

「い、石だぞ、当たったら痛いし」

「わ、私はハルバードだから受けにくい」

「姫川ハルバード使ってんのか、めずらしいな」

「いや、オークから出てよお、格好いいから」

「じゃあ、姉さんとチアキが来てるから、校庭で投石器を見ようか」

「鏡子さんとチアキちゃん!!」

「目白さん『Dリンクス』のファンだお」

「そうなんですよ、高田さんっ」

「そうだね、僕も見たいから行こう行こう、怪我したらポーションがあるからね」

「私が【回復の歌】で治しますよ」

「それもそうだね~」


 俺達はぞろぞろと校舎を出て校門に向かった。


 鏡子ねえさんとチアキが暇そうにまっていた。

 チアキはくつしたに乗っていた。


「おおおお、ケロベロのワンコだ!!」

「かわいいな、おいっ!」


 『ダーティペア』が近づくと、くつしたはぐるると唸った。


「朱雀さんは来て無いお?」

「彼女は駅前のホテルに泊まっているから、地獄門前で合流だよ」


 姉さんが寄ってきた。


「今日は多いな、どうした?」

「これから、生徒パーティの育成の演習なんですよ、鏡子さん」

「そうかー、望月先生」

「ちょっと、待ってね姉さん、投石器の実験するから、さあ、目白さん」

「は、はいっ、思い切り行ってもいいですか?」

「『浦波』で受けるから大丈夫だよ」

「あの『浦波』に、光栄です!」

「石だろ、石」

「小学生の頃の喧嘩で良く投げたぞ」


 『ダーティペア』は小学生の頃から野蛮だったんだなあ。


 目白さんは少し離れて投石器を出し、石を乗せてぐるぐる回した。

 スリングって奴だな、ヒモの間に石を入れる布の部分があって、回して速度が乗って来た時に離す奴だ。

 ユダヤのダビデ王が勇者ゴリアテを倒した時に使った武器だね。

 俺は『浦波』を構えた。


 ギュンギュン目白さんは投石器を回し、片方のヒモを離して投擲した。


 ガチン!!


 思ったよりも鋭いスピードで石は飛び、『浦波』にぶち当たった。


「「お、おおお!!」」

「い、意外に早いお」

「昔はメインの武器だったんだよ」

「結構強そうだな」


 うん、なかなかの威力だな。


「これは金属弾……、あ、先生特殊弾作ってあげたらどうですか」

「ああ、そうだね、麻痺弾とか、爆発弾とか飛ばすと強そうだ、しかしなんでまた投石器なんかを」

「父が海外で覚えて来て、教えてくれたんですよ」

「おもしれえなっ、香香こうこ! よし、お前は今日から『ラブリーエンゼル』の仲間だっ」

「ぼ、僕は?」

「林道はまだテスト期間だ、気に入ったら入れてやる」

「あ、ああ、よろしく頼むよ」

「よし、望月先生、迷宮に行こう!!」

「え、もう行くのかい?」

「そうだ、今日中に二人をDチューバーにしないとなっ、車出してよっ」

「もう、君らは強引だなあ」


 うん、『ラブリーエンゼル』も増強される感じだな。

 面白いメンバーっぽい。

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