第262話 学校に行くと今日は普通だった

 登校してクラスに入ると、みのりがデデデと寄ってきた。


「明後日、マリエンライブだねっ、楽しみだねっ」

「準備は進んでる?」

「昨日は通しのリハーサルをやったよ、マリアさんはやっぱり歌唱力凄いねっ」


 まあ、世界の歌姫だしね。

 駆け出しバードが敵うシンガーでは無いだろう。

 でも大事なデビューライブだ、怪しい奴に潰されるのは勘弁だな。

 『チャーミーハニー』さんとも打ち合わせをした方が良いかもしれない。


 席に行こうと移動してたら『ダーティペア』がそわそわしていた。


「お、おうタカシ、教えろ、オタクの奴ってどうすれば喜ぶんだ」

「アニメか、アニメの話題か? あたしはアンパンマン以外見てねえんだよ」

「普通にしてりゃ……」


 こいつらの普通は野蛮だからなあ。


「丁寧に接してたらいいよ、オタクでもインテリでも普通の人間だから、高田君の友達なら良い奴だろうよ」

「そうだな、丸ぽちゃ高田は良い奴だしな」

「あいつ、ネットで人気あんのな、びっくりしたぜ」

「宮地はどうだい?」

「昨日、飯食いながら話したけど、元半グレだから話が通じるな」

「権田の所に居たって聞いてびっくりだ、イケメン軍団の誰かを紹介しろと言ったら、だいたいやめたって笑ってたぜ」


 イケメン軍団はDチューバーをやめたのか。

 まあ、人生色々だよね。


「今日、望月センセが科学部室で紹介してくれるって」

「ヤナ奴だったらやだなあ、成績悪いのを馬鹿にされたら殴っちまうかも」

「おまえら、成績あがってねえのか?」


 後醍醐先輩が現れて、『ダーティペア』に聞いてた。

 Dチューバーになって、レベルが上がるとINT値が上がるんで、成績も上がる事が多い。


「え、あ、そういや、最近授業わかるようになったかな」

「英語も聞き取れるかも、頭良くなってる?」

「レベルアップすると頭良くなるし、綺麗になるし、運動神経もよくなるからなあ、おまえらも勉強すると成績があがるぜ」

「「え~~」」


 不良は怠惰だからなあ。


「頭良くないと敵の策略に引っかかったり、効果的な狩りにならなかったりでキツいよ」

「あ、冒険にも関係すんのか」

「ダンジョンって深けえなあ」


 俺は自分の席に着いた。

 前の吉田の席にみのりが、東海林とマリちゃんが椅子を引いて寄ってきた。


「姫川さんたちもちょっとずつ変わってきてるねっ」

「迷宮は人間を成長させてくれるからな」

「いいな新宮、新宮が言うと実感がこもる」

「マリちゃんも出来る事が増えて良いよね」

「前線には出れませんが、サポート出来る事が増えると嬉しいですよ」

「ライブ会場で、マリちゃんの描いた絵のアクスタ売るみたいよ」

「あ、試供品きましたよ」


 マリちゃんは鞄からアクリルスタンドを出して見せてくれた。


「わあ、良いなあ、集合絵と、それぞれの絵か、あ、俺だ」


 アクリルスタンドの俺は『暁』を構え、『浦波』を持って格好いいな。


「こんなにかっこ良くないだろう」

「そんな事無いよう、あ、チアキちゃんがくつした乗りバージョンだ」

「スパイダーバージョンも人気があるんですけど、やっぱりくつしたくんも入れたいですし」


 リュートを弾くみのり、立ち技の構えをする鏡子ねえさん、長銃を構える泥舟、ああ、みんな生き生きと描かれていていいなあ。


「おほほほ~~♪ 缶バッチ缶バッチも出来て来ましたわ~~♪ みのりさんとマリアさんのツーショットですわあ~~♪」


 後ろのドアからチヨリ先輩がやってきて、俺の机の上に缶バッチをじゃらじゃらと落とした。

 缶バッチには、みのりとマリアさんが微笑んでいて、『マリエンリリース記念ライブ』と書いてあった。


「方喰画伯は凄いですわよ、社長も褒めてましたわ、今度私のアクスタも描いてくださいまし」

「ええ、喜んで」


 マリちゃんはにっこり笑った。


「へー、良いじゃねえか、俺も会場で買おう」

「六個ありますから、『Dリンクス』には先に試供ですわよ」

「ありがとうございます、高橋社長にもありがとうと伝えておいてください」


 今日の狩りでみんなで付けよう。


「くそう、あたいらも缶バッチになりてえ」

「なりあがんぞっ!!」


 『ダーティペア』も頑張れ。


「ああ、あと、高橋社長がライブ前に一回打ち合わせをしたいと言っていたわよ、都合の良い時間はあるかしら」

「うーん、ここの所毎日狩りしてるからなあ、夕方からなら」

「今日は『Dリンクス』狩り、明日は先生の付き添い狩りですわね、後で社長に連絡させますわ」

「おねがいします、チヨリ先輩、日本政府の諜報パーティも紹介したいし」

「は? なんですのそのうさんくさいパーティ、タカシさん騙されているんじゃなくって?」

「影でガードしてくれてるらしいですよっ、チヨリ先輩」

「そ、そんな存在が……」

「ああ、退魔武器とか、マイケルに勝ったとか、実績作ったからな、政府もほっとけなくなったんだろぜ」


 まあ、あんなあからさまな諜報パーティは珍しいとは思うが。

 多分、表の諜報で、裏に実働部隊が別に何系統か動いてるんじゃないかな。

 迷宮というのは国家を揺るがす巨大産業で、やんわりとした災害でもあるからね。


 先生が入って来た。


「おーう、後醍醐と北村は自分のクラスに帰れ~~」

「へーい」

「わかりましてよ」


 さて、今日も授業が始まった。

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