第252話 浄化の世界でアンナニーナと話しこむ
真っ白な世界にいた。
いつものような里山の景色、穏やかな日差し、ひまわり畑の間のまっすぐな道がどこまでも続いていた。
俺はベンチに腰掛けて道の先をじっと見つめていた。
「なによ、ここはー?」
隣には不機嫌そうな顔をしたアンナニーナが座っていた。
「浄化の世界、外では時間が止まってて、この世界で倒された相手の後悔や未練の話を聞いて送り出すんだ」
「どこへ?」
「輪廻の先かなあ」
「ふ~~ん」
アンナニーナはむっつりと黙り込んだ。
俺も黙っている。
蜂が音も無くひまわりにたかって飛んでいるのが見える。
「アンナニーナさんはアンデッド?」
「そうよう、千年ぐらいアンデッドをしているわ」
「本体は向こうの世界?」
「そりゃそうよ、ここのは分体だから滅んでも向こうの私は何でも無いわ」
「そうなのか」
「そうなのよ」
アンナニーナはイライラした感じで足をパタパタさせた。
「ところで、アンデッドって何?」
「まああ、不死を知らないのね、さすがは魔力が薄い世界の住人は低俗ね」
「あまり普段の生活でオバケは見ないからね。リッチってバンパイヤとは違うの?」
「ちがうわよっ!! あんな血吸いコウモリと一緒にしないでちょうだい、リッチというのは誇り高い死の君主なのよっ!」
「そうなんだ」
アンデッドって、良く聞くけど、作品によって色々だしなあ。
リッチというのは、魔法使いが儀式で不死化した物と書いてあったが、という事は元は人間なんだろうか。
「元は人間の女の子なの?」
「そうよ、こんな美少女のリッチは他には居ないんだからねっ」
「他のリッチは年寄りなんだ」
「ええ、魔導を極めて人生の最後に選び取り変化するのがリッチだから、大抵骸骨とかよ」
「天才少女だったのか」
「それは……、ま、まあその……」
「ちがうの?」
「自分で成ったわけじゃないから……」
「誰かにリッチにさせられたのか」
「お父様が……、リッチになる時に私も寂しいだろうって……」
「家族でリッチなのか」
「……」
アンナニーナは肩をすくめて唇を噛んだ。
「娘も永遠に生きて欲しかったのかな、お父さん」
「アンデッドを……、勘違いしてるわね、あなた」
「タカシだよ、アンナニーナ」
「そう、私の事はニーナで良いわ、光栄に思いなさいね、よほど仲が良いお友達じゃないとニーナって呼ばせないんだからっ」
「ありがとう、ニーナ」
「な、なんか変な人ね、タカシは」
「そうかな」
俺達は風に揺れるひまわり畑を黙って見ていた。
「アンデッドは生きて無いわ、時間が止まってるの、成長もしないし、人格の深みも出ないわ、お友達はみんなあっというまに大人になって老いて死んでいったわ、お父様もどこかに行ったわ、もう五百年も会ってないわ……」
「さびしい?」
「ちょっとね……、でも、魔王が雇ってくれて、馬鹿な人間を殺したりするのは楽しいわ、今回は異国の武器で負けちゃったけど、まあ、面白かったわ」
「そうか、向こうの世界では一人なの」
「眷属を作っても、そんなに長くは持たないし、別れが辛いのよ」
「わかった、俺が向こうの世界に行けたら会いに行ってあげるよ」
アンナニーナは、ぱっとこちらを見た。
「ほ、本当に?」
「ああ、約束するよ」
「その剣で……、とどめを刺されれば輪廻に戻れるかしら……」
「アンデッドって輪廻にもどれないの?」
「うん、呪われた存在だから、神様の手を外れて永遠の停止を選んだ存在だから、倒されると消滅するって言われているわね」
「そうか、じゃあ、浄化しに行ってあげるよ」
「か、簡単に言うわね、私の本体は強いのよっ」
「俺はもっともっと強くなるから、魔王を倒さないとそっちの世界にいけないからね」
アンナニーナは目を輝かせて俺を見た。
「本当に、タカシ!」
「ああ、そっちの世界に行った友達とかも探さないといけないしね」
かーちゃんと一緒に冒険もしたいし、権八も探したいな。
「ありがとう、待っているわ、ああ、なんだろう、こんなわくわくした気分はひさしぶりね」
そう言ってアンナニーナはにっこり笑った。
うん、笑うと年齢なりの女の子みたいで可愛いな。
「あ、なんだか、あの道を行きたいような気分だわ」
「それがニーナの心残りだったんだね」
「まだあったのね、もう何も残ってなくて、全部干からびて塵になってしまったと思ったわ」
アンナニーナはピョンと立ち上がるとこちらを向いた。
「じゃあ、向こうの世界で待ってるからね、早く来てね」
「解った、がんばって迷宮を乗り越えるよ」
「魔王迷宮を制覇した人は向こうでも居ないのよ、でも、なんだかタカシなら出来るような、そんな気がするわ、頑張ってね」
「ありがとうニーナ」
ニーナは笑って振り返るとひまわり畑の間の道を歩き始めた。
いろいろな約束が出来て、迷宮を走破する動機が強化されていくね。
人と人のつながりがどんどん俺達を強くするんだなあ。
俺は機嫌良さそうに歩いて行くニーナの後ろ姿を見つめていた。
ずっとずっと。
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