第251話 アンナニーナを滅ぼす

 アンナニーナはケラケラ笑いながら空中に浮かんだ。


 敵は高位のアンデッドの『リッチ』だ。

 熟練の魔法使いが儀式でアンデッド化したもので、魔法を使う強敵だ。


 鏡子ねえさんが縮地を挟みながらアンナニーナに肉薄する。


『すばやいわね、『来よ、冥界の毒沼、足下を沈め我が敵の動きを鈍らせたまへ』』


 詠唱と共に、足下が紫色の毒沼に変わった。

 ズブズブとブーツが沈みこむ。


「きゃ、沈むっ!」

「みのりねえちゃん、くつしたの上へ」

「符足場急急如律令!」


 朱雀さんが符を地面に投げつけると足場となった。

 陰陽師は便利だな。

 俺は絶賛沈み中だが、ふくらはぎぐらいで沈むのは終わった。

 くそ、動き辛い!

 雪の中に足を取られた感じで動きが鈍くなる。

 ねえさんのブーツも沈み込んでいる。


 沢山のゾンビ達が膝まで毒沼に沈みこみながらこちらへと近づいてきた。


 バキューン!!


 泥舟がアンナニーナに向けて長銃を撃ったがするりと避けられた。


「『突撃チャージ』」


 ジャキンと泥舟の長銃の銃剣が展開された。

 近づいてきた令嬢ゾンビをそれで切り裂いた。


 くそ、足場を悪くする魔法は厄介だな。


『『我が願いにより地獄より出でよ久遠の炎よ、インフェルノフレア!!』』


 アンナニーナの詠唱により、沢山の火球が撃ち出された。

 範囲の火炎呪文だ。


 バキャンバキャン!


 近づく火球を『浦波』を当てて打ち落とす。

 ねえさんも膝まで沼に潜りながら器用に『金時の籠手』で火球を落とした。


「氷結陣急急如律令!」


 朱雀さんの符が飛び、後衛を狙った火炎弾を打ち落とす。

 チアキもダキュンダキュンと魔銃の弾丸を当てる。

 くつしたは犬かきで沼を移動していく。


『やべえ、『Dリンクス』ピンチ』

『機動戦パーティだから足を殺されると痛い』

『さすがネームドリッチ、汚い、実に汚い』


 ゾンビたちが取り付き、乱戦となった。

 くそう、足下さえちゃんとしていればゾンビなんか。

 とは思うのだが、動きが鈍るとゾンビに取り付かれて払い落としたり、シールドバッシュでぶちかましたりしないとならない。

 やばい!


「きゃりありありぁあああっ!!」


 ねえさんがひしり上げ【狂化】バーサーク状態に入った。

 縮地で足を引き抜き宙を舞うようにしてゾンビたちの頭部を破壊しはじめた。


『え、飛んでる? なにそれ』

「『ひふみ よいむなや こともちろらね しきる ゆゐつわぬ そをたはくめか うおえ にさりへて のますあせゑほれけ』」


 【オバケ嫌いの歌】の効き目が弱いと思ったのか、みのりが[謡]を始めた。


[問う、汝は神降ろしを望むか]


「『大神おろし』」

「『オオカミオロシ』」


 俺と鏡子ねえさんの声が重なる。


[『暁』に畏くもアマテラス大神、『蹴早』に畏くもタイマノケハヤノミコト、古の約束にのっとり降りたもうねがいまする]


 赤と白の光球が螺旋を描くように天から下りてきて、『暁』と『蹴早』に宿った。


 まずは手近なゾンビに切りつけて、[浄化]する。

 さすが、一撃を受けただけで、ゾンビは干からびて塵になり消滅した。


 ふと思いついて地面を斬ってみた。

 ざっと、二メートル平方ぐらいの場所が元の床に戻る。


 ヨシ!


『な、なによ、その武器、見た事無いわ、ずるいわっ!』

「きゃりありああああるううっ!!」


 ねえさんがひしり上げながら縮地でジャンプし、途中で足を振り上げた。

 ジャキンとかかとから刃が生える。

 真権能[角折]だ!


『はは、当たる訳ないじゃないっ』


 アンナニーナは嗤いながらぬるりと避けた。

 飛行しているし、小さいから当てるのは難しいな。


「【オカン乱入】!」


 アンナニーナの頭上約一メートルにかーちゃんを呼び出した。


「うおっ、な、なんや、あ、こいつか」


 かーちゃんは空中で呼び出されてびっくりしたようだけど、すぐに気が付いてアンナニーナにむけてメイスを振り下ろした。


『ぎゃーっ!!』


 そのまま、アンナニーナとかーちゃんは毒沼に落下した。

 かーちゃんが上になり、アンナニーナは頭から毒沼に沈む。


「きゃりありあぁ!!」


 鏡子ねえさんが沼の中のアンナニーナの頭蓋目がけてかかと落とし。


 ボギャン!!


 嫌な音がしたが、アンナニーナは毒沼から頭を上げた。


「物理は効かんで、鏡子!!」

「ぎゃうっ!」


 ねえさんは一声返事をして見えないパンチを頭部にぶちかました。


 ドガガガガ!!


 パンチは効いてない、[楔]だけのダメージが通っているが、髑髏を破砕するほどの威力はないようだ。


『ふ、ふざけやがって~~』


 アンナニーナがかーちゃんを振り落とし、立ち上がろうとした。

 俺は『暁』で地面を擦るようにして道を作り彼女の元に駈け寄る。


 奴の急所は眉間だ。

 髑髏の眉間に輝く点がある。


 俺は全力で『暁』をアンナニーナの髑髏の眉間に打ち込んだ。


『あががががっ』


―― 天照大神よ、この不浄の少女を[浄化]してください。


 『暁』刀身が、まばゆく光輝いた。

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