第249話 ハイヒールを求めてうろうろ狩り

「みのり、トロールが出たら[謡]に変えてくれ、真権能を試したい」

「あ、『暁』と『蹴早』で大神降ろしが出来るのね」


 そういや、フツノミタマが宿った武器が二つあったのに[大神降ろし]が起動しなかったな、自動起動は戦闘中に揃った時だけかな?

 揃っただけで起動するとうるさいからか。


 トロールを求めて二十一階をうろうろする。

 探すとなかなか出てこない物だな。

 道すがらにハイオークやオーガーを倒して、ハムやら鬼ころし(酒)やらを出して収納袋に入れた。


「トロール一、オーガー二」


 良し出た。

 みのりがリュートで[謡]を始めた。


「『ひふみ よいむなや こともちろらね しきる ゆゐつわぬ そをたはくめか うおえ にさりへて のますあせゑほれけ』」


[問う、汝は神降ろしを望むか]


(俺はいらない)

「『大神降ろし』!」

[『蹴早』に畏くもタイマノケハヤノミコト、古の約束にのっとり降りたもうねがいまする]


 『金時の籠手』は第三段階じゃないから神降ろしはできないようだ。

 天より白い光の球が高速で下りてきて『蹴早』に宿った。


「おっしゃー、【狂化】バーサークしないでの[大神降ろし]は新鮮だっ」


 ねえさんは恐れ気も無くトロールに突っ込んでいった。

 おれは『浦波』を構えオーガーを待ち構える。


 バキューン!!

 ダキュンダキュンダキュン!


 鉄砲組の集中砲火を浴びて、オーガーの一匹が倒れた。


「いっくぞーっ!! [角折]!」


 鏡子ねえさんは片足を高々と上げた。


 ジャキン!


 かかとから鈍く光る刃が出た。


「うおいりゃーーっ!!」


 ザンバッシュ!!

 GYOOOOOOO!!!


 トロールは袈裟懸けにかかと落としを食らって胸が割れた。

 うっは、凄い威力の武技だな。

 トロールは吹っ飛んで行って壁に激突して転がった。

 だが、まだ死んでない。

 よろよろと起き上がった所に、さらにかかとを落とされ落とされ落とされた。


 HUNNGYOOO!!


 ジュウジュウと煙を出してトロールの傷が治っていく。

 さすがはトロールだ。


「いっけーっ!!」


 鏡子ねえさんはコマのように廻ってトロールの首にかかとの刃をぶち込んだ。

 首が折れ胸元にぶらりとぶら下がり、一拍置いてズシンとトロールは倒れた。


 HYAAAAA!!


 オーガーがそれを見て目を丸くして驚いていた。

 その虚を突いて俺はオーガーの懐に飛びこんで心臓を一突きした。


 ズズン。


「ヨシ!」

「いいな、金時パンチよりも軽く出せて便利だ」

「一撃は[剛力]の方が強そうだね」

「あっちは必殺パンチだからな」


 【狂化】バーサーク状態じゃないと出せない分威力は上か。


『鏡子さんがますます強くなる』

『普段使いの必殺技いいな』

『頼りになる前衛は偉い。これは強い』


「さすがは鏡子さんです、お強い」

「えっへへへ」


 朱雀さんに褒められて鏡子ねえさんが照れた。


 さて、ドロップ品だが……。

 ムーミンマグカップと鉄棒、でかいおにぎりであった。


「一発目では出ないかあ」

「そりゃそうだよ、みのりねえちゃん」


 倒しただけドロップ品が出るけど、なかなか狙った物は出ないものだな。


 それから二十二階に下りて、スライムところてんとか出して、三匹目のトロールから聖典【上治癒ハイヒール】が出た。


「やったー」

「やったー」

『というか、狙って出る『Dリンクス』がおかしい。一週間ぐらい詰めてやっとやぞ、普通』

『普通こんなにぞろぞろ出ないもんなあ』


 朱雀さんに【上治癒ハイヒール】を覚えて貰い、俺達は階を進める。


 相変わらず二十三階はケロベロス狙いのパーティが一杯で混雑していた。

 くつしたを見る他のパーティの目が血走っているなあ。


『未だに【従魔創造の珠】は世界でも出ていないな』

『ケロベロスぬいぐるみが出ていたな』

『犬小屋キットとかも出ていた、嫌がらせか、ドロップ担当』


 二十階台は楽勝で歩けるので狩りも楽しいね。

 反面ヒリヒリした緊張感は無いので食い足りない感じはあるね。


 二十四階まで下り、安全地帯で小休止だ。

 朱雀さんはコンビニのお団子を食べていた。

 イメージぴったりだね。


「なんだか……、楽しいですね」

「陰陽師の退魔の仕事だと楽しく無いの?」

「もうちょっと、みんなキリキリしてますね、迷宮は危険もありますけど、なんだかほっとする所もありますね」

「不思議よねえ、怖い所なんだけど、なんとなく楽しい感じもあるのよね」


 登山みたいな感じだからかな、山登りは死の危険もあるけど、楽しみも多いし。


「次は二十五階のオバケ階で【鎮魂ターンアンデット】狙いですか」

「魔法が効くから符も使えるんじゃないかな」

「みのりねえちゃんが【オバケ嫌いの歌】を歌ってるとオバケは動けないから楽勝階なんだよ」

「レブナントが不愉快ぐらいですね」

「[楔]は霊体に聞いたけど[縮地]は効かなそうだな」

「移動スキルだからね」


 オバケ階で何も出来ないメンバーは『Dリンクス』には居ないのか、みのりも一応ファイヤーボール打てるしな。

 まあ、オバケ階ではエンドレスで【オバケ嫌いの歌】を歌っていてくれだが。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る