第241話 うろうろしてからロビーに戻る

「この片手剣、本当にバランスが良いね、しっくりくるよ、本当に貰ってもいいのかい、方喰さん」

「はい、宮川先生のために作った剣ですから」


 宮川先生の剣はマリちゃんが昨日作っていた剣だったのか。

 なかなか使い勝手が良さそうだな。


「戦士の職業ジョブは選択肢が多くて良いですねえ」

「宮川先生にも甲虫装備を取ってきたら良かったですね」

「いや、高性能装備は、竹宮先生とか方喰さんが着けるべきで、私は普通のでいいよ新宮」


 先生方は奥ゆかしいなあ。


「高田君の分とか、霧積の分も必要だったかもなあ」

「新宮、あんまり気前が良すぎてもな」

「そうだお、自分で揃えるお」


 それもそうだな。


「そうで無くても『Dリンクス』には世話になりっぱなしだしな、早く実力を付けて返したい所だよ」

「東海林くんは律儀だね」


 泥舟が笑い、チアキも笑った。


「学生用の貸し出し装備も頭が痛いね、高性能だとずっと使いたいだろうし、でも多くの生徒に使わせたいしね」

「予算とか、平等とか、いろいろと難題が山積みですわね」


 学校教育は公的な活動だから、生徒一人一人に平等で無ければならないのだけれど、現実には声の大きい保護者優先になったりするんだよね。


「まあ、僕らのこういう活動が集まってデータになって、将来のDチューバー学校のノウハウになったりするんでしょう」

「学校設立の動きはどうですか?」

「なかなか難航しているねえ、文部科学省と経済産業省の主導権の取り合いで、まあ、新宮くんが大人になる頃にはできるんじゃないかな」

「私も行けない」

「チアキちゃんはギリギリ行けるかもね」


 迷宮が世界にできてまだ五年だしね。

 あと五年は後になるか。

 チアキが高校生になった頃に出来ていたらいいな。


「ヒュージスパイダー、四」


 前方に大きな蜘蛛が巣を張って待ち構えていた。

 望月先生がガチャコンと薬液水鉄砲のシリンダーを切り替えた。


「何出すの?」

「溶解液」


 望月先生はビュービューと煙を出す液体を大蜘蛛に吹きかけた。


 じょわ~~!!


 恐ろしい音を立てて二匹の蜘蛛が溶けていった。

 凄まじい薬液だなあ。

 錬金術師アルケミスト恐るべし。


 再び望月先生はガチャコンとシリンダーを回して今度は麻痺剤を吹きかけた。


「望月先生が錬金術でサポートしてくれるので楽ですな」

「思ったより便利ですね錬金術師アルケミスト

「テレサ教授に色々聞きまして」


 世界最高峰の錬金術師アルケミストと知り合いなのは強いね。


 麻痺した二匹を竹宮先生とマリちゃんが鈍器でボコって倒した。


 結構安定してるね、麻痺薬がワーウルフに効くならフロアボスも行けるかもしれないな。


 蜘蛛からは魔石と蜘蛛煎餅が出た。

 微妙な味の煎餅だ。


 高田くんは腰に投げ斧、背中に牛戦斧であった。


「抜けるの戦斧」

「なんとか」


 高田君は背中に手を伸ばし戦斧の柄を握り前に出した。

 マリちゃんが観察していた。

 ギラファ兜越しなので、なんだかただならぬ事を考えている感じがする。


「皮で刃をガードして、一挙動で抜けると良いですね」

「そうなんだお、売店の大型斧用ホルスターなんだけど、ちょっと抜くまで大変なんだお」


 マリちゃんは懐からメジャーを取りだして高田君の採寸を始め、メモに何か書き付けていた。


「方喰さん、お手製ホルスター作ってくれるお?」

「ええ、良いですよ、もうクラフト系は何でもやってしまおうと思いますから」

「助かるお、お金はだすお」

「『創作者クリエイター』はつぶしが効きますね~」

「絵が描けて、鍛冶が出来て、装備の自作も出来るのは良いですな」


 さすがはマリちゃん先生だぜっ。


「オーク三」

「丁度良いから牛戦斧を試してみるんだお」


 高田君が丸盾と牛戦斧を構えて前に出た。

 一度、戦斧を地面に刺し腰から手投げ斧を抜いて投げる。

 オーク一匹に先制攻撃を掛けて、戦斧を握り丸盾を構えて飛びこんだ。


 おお、さすが強い。

 牛戦斧ならオーク一体を一撃で両断出来るな。

 盾も魔法の盾だから、敵の剣にきっちり合わせていく。

 ドカンドカンと三匹をあっという間に倒した。


「強くなったなあ、高田くん」

「知らない間にオークぐらいだと何でも無くなっているお」

「パワー系の戦い方ですねえ、胸がスカッとしますね」


『やっぱ、高田も、東海林も強くなってるよな』

『タカシとか鏡子さんが規格外だから目立たないけど『オーバーザレインボー』の連中も高校生水準だと相当良いレベルに来てるよな』

『これからの高校生Dチューバー界が楽しみだぜ』


 うちも早く『僧侶プリースト』を探さないとなあ。

 誰か居ないものか。


 ドロップ品は魔石にオークぬいぐるみであった。

 記念にマリちゃんがゲットしていった。


 さて、そろそろ良い時間なのでロビーに戻ろうか。

 先生方に伝えて上り階段への道を取る。


 途中で、半グレのパーティが道を塞いでいた。

 ……。

 丁度帰るのに通らないと行けない路地だ。

 待ち伏せだな。


「そうだ、新宮くん、こういうの効くんじゃないかな」


 望月先生がにこやかに笑って試験管を投げつけた。

 え? あれって……。


 ドカーン!!


 想定していた以上の音と爆発でびっくりした。

 半グレも同じようで、爆発に巻き込まれなかったようだけど、近くだったので腰が抜けたようになっている奴が何人もいた。


「あー、やっぱり爆発だよね、音と熱、自然とびびるから」

「無茶苦茶をしますね」


 待ち伏せしていた半グレは慌てて逃げていった。

 確かに効果は抜群だな。

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