第234話 因縁のミノタウロス

 弁当を食べながら作戦会議だ。


「【ぐるぐるの歌】を掛けられれば私一人でも倒せるかもしれない」

「意外に敏捷が良いし、テクニシャンでもあるよ」


 一度俺は戦った事があるからな。

 やられたけど。


「このフロアはミノタウロスだけだったかな」

「そう、一頭だけ、ただし、相当に強いよ」


 ここのフロアボスは単純なパワー勝負だ、火力と防御力、ヒットポイントが物をいう。


「甲虫を結構狩ったから甲虫魔石弾が使えるね、膝を打ち抜こうか」

「そうだね、機動力を奪うと楽かな」

「歌は? 【スロウバラード】は効くかな」

「フロアボスだからなあ、一度試して駄目だったら切り替えてくれ」

「わかったよう」


 くつしたがワフワフ言いながら寄って来た。


「くつしたはみのりのガードで、近寄って来たら【体当たり】してくれ」

「ワウワウ」


 くつしたはうなずいた。

 お前は賢いなあ、撫でてやろう、もふもふっ。


「私は私は」

「チアキは【気配消し】をして離れて射撃してくれ」

「わかった、頑張るっ」


 あとは、ねえさんと俺が前衛で頑張るだけだな。


「さて、行こうか」

「そうだな」


 ピンチになればかーちゃんを呼び出すが、何とか自分たちだけで倒したい所だな。


『さあ、タカシにとっては因縁の対決だな』

『かーちゃん呼べば一発だけどな』

『あれから長い時間が掛かったようだけど、思えばすぐだったな』

『感慨深いものじゃ』


 俺達はボスフィールドに入った。


 円形のフロアの中央ではミノタウロスが体を抱くようにしてうずくまっていた。


 泥舟が甲虫魔石弾を入れた長銃を膝射体勢で構える。

 みのりが【スロウバラード】の前奏を弾き始めた。


 ミノタウロスが身じろぎをして立ち上がった。


――待たせたな、ここまで来たぞ。


 GOOOOOOO!!!


 ミノタウロスは天に向けて吠える。


 フィールドの壁が光って閉鎖された。


 ズドム!!


 泥舟の長銃から甲虫魔石弾が発射された。

 ギャーーーーンと唸りを上げて魔石弾は飛び、ミノタウロスの右膝を打ち砕いた。 


 GYAOUUUU!!!


 ミノタウロスは悲鳴を上げて膝をついた。

 よし!


「『ゆっくりゆっくりゆっくりなりたまえ~~♪ あせってもしかたがないからのんびりいこうじゃないか~~♪』」


 スロウバラードが……、掛かった!

 ミノタウロスの動きがゆっくりになった。


 俺と鏡子ねえさんが前に出る。

 接近するとあの時の事を思いだして体がすくむが、大丈夫だ、あの頃の俺じゃ無い。

 ゆっくりと振り下ろされる戦斧をかいくぐり『暁』で一撃を加える。


 BUMOOOOO!


 よし、動きが遅い。


「きゃりありありありりぃぃぃ!!」


 ねえさんの目が赤く光り【狂化】バーサーク状態へに入り、『金時の籠手』がガチャガチャと変形する。

 そのままミノタウロスの胸板に見えないパンチを打ち込む。


 ドガガガガガ!


 とパンチの着弾が胸板に刻まれ、一拍置いて奴の体内で、ドドドドドという音がした。


 GAHA!!


 ミノタウロスが血を吐いた。


『よし、このまま押し込めっ!』

『強い強い! いけるいける!』


 怒り狂い滅茶苦茶に振ってくる戦斧を回避しながら奴の体を切り裂いていく。


 ダキュンダキュンダキュン!


 チアキが離れた位置から拳銃を乱射する。

 ピシピシとミノタウロスの逞しい体に穴が開き血が吹き出る。


 ズドン!!


 再び泥舟が魔石弾を撃ち込んだ。


 バキャッ!!


 ミノタウロスの角がへし折れて地面に落ち、カランと堅い音を立てた。


 GUMOOOOOGUMOOOO!!


 鏡子ねえさんが振り下ろされた腕を掴み、地面を蹴って体ごとひねる。


 ボキャッ!!


 嫌な音がしてミノタウロスの片腕が脱臼した。


 俺はしゃがんでいるミノタウロスの懐に飛びこむ。

 頭の後ろに風が吹いたような気配がした。

 スキルの前兆か?


 【観察眼】が勝手に働き、ミノタウロスの胸の部分に光が見えた。

 弱点か?

 俺は迷わず、『暁』をその光に向けて突き刺した。


 ズン!


 手応えも無く『暁』は奴の胸を突き通した。

 血が噴水のように噴き出した。

 錆くさい匂い、生暖かい液体の感覚。


 ゆっくりと、ゆっくりとミノタウロスは後ろに向かって倒れていった。


 ズズーン!


 地響きを立てて巨体が倒れた。


 ハアハアハアハア。


 いつの間にかみのりの【スロウバラード】も止まっていた。

 俺の息の音だけが聞こえた。


『やったぜ!!』

『『『『『三十階フロアボス攻略、おめでとう!!』』』』』


 泥舟が拳を天に上げた。


「いやった~~!!」

「ワオワンワン!!」


 チアキとくつしたが歓声を上げた。


「やた、やた」

「うん、ねえさん、やったな」


「『ああ~~あ~~、あたまをすっきりおんどをさげろ~~♪ れいせいにれいせいになれ~~♪ クールになれ~~♪』」


 みのりの【冷静の歌】が聞こえて来て、頭が冷静になっていく。

 鏡子ねえさんの目が普通に戻って行く。


「ふう、なんて事無かったな」

「【スロウバラード】が入ると楽だね」

「ああ」


 よし、十階でのかたきは三十階で取ったぞ。


「やったねやったね~~、これでC級配信冒険者だよっ」

「ああ、そうだな、みのり」

「タカシ兄ちゃん血だるまだ」

「あ、ああ」


 ミノタウロスが粒子になって消えて行くと共に、俺に掛かった血も消えていった。


 大きい魔石とドロップ品が二つ落ちて、さらに宝箱がポップした。


『金箱だ~~!!』

『普通サイズ、何だろう、レア戦技でありますように~~』

『レア楽譜スコアでも良いな。もしくはレアスキル』

『わくわくするなあ』

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