第231話 七色蝶の乱舞

 第一ホールを抜けて通路である。

 通路には魔物は出ないようだ。


 第二ホールを偵察する。

 空が七色にきらめいていた。


「七色蝶がいっぱいだな」

「なんか、見ているとクラクラして来るんですが」

「直視するな、七色蝶の光には幻惑作用がある」

「狙撃できないよ」

「幻惑だけ? だったら駆け抜けたらどうかな?」

「地面にはキャタピラーがいっぱいだ、あいつらが羽化して七色蝶になると言われている」

「くつしたを暴れこませて火を吐かそう」


 どうしたもんかな。


『二ホールは下だけ見て進む手もある』

『重装甲だとわりと使えるけど、『Dリンクス』は軽装甲機動戦型だからなあ』

『あと、七色蝶は光だけじゃなくて、鱗粉にも幻覚作用がある』

『なんと厄介な蝶なのか』


 泥舟が胸のホルダーから特殊弾を取って銃に詰めた。


「狙えないぞ」

「狙わない、スライム魔石散弾」


 ああ、その手があったか。


 泥舟は膝を付いて長銃を構えた。


 ズキューン!!


 バタバタと七色蝶が落ちてきた。

 泥舟は再びスライム散弾を詰める。


 ズキューン!!


 散弾だから直視して狙わなくても良い。


『範囲魔法があれば楽なんじゃがのう』

『わりとどこでも範囲魔法があると楽だよ』

『んだんだ。滅多に出ないから範囲魔法だよ』


 空に舞っていた七色蝶は大分数を減らした。

 鉄砲があって良かったな。


「七色蝶が近寄って来たら、見ないようにして攻撃」

「わおんわおんっ」


 くつしたが張り切っているが、お前も幻惑されると思うぞ。


 みのりが俺にくっついてきた。

 なんだよ、と思ったが目を閉じてリュートを弾き始めた。


「目を閉じて、【冷静の歌】を歌うから手を引いてください」

「それはナイスアイデア」


 俺はみのりを抱き上げて、くつしたの上に乗せた。


「ちがうんだっ、たかしくんはわかって無い」

「たかし兄ちゃんはわかってないっ」

「くつした、チアキとみのりを頼んだぞ」

「わおーん」


 手を引いていたら、俺が戦えないからな。


「もうっ、『ああ~~あ~~、あたまをすっきりおんどをさげろ~~♪ れいせいにれいせいになれ~~♪ クールになれ~~♪』」


 俺は近寄って来た七色蝶を直視した。

 よし、【冷静の歌】が掛かっていれば幻惑もすぐ解けるな。

 『暁』で斬り飛ばす。


「キャタピラーも結構多いな」


 鏡子ねえさんがキャタピラーを粉砕しながらそう言った。


 ダキュンダキュンダキュン!


 チアキがばんばん七色蝶を落としていく。


 空に七色蝶、地にキャタピラーである。

 鱗粉も掛かってくるが、即座に【冷静の歌】で幻覚が解ける。

 『吟遊詩人バード』は便利だな。


 チアキとみのりを乗せて、くつしたが時に火を吐いて進む。


『【冷静の歌】は使えるなあ』

『聞こえている範囲全部に僧侶の【解呪ディスペル】掛けてるようなものだからね』

『しかもエンドレス、便利便利』

『セイレーンの群生地でも使えるね』

『ああ、誘いの岬か、難所だけど行けそう』

『これまでは、耳栓が定番だったけどね』


 迷宮の罠は厄介だけど、色々と解法があって面白くもあるな。


 第二ホールは無計画に突撃すると、幻惑され幻覚を見せられて壊滅する事もある。

 意外に難所なんだ。


 鏡子ねえさんがキャタピラーを蹴り出して、第二ホールを抜けた。

 魔力霧が追いかけてきて、俺達の胸に吸収された。


 魔石とドロップ品がゴロゴロ落ちていたが、取りに戻るのもなあ。

 と思ったら、くつしたが走り回り、チアキがムカデ鞭で回収して廻った。

 ある程度は回収したな。


「蝶のブローチに、芋羊羹、バタフライナイフ、が出た」

『蝶のブローチは幻覚を和らげる効果があるな』

『【冷静の歌】があればイラネ』


 まあ、収納袋に突っ込んで置こう。

 さあ、次のホールを抜ければ下り階段だ。


 第三ホールも、飛行虫敵と地上虫敵の組み合わせだ。

 空からはドラゴンフライGグレート、地上には巨大カブトムシ、巨大クワガタの甲虫敵だ。


 入り口近くで、泥舟がドラゴンフライGを狙撃して数を減らす。

 音に反応して、巨大ヘラクレスカブトムシと巨大ギラファクワガタが寄ってきた。


「きゃりありあるうううぅぅっ!!」


 鏡子ねえさんが【狂化】バーサークしてばったばったと甲虫をなぎ倒す。

 俺も踏み込んで甲虫の頭を狙い、『暁』で切り殺して行く。

 甲虫たちは大きいのでキャタピラーほどの数はいない。


 倒しながら、魔力霧を吸い込み、魔石とドロップ品を拾いながら進む。

 近づいてくるドラゴンフライGは、泥舟とチアキが打ち落としてくれる。


 ヘラクレスカブトムシ兜とか、ギラファ胴丸とか、甲虫からは防具が出やすいみたいだな。


 とにかく、鏡子ねえさんは堅い敵と相性が良い、『金時の籠手』の表権能[楔]でだいたい片が付く。


『『暁』も切れるなあ、ここら辺までくると、一般の刀剣だと甲虫の装甲を抜くのが一苦労なんだよね』

『なんら不安材料が無い』

『ここを抜ければ、二十九階だ、もうすぐもうすぐ』


 どんどん倒して、どんどん拾って、俺達は下り階段のある安全地帯にたどり着いた。


「『ああ~~あ~~、あたまをすっきりおんどをさげろ~~♪ れいせいにれいせいになれ~~♪ クールになれ~~♪』」


 みのりの歌で、ねえさんの【狂化】バーサークを外す。


「ふうっ、戦った戦った」


 適当に拾った物を収納袋に詰めていく。

 大量大量。


「お、ギラファクワガタセットコンプリートか?」

「グリーブが無いね」

「戻ってクワガタやっつけるか」

「いや、まあ要らないんじゃないかな」


 甲虫甲冑シリーズは軽くて堅くて優秀なんだが、装備できるのが、俺とねえさんだけだからな。


 俺はヘラクレスオオカブトグリーブ、ヘラクレスオオカブト胸宛てを付けた。

 兜は重いのでパス。

 あとで売ってしまおう。

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