第230話 28階は空に蜂蝶、地に芋虫

 通路から第一ホールを覗く。

 体育館ぐらいの広いホールになっていて、その中に木々が生え、池なんかもある。


「ホールの壁を蟻スコップで掘ってショートカットするのは出来ないの?」

「出来ない、十メートルぐらい掘ると岩壁だよ」


 そういう攻略動画があった。

 酷い目に合っていたな。


「蜂がいっぱい飛んでる」

「蜂に気が付かれないように狙撃しよう」

「気が付かれてこっちに来たら【ぐるぐるの歌】ね」


 みのりがまかせておけとばかりに胸をたたいた。

 足がいっぱい無ければ大丈夫らしい。


『お、蜂ホールでのバード攻略は初めてかな?』

『バードは低位パーティか、高位パーティかに偏っておって、中位にはあまりおらんので、初じゃな』

『【ぐるぐるの歌】が効きそう、【スロウバラード】でも良い的に成りそうだ』

『たまに『射手アーチャー』狙撃動画は見るけど、『銃士ガンナー』狙撃動画は初めてかも』

『『チャーミーハニー』がバババと打ち落としていたね』

『鮫島っち、【必中】持ちだしね』


 そうか、音の出ない弓矢だと割と美味しい階かもしれないな。

 逆に前衛偏重パーティだと蜂は厳しそうだな。


 俺達はホールの中にこっそり入り、藪の中に身を隠した。

 泥舟は膝射しっしゃの構えで上空をブンブン飛び回っている蜂を狙う。


 バキューン!!


 一匹の蜂が頭を吹き飛ばされて落ちた。

 蜂はどこから攻撃されたか解らなくてでたらめに飛び交い始めた。


「うまい」

「結構数がいるね、気づかれずに全部落とせれば良いんだけど」

「長銃いいなあ」


 チアキがうらやましそうにつぶやくが、盗賊は【射撃】が生えにくいからなあ。

 レアチケットがまだ俺の分と泥舟の分があるからチアキに取ってやるのも手かなあ。


 バキューン!!

 バキューン!!


 泥舟が機械のように正確に蜂を撃ち落としていく。

 さすがに音に気が付いたのか、五匹の殺人蜂キラービーがこちらに向けて飛んできた。

 俺とねえさんとくつしたが藪から飛び出した。


 バキューン!!

 ダキュンダキュンダキュン!


 泥舟とチアキが銃を乱射した。

 一匹の羽が吹き飛び地面に落ちた。

 残りは四。


「『ぐるぐるぐるぐる♪ おまわりおまわりなさい~~♪ 空も地面もぐーるぐる♪ 足下ぐらぐら気を付けて~~♪』」


 みのりの【ぐるぐるの歌】が入ると蜂の飛び方がでたらめになり、地面に落ちた。


「針に気を付けて」

「了解」


 飛んでいない蜂は動きも鈍いし狙い目だが、何しろ大型犬ぐらいの大きさだ。


「ぎゃいん!!」


 くつしたがさっそく刺されたようだ。

 怒ったやつは火を吐いて蜂を燃やした。

 足を引きずっている。

 俺は収納袋からムカデ飴DXを出してくつしたの口に放り込んだ。


「わうんっ!」


 くつしたはバリバリとムカデ飴をかみ砕く。


 ねえさんは冷静に殺人蜂キラービーを、蹴り殺して行く。

 【ぐるぐるの歌】の中で普通に動けるねえさんは有利だな。

 チアキがバンバンと拳銃を撃って蜂の羽を壊していく。

 拳銃の魔力弾でも羽は砕けるようだ。


 俺は針攻撃を『浦波』で防ぎながら蜂の首を落としていく。


 よし、被害はくつしただけで、蜂を全滅できたぞ。


「『さあ目を開けて傷を癒やそうよ~~♪ 頑張った君の勇気を力に変える~~♪ 治れ治れ治るんだ~~♪』」


 【回復の歌】でくつしたの後足から煙が上がり傷が治っていく。


「大丈夫か、くつした?」

「わおんっ」


 失敗したと言うようにくつしたは吠えた。


 蜂は全部で八匹も居た。

 遠距離が無かったら辛かったな。


『ああ、銃士ガンナー有効だなあ、ただ、『射手アーチャー』に比べると音がするだけ気が付かれやすいね』

『まあ、気が付かれてもぐるぐるの歌で落とせるしな』

『あの蜂の毒針は、二発受けるとショック死したりするからな、対策無いと危険』

『数も多いしな』


 蜂たちは粒子に変わり、魔力霧と変化して、魔石とドロップ品が落ちてきた。


 気になるドロップ品は、蜂蜜瓶二つ、F18ホーネットプラモデル(ハセガワ)、蜂ランス、楽譜スコア【ハニーハニーの歌】であった。


「この歌、みのりねえちゃん覚えてないよね」

「うん、ハズレ歌、虫の魔物が寄ってくるの」

「うわ」

『多数来る事の多い虫系をまとめて一掃するための歌じゃな、あまりつかわれないが』

「ムカデ部屋で使えるのでは!」

「絶対に嫌です」


 それはそうだな。


 蜂ランスは手槍で泥舟が使えそうだが、毒を打ち込めるだけで魔法がかかってるわけでもないので、収納袋行きである。


「プラモはなんだ?」

「ホーネットって蜂の事だから」

「あーあー」


 相変わらず、ドロップ担当の悪魔さんは遊んでいるなあ。


 ホールは広いので、複数の魔物の群れが居る。

 森の中に入ると、大型犬ぐらいの大きさのキャタピラーの群れがいた。

 巨大芋虫だな。


 糸を吐いてくる系の魔物なのだが、くつしたが火を吐いて糸を焼ききって、そのまま何匹か丸焼きにしてくれた。

 くつした有能だなあ。


 そのまま切ったり、ねえさんが殴ったりしてキャタピラーの群れは退治された。


「きもーい」


 キモイもの相手だと、みのりが仕事をしてくれないのが困りものだな。


 ドロップ品は、芋虫ぬいぐるみ、芋虫入りお酒、芋虫ガラのジャージ、芋羊羹であった。


「おお、芋虫入りお酒、どんな味だろう」

「帰ってからね、テキーラの原型らしいよ」


 俺はねえさんに取られる前に芋虫入りのお酒を収納袋に入れた。

 芋羊羹は先に取られて、鏡子ねえさんとチアキがうまうまと囓っていた。

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