第227話 思い出の君が出た

 くつしたに乗ったチアキを先頭にゆっくりと進む。

 【気配察知】持ちが三人なので、まずバックアタックは食らわないし、離れた位置から敵の群れが解るので便利だ。


「前方に、人? 配信冒険者? 一人」

「一人? ソロで来れる階層じゃないけどな」

「ガチガチに固めた僧侶さんがソロでレベル上げをしてるとか」

「そんな命知らずな」


 トロール階とかワンコ階があるからなあ。

 僧侶のソロって線は無いだろう。


 うん、確かに前方に一人でいる。


「あ、鏡子、ひさしぶりだね」


 快活に笑う戦士装備の若い男だった。


「雄一さん?」

「だれだおまえ」


 バンと鏡子ねえさんが距離を詰めて雄一さんらしい男性をぶん殴った。


「ぎゃふっ!!」

「ちょ、ちょっとねえさんっ!」

「な、なんで恋人を躊躇無く攻撃できるんだよっ」

「は? 覚えてないし」

「ほ、ほら、ドラゴンが来た日に一緒に迷宮に行った昔の恋人の雄一さんだよ」

「ああ、そうか、でも魔物だろ、死ね」

「ちょ、ちょっとまって、なんで覚えて無いのっ」


 雄一さんとおぼしき存在は墓石に隠れて怯えた目を鏡子ねえさんに向けた。


「過去の記憶が無い、化ける相手を間違えたな」

「まってまって、確かに僕は迷宮の魔物だけどさ、雄一の記憶もあるレンブラントなんだ」


 アンデットの魔物だな。


『レブナントは過去に迷宮で死んだ人間が蘇った魔物じゃな』

『ああ、そういや鏡子さんが警察連れて来たら何も無くなっていたっけね』


「そうか、面倒だから死んでおけ」

「まって、まって、やめてよっ、ちょっと懐かしくなったから声を掛けただけだよ」

「ゾンビとは違うの?」

「レブナントの方が上級かな、でも顔色は悪いし、首に大傷があるし、死んでるよなこの人」


 なんか厄介な存在が現れたな。


「タカシ、『暁』で消滅させてやれ」

「そうだね、生前の記憶があるアンデットなんか哀れなだけだよな」

「ちょっと話があるんだ」

「こっちには無い」


 鏡子ねえさんはぶっ殺す気まんまんだな。


「向こうにある、赤い祠の中に珠があって、それを使うと僕は生きかえれるんだ」

「死んでろ」


 鏡子ねえさんが踏み出して本気の見えないパンチを放った。


 ドガガガガガ!!


 雄一さんの頭が砕けて墓石にぶち当たり動かなくなった。

 容赦がない。


『正解、レブナントは口から出任せのウソを吐いて後ろから襲いかかる魔物』

『鏡子さん、容赦ない』

『記憶が無いからなあ、たまに死んだパーティメンバーを復活させたいと引っかかる奴がいる』


 顔が崩れてのっぺりとした顔になり粒子になって雄一さんは消えていった。

 人の生き死にでそんなに甘い話があるわけがないな。


「大丈夫、鏡子おねえちゃん」

「つらくない?」

「覚えて無いので大丈夫」


 無情、ねえさんはあまりに無情である。


 魔石とキュアポーションが出た。


 墓石の中を歩いて行く。

 もやが掛かって雰囲気が満点だな。


 ゾンビが三体現れた。

 【オバケ嫌いの歌】を聞きながらさっくり倒す。


 ドロップは魔石と、ファブリーズ、仏花の花束が出た。

 なんか、辛気くさい物が出るなあ。


「またレブナントだね、どうする?」


 前方に人の気配、……かーちゃんじゃないか。


「タカシ~~、懐かしいなあ~~、うちなあ……」


 バキューン!!

 ダキュンダキュンダキュン!


 鉄砲組が無表情にかーちゃんに化けたレブナントを射殺した。


「一瞬、かーちゃんを呼ぼうと思った」

「かーちゃん対かーちゃんか、見たくもあるけど、もったい無いからやめるべき」

「もう、遠くから喋る前に打ち殺そう」

「ソ、ソロの人だったら?」

「じゃあ、まず、【オバケ嫌いの歌】をみのりねーちゃんが歌って、苦しんだら射殺しよう」

「そうしよう」


 レブナントは強く無いけど、心にくる系の敵なんだろうなあ。


 ドロップ品は画家のレンブラントのポストカード(五枚組)だった。


『あいかわらず悪趣味な魔物だ』

『話す前に遠距離が基本』

『誰でも死んだ身内はいるからね』


 みんな押し黙って歩く。


 スケルトンが五体現れる。

 【オバケ嫌いの歌】で動きを止めて皆で倒す。

 くつしたがブレスで二体倒してくれた。

 よくやった。

 ドロップ品は魔石と、骨骨ビスケット。

 あまり美味しく無いので、収納袋行きとなった。


 てくてくと歩いて、下り階段の安全地帯に到着。

 納骨堂みたいな建物の地下に行く感じになっていた。


「なんだか、あまり来たく無い階だったね」

「レブナントは最低だよ」


 同感だ、チアキ。


 階段を下りて、二十七階に入った。

 フロアボスまでは、あと三階だ。

 まわりは土壁になる。


「この階は何がでるんだ?」

「ここと二十八階は虫階だね」

「ぎゃ~~」


 みのりが悲鳴を上げた。


「巨大サソリ、巨大蜘蛛、巨大センチピード、巨大蟻、だね」

「ぎゃーーっ!」

「我慢しろ、みのり」

「ひーん」


 土壁の通路を少し歩くと巨大蟻と遭遇した。

 口から酸を吐いて攻撃してくる。

『蟻だーっ!! 酸だ~~!!』


 人間ほどの大きさの蟻が三匹、触覚を上下させて待ち構えていた。


 バキューン!!

 ダキュンダキュンダキュン!


 泥舟の銃弾が首に当たって一匹は頭が取れた。

 鏡子ねえさんが前に出て見えないパンチで殴りつける。


「堅い!」


 が、『金時の籠手』の表権能[楔]が働いて、蟻の胸が破裂した。

 これで二体。


 俺はすり足で前に出て、『暁』で切りつける。

 スパンという感じに足が切れた。


 キイキイと耳障りな音で蟻は鳴いた。

 くつしたがブレスを吐いて焼き殺す。


「意外と装甲が堅い」

「『暁』なら切れるな」

「ムシムシ、巨大ムシ~~」


 蟻が粒子になって消えて行く。

 魔力霧が発生して、魔石とドロップ品が落ちてきた。


 ドロップ品は、糸引き飴一箱(フルーツ)、蟻スコップであった。


 さっそくねえさんが箱を開けて、糸を引き、当たった飴を口にいれた。


「イチゴがあたった」

「わ、檸檬だ」

「蜜柑があたったよう」

「メロン出た」

「俺は檸檬だな」


 皆で飴をしゃぶる。

 安っぽい味だけど、なんだか良いな。


『蟻スコップってなんだ?』

『魔法のスコップで、穴を掘るのに能率的なのじゃ』


 魔法付きなのか。

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