第228話 虫階にみのりがむせび泣く

 二十七階は階の端に下りてらせん状になった土壁迷宮をぐるぐる歩いて真ん中の下り階段を目指す。

 土の中の雰囲気で虫がいっぱい出て沢山歩かせられる階である。

 虫が駄目なみのりにとっては地獄みたいな所だな。


「ひーっ、きょ、巨大ムカデ!!」


 大蛇みたいに大きい巨大センチピードが二匹道を塞いでいた。

 いやあ、でっかいねえ。

 ヘッドライトに照らされて黒い表皮がテラテラと光る。


「虫は頭部が弱点、胴体を抜いても動くから注意!」


 バキューン!!

 ダキュンダキュン!!


 鉄砲組が乱射して、一匹の頭を吹き飛ばした。

 頭を失った胴体がグネグネと暴れ回る。


「ぎゃ~~!!」


 みのりが『吟遊詩人バード』の役目を果たしてくれない。

 【スロウバラード】が掛かると楽なんだが。


 残った一匹にくつしたが火を吐いた。

 チアキが乗っていると【体当たり】が使えないのが難だなあ。


 俺が前に出て『浦波』で奴の牙攻撃を弾く。

 ねえさんがするりと至近距離に滑り込み、ムカデの脇腹に見えないパンチを食らわせる。

 ドドンと撃たれた反対側が破裂するように破壊された。

 くの字に折れて、巨大センチピードは半分の長さになる。

 毒のある牙で、俺を狙って攻撃してくるが、『浦波』で弾いてのけぞらせ、『暁』で頭部を二つに割った。


 よし、退治出来た。

 みのりは真っ青な顔でヒューヒュー言っている。


「みのり、仕事しろ」

「ふえええええっ」


 みのりが涙目で抗議の声をあげてきた。


「まあ慣れろ」

「慣れるべき」

「慣れようよ」

「慣れるよ」

「ひーーーん」


 巨大センチピードは粒子に変わり魔力霧となり、魔石とドロップ品が落ちてきた。

 ムカデ飴DXと、ムカデぬいぐるみであった。


「い、いらないです」

「意外と可愛いのに」


 チアキがムカデぬいぐるみを抱きしめた。


『女子は虫階弱いよなあ』

『土壁階だし、圧迫感が強いのよね、この階』

『キャタピラーとアタックビーは二十八階だっけか』

『そうそう、二十七階は這いずり系の虫中心だな』


「ムカデ飴が出た、どこらへんがDX?」

「薬効が四十階までの毒を中和する」

「ディスポイズンの薬は?」

「あれは全部だよ」


 割とムカデ飴は便利だったりするんだよね。

 解毒薬ディポイズンよりも安いし。


 飴とぬいぐるみを収納袋に入れてさらに進む。


「前方に巨大サソリ一」


 サソリか割と装甲が堅いんだよな。

 通路を塞ぐように大きい赤黒いサソリがいた。


「狙いは頭?」

「いや、尻尾をまず破壊してくれ、そうしたら、弱い蟹だ」

「オッケー」


 尻尾の毒針攻撃は素早いので避けづらいのだ。


 バキューン!!


 銃声一発で巨大サソリの尻尾がちぎれ飛んだ。

 なんだか泥舟の射撃の正確さが増しているな。

 銃剣の【命中補正】が効いている感じだ。


 毒針攻撃の無いサソリは大した敵では無い。

 鏡子ねえさんが中腰で見えないパンチで頭部をボコり、はじけ飛ばした。


「複数出ると大変だね」

「だね、一匹だとそんなに難しい敵じゃない」

「拳銃が意味ない~」

「目玉か、殻の継ぎ目狙いだなあ、拳銃は破壊力無いから」

「解った~~」


 サソリが粒子になって消えて行く。

 魔力霧が発生し、我々の心臓あたりに吸い込まれて、魔石とドロップ品が落ちた。

 ドロップ品はスコーピオンスティレットであった。


「毒針だな」

「あまり需要がない武器だ」


 収納袋行きである。


 宝箱のある部屋を通りかかったので、中を探ってみる。

 チアキが戸口に耳を付ける。


「カサカサ音がしてる、何か居る」

「どうする?」

「今日は二十三階で冒険者が溜まってるから宝箱がある可能性が高いな、行ってみるか?」

「よし」


 泥舟が膝撃ちの体勢で待ち構え、鏡子ねえさんがドアを開けた。


 バーン!


「くも~~~!!」


 中には五匹の蜘蛛がわしゃわしゃしていた。

 あちこちに糸が張り巡らされている。


 バキューン!!

 ダキュンダキュンダキュン!


 鉄砲組の先制攻撃で、一匹の巨大蜘蛛が弾けて死んだ。

 くつしたが顔をつっこんで火を吐いた。


 轟々と燃える火炎が糸を焼き尽くす。

 鏡子ねえさんと俺が飛びこむ。

 バババババと無数の拳の着弾にあい、足がもげながら一匹の蜘蛛が吹き飛んだ。

 俺は蜘蛛に近づいて顔面に『暁』を突き入れる。

 一瞬で蜘蛛の足が力を失い、地面に転がった。

 鏡子ねえさんが足を高々と振り上げてかかと落としで、蜘蛛の頭を潰す。


 バキューン!!


 泥舟が最初に吹き飛んだ蜘蛛を冷静に狙撃して、蜘蛛は全滅である。


 部屋の隅には銀色の宝箱があった。


『おお、銀箱、ラッキー』

『ああ、二十三階ラッシュだから、そこ以下は狩られて無いのか、狙い目だなあ』

『巡回すると儲かりそうだね』


 まあ、今回は宝箱狩りではなく、フロアボス攻略なので、通り道の小部屋を覗く感じだけどね。


 チアキが宝箱を調べた。


「罠は毒針だね」

『ああ、無理すりゃ簡単に開く奴だ』

『『金時の籠手』なら無効じゃね?』


 毒針の罠は、無理に開けると毒針が手に刺さるという物だ。

 毒自体もそんなに強い奴では無くて、毒消しか僧侶の魔法で対応可能だね。


 チアキはふふんと笑って毒針の罠を解除した。


『さすが、チアキ師匠』

『銀箱罠ならなんでもなさそうだねえ』


 宝箱からは、ホーリーシンボルが出た。

 僧侶用の装備で、奇跡の成功率を上げるアクセサリーだな。

 銀箱産だから、品質は良いけど、魔法は掛かってない奴だ。

 竹宮先生か、後醍醐先輩にあげようか。

 藍田さんはレアホーリーシンボル持ってるしね。


 巨大蜘蛛からは、魔石と、スパイダーロープ、スパイダー洗濯ネットが出た。


『何だよ、スパイダー洗濯ネットって』

『シルクとかチャックのついた物を洗濯機で洗うときに使うネットじゃ、魔法が掛かっているので便利じゃぞ』

『なんというニッチな魔導具なんだっ』


 まあ、洗濯の時に使うか。

 スパイダーロープは何だろう。


「あ、これ欲しい」

「ロープよね、どこらへんがスパイダーなの?」


 チアキが手に持って念じるとロープが直立した。


「上の方の岩とかに任意でくっつけられるし、いろいろ便利なんだ」


 魔力でコントロール出来るロープかあ。

 武器にはなりにくいけど便利だな。


 チアキは嬉々として腰にスパイダーロープを吊した。

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