第222話 先生方の夢を聞く

 藍田さんは大人しいので存在感が無い。

 竹宮先生が居るので『僧侶プリースト』としての仕事も無く、ただニコニコしながら一緒に歩いていた。


「藍田さん楽しい?」

「はい、新宮くん、久しぶりののんびりした狩りなので楽しいですよ」

「前回はムカデ部屋で疲れたからねえ」

「怖かったお」

「次回は二十階のフロアボス戦でしょうか?」

「そうだね、切り札が出来たから二十階は突破出来るかも」


 高田君が後ろから来たアタックドックに斧を投げて倒した。

 バックアタックだ。

 二匹だったので、高田君が戻ってきた斧をすぐ投げて、もう一匹も倒した。


「当たるようになってきたね」

「大分慣れたお」

「中距離の出が早い武器はありがたい」


 東海林がしみじみと言った。

 『オーバーザレインボー』は『Dリンクス』よりもバランスが良い感じだからなあ。


 アタックドックの死骸を粒子に変わる前に先生方の近くへと高田君と一緒に運んだ。


「バックアタックかあ、ありがとうね」

「いえいえ」


 死骸が粒子に変わり始めたので急いで離れた。

 ちょっと離れれば魔力の霧はほとんど漂ってこないのだ。


「まずは、二十階まで行ってみるんだお、それで余力があればフロアボスに挑戦すればいいんだお」

「そうだな、突破する戦力と、そこまで移動出来る戦力とは違うから、試しに行ってみるか」


 『オーバーザレインボー』は十六階まで走破しているから、次は二十階を目指す感じだな。

 二十階までが厳しかったらレベル上げだね。


 五階はジャングル階で、色んな木が生えている。

 リンゴの木もあって、高田君が斧を投げて実が成っている枝を落としてくれた。

 収納袋から果物ナイフを出してリンゴの皮を剥いて、高田君、東海林、藍田さんに渡した。

 俺の分も剥いてリンゴを囓る。


 カシュ。


 うん、酸っぱい林檎だが悪くない。


「酸っぱいのでアップルパイにすると美味しそうですね」

「アップルパイ、美味しそうだお」

「今度、焼いてきますよ」


 そう言って藍田さんはふふっと笑った。

 なんというか、普通の女の子っぽい人だな、藍田さん。


 先生方は安定して狩っている。

 マリちゃんもバックラーが使えるようになってきたな。

 創作者が生えやすいスキルが【剣術】【斧術】【鈍器術】【盾術】で、結構前衛っぽい感じだが、力の線が見えたりの戦士サポートは無いらしい。

 【鞭術】は『軽戦士』かなあ。

 『戦士』クラスは結構美味しくて、ありとあらゆる武器術が生えやすいのだ。


『マリちゃんはハンマーを持たすべし。でっかいやつ』

『いや、スキル生えやすいからといってそんなドワーフな』

『スキルシステムは結構煩雑だよなあ』

『まだ低レベルだから色々試すべし』


 狩りは和やかに進むが、ドロップ品は少ないなあ。

 いや、いつものドロップ率が異常なんだけどね。

 魔石も出たり出なかったりするし、ドロップ品は滅多に出ない。

 運はあるよなあ。


「わんわわんっ!」


 くつしたが駆けてきて俺の胸に飛びこんで来たので、俺は吹っ飛ばされた。


「いてて、加減しろ、くつした」

「くーーん」

「さすがはケロベロスなんだお、力つおいお」


 チアキと泥舟も戻って来た。


「おかえり、下はどうだった?」

「ただいま~~、結構巡回の半グレがいたよ」

「チアキちゃんと僕と樹里さんだと見つかると追いかけまわされるね」

「【気配消し】の練習になったっす」


 六階以下を使えないとレベルアップ速度が落ちるなあ。

 とはいえ、鏡子ねえさんが居ないと半グレが襲ってくるし。

 痛し痒しだなあ。


「占有しないで巡回だから、あちこちで半グレ同士の喧嘩が発生してたよ」

「無法地帯だなあ」


 俺達や『オーバーザレインボー』が付いていれば半グレもそんなに怖くはないけれども、人間相手に戦うのは結構気持ちが厳しい。


「わんわんっ!」

「お前を頼れって? くつした?」

「おんおんっ!」


 くつしたは激しくうなずいた。

 それもいいな、俺はくつしたの首筋をモフモフと撫でた。

 毛並みの手触りが気持ちがいい。

 そうか、くつしたがいると心強いな。


 一般人がDチューバーになって、一番の障害は六階からの半グレの群れだな。

 十階のフロアボス戦までの道中の治安が良くなれば、もっと気軽に迷宮探検ができるようになるんだけど、むずかしいな。


 先生方がオークとゴブリンを倒した。

 やっぱり麻痺液は強いな。

 望月先生の錬金術師は意外に良いね。

 順調にレベルが上がっていけば先生方とマリちゃんとチアキで十階は越せそうだ。


「次回から六階に潜りますか?」

「そうだねえ、洞窟階かあ」

「治安が悪いのが気になりますが、生徒も十階フロアボスまでは行く子が多いでしょうしね」

「体験して対策を考えましょう」

「それが良いですね」


 先生方は将来のDチューバー生徒の事を考えているね。

 それは良い事なのか、それとも悪い事なのか。

 判断が付かない。

 世界に迷宮が出来て変わって行っているからなあ。


「新宮、なんだかね、文部科学省でDチューバーの学校を作ろうという計画が持ち上がっているらしいんだよ」

「Dチューバー学校ですか」

「もう社会に迷宮が食い込んでいて無視が出来ない状態になっていますからね」

「だから、将来的に、新宮や東海林やDチューバーを今やっている人間が先生になって導いていくかもしれない。我々はその先鞭を付けている感じだな」

「迷宮は危険だけど、ほら、大人がなんとか危険を下げるように教えてあげられればなって、思ってるんだよ」


 ああ、そうか、それで先生方三人は迷宮に来たんだなあ。

 良い先生たちだな。

 うん。


 なんだか、俺の胸の中に暖かい物が生まれた。

 Dチューバーの学校かあ、それは良いなあ。

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