第221話 五階狩りで六階ではスニーキング

 五階での狩りは続く。

 望月先生がビュービュー麻痺水鉄砲を撃ち、あとは撲殺刺殺である。

 オークも出始めたが、わりと問題なく倒しているな。

 マリちゃんがムカデ鞭をヒュンヒュン頭上で回している。


 俺と東海林と高田君は暇である。

 雑談しながら付いて歩く。


「方喰さんの鞭使いの上手い事」

「もっと威力のある鞭が出たらマリちゃんに渡そう」

「背徳な匂いがするんだお」


 高田くんが笑いながら、そう言った。

 

「高田君、盾スキルは生えた?」

「まだだお、生えると楽になりそうだなあ」


 彼の戦闘スタイルは手斧を投げて、中距離攻撃で、近距離は盾で受けての手斧だから、ちょっと近距離が弱いね。


「【手斧】スキルは大きい斧は使えないの?」

「サイズ限定だから入らないお」

「ちょっと、パンチが不足気味だよね、出来ればウォーアックスとか使えればいいんだけどな」


 東海林が首を横に振りながら言った。


「手斧で投擲、接近したら大斧かあ、それも良いかもね」

「霧積が大剣だから、将来は剣士、高田は将来重戦士かな」

「斧のレアは安いから良いんだけど、スキルが別だおん」


 わりと難しい所だな。

 斧と言っても、手斧、斧、ハルバード類の柄付き斧と色々ある。

 柄付きは槍っぽい武器だし、それぞれスキルが別だ。

 【斧の才能】とかがあれば良いんだけどね。


「でも、鏡子さんに貰った、この魔法の手斧は使いやすいんだお」

『高田はゲッターだからなあ、接近戦は柔道でひとつ』

『ドリルでも良いぞ』

『高田の職業ジョブの法則が乱れる』


 ジョブとやりたい武器、そしてスキルの兼ね合いが難しいね。


「将来的には『Dリンクス』と『オーバーザレインボー』でレイドを組んで四十階以下を攻略しようぜ」

「それは良いお」

「うん、一緒に潜って行こう、新宮」


 わ、宮川先生をすり抜けたゴブリンがマリちゃんに斬り掛かった。

 マリちゃんは鞭だけだから防御手段が無い。

 ゴブリンが振り下ろした錆びた剣が彼女に当たった。

 が、器用に回避した。

 高田君が手斧を早抜きして投げた。

 ゴブリンの首が飛んだ。


「大丈夫かお?」

「かすり傷です、ありがとう高田くん」

「良かったお」


 やっぱり飛び道具はとっさの時に良いな。

 俺も何か、投げナイフとかやるかな。

 マイケルもなんか持ってたし。


「魔法は起動が遅くていやになるな」

「しょうがないお」


 かすり傷を負ったマリちゃんを竹宮先生が【ヒール】で治療した。


「すまんすまん、すり抜けたよ」

「いいえ、大丈夫です、迷宮の狩りですから」


 今のは望月先生が麻痺液をあて損ねたらしい。


「ごめんね、方喰さん」

「大丈夫ですよ、望月先生」


 マリちゃんにも盾が要るかな。


「マリちゃん、バックラーを使うかい?」

「重く無いですか?」

「バックラーは小さいから」

「重くても良いなら僕の盾を使うお、【盾術】付きだお」


 高田君の丸盾は重いんじゃないかな。

 マリちゃんはバックラーを選んだ。


「どう使うんですか?」

「握り込んで、敵の攻撃に当てる、ちょっと宮川先生、斬り込んでみてください」

「よし、本気でやっていいかい?」

「かまいません」


 俺はバックラーで宮川先生の斬撃を弾いた。

 マリちゃんは真剣にバックラーの動きを見ていた。


「……、新宮、マリちゃんに『浦波』を貸したら早いんじゃないか?」

「あっ」

「い、いけません、私は値段が付かないような退魔武装は持ちたくありません。無くしたら償いようがありませんから」

「でも、[自動防御]付きだよ」


 マリちゃんは黙ってバックラーを俺の手から取った。


「鞭も器用度で振ってるんです、バックラーも器用度で受けますよ」

「それがいいお、『浦波』は新宮くん以外持っちゃ駄目だお」

「便利なのに……」

「そういう問題ではないな、新宮」


 マリちゃんは宮川先生にゆっくり剣の型で斬ってもらって、それを受ける練習をし始めた。

 というか、宮川先生もそろそろ【剣術】が生えるんじゃないかな。

 ちなみに僧侶の竹宮先生が生えやすいスキルは【棍棒術】だ。

 職業ジョブは色々難しいね。


 六階への階段近くの安全地帯で小休止をした。

 ナッツバーを囓る。

 高田君は懐からあんパンを出して食べているな。

 マリちゃんはメモ用紙にさっそく、くつしたの絵を描いている。

 モコモコで可愛いな。


 Dスマホで泥舟たちの様子を確認する。

 『Dリンクス』の配信を開くと、俺がスマホをいじっている動画が流れた。

 顔を上げるとカメラを構えたリボンちゃんがいた。

 まあ、そうだよな。


 画面をスワイプして切り替えていく。

 チアキの画面で止める。

 チアキと泥舟と樹里ちゃんはライトを消してスニーキングしているらしい。

 別の冒険者パーティが右往左往している。


『どこ行きやがった、餓鬼どもめっ』

『ほんとうに魔拳銃を奪うんすか? 狂子が怒って攻めてきますぜ』

『メスガキと足軽とクソビッチの今がチャンスなんだよっ、狂子なんざ鉄砲さえあれば怖くねえよっ!』


 それは無理じゃ無いかな。


 チアキと泥舟が匍匐前進を始めた。

 樹里ちゃんもそれに続く。

 くつしたも静かに移動している。


 半グレパーティを遠くに置いて角を匍匐で曲がり、立ち上がった。


『ふう、ハラハラするっすね、チアキ師匠』

『ちょっと、【気配消し】で奴らの近くまで行って……、装備を盗んでくる』

『チアキちゃん、危ないよ』

『泥舟兄ちゃん、危ない事をするから配信冒険者なんだよ』


 チアキ~~。


 チアキは【気配消し】を使って足音を忍ばせて通路を歩いて行く。

 泥舟は長銃に煙玉を詰めた。

 なるほど、何かあったら煙幕に紛れさせるのか。


 チアキはそろそろと半グレたちに近づき、動きを止めた。

 半グレたちは気が付いて無い。

 盗賊っぽい奴が居るけど【気配察知】が無いからか?

 チアキの接近に気が付かない。


 そろそろと背後を取って、チアキは半グレのリュックの底に毒蛾ナイフで切り込みをいれた。


『わ、わわっ! くそっ、リュックの底が抜けたっ』

『え、俺もだっ! 荷物が、荷物がっ!』

『ち、畜生、なんだ、なんだこれ』


 【気配消し】すごいな、やりたい放題だ。

 チアキは泥舟と樹里ちゃんの元に戻った。


『ろくな装備が無かったから、リュックの底を抜いてやった』

『えらいっ』

『見つからないもんすねえ』

『今のうちに別の所に行こうよ』

『そうだね』


 チアキと泥舟と樹里ちゃんとくつしたは静かに移動を始めた。

 なんだかスニーキングミッション楽しそうだなあ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る