第223話 ロビーにレンタル鍛冶場出現

 狩りを切り上げてロビーに戻ってきた。

 あいかわらずレグルス陛下が女性冒険者とソファーで戯れていた。

 中小企業の社長か、あの人は。


 絡まれると嫌なので無視をして先生方の買い取りに付き合う。

 換金のお金は、狩りをした人の頭割りで、後ろで応援していた我々には入らないのだ。

 先生方とマリちゃんだな。

 チアキがこっそりと六階で狩っていた魔石を先生方の買い取りトレイに乗せていた。

 【気配消し】の新しい使い方だなあ。


「あ、方喰さま、今日から『創作者クリエイター』向けに、ロビーにレンタル鍛冶場が出来ましたよ、覗いていきませんか?」

「鍛冶場?」

「はい、こっちの世界では個人的に炉を作ったり、鍛造用の道具などが手に入れ難いので、一時間五千円で炉と器具類を貸し出しております」


 へえ、そんなサービスも始めたんだ。


『おお、『創作者クリエイター』向けのサービスか』

『どれくらいの物が作れるんだろう?』

『熟練者なら金箱クラスの物を作成可能じゃよ』

『それは、すごい!』


 金箱クラスを作れる可能性があるのか、それは夢があるなあ。


「わ、わたしは絵の『創作者クリエイター』なんですけど……」

「はい、存じております、いつも素晴らしい絵を見せていただいて、わたくしどもも皆ファンですよ。ですが、絵もよろしいのですが、鍛冶で冒険に役立つ物を作るのも、また『創作者クリエイター』の醍醐味でございます。今なら一時間三万円でドワーフの鍛冶屋さんが鍛冶の基本を教えてくれる講習サービスも行っております」


 マリちゃんはグビリと唾を飲み込んだ。


「い、色々作れますか?」

「はい、それはもう、剣から防具、日常の金物類まで、『創作者クリエイター』の可能性は無限でございます」


 これは良いかもしれないなあ。


「マリちゃん、俺がお金を出すから一回受けてみないか?」

「え、良いんですか?」

「『Dリンクス』としても、鍛冶が出来る人がいると楽しいし」

「ドワーフさんも見てみたいね」

「異世界から来たの?」

「はい、武具の修理依頼が立て込んでおりましたので、おねがいして来ていただきました。今、『オーバーザレインボー』さまご依頼の【隼丸】の修理中でございます」


 おおっ、と、『オーバーザレインボー』の皆が声を上げた。


 せっかくだから、俺のDカードを使ってお金を払い、鍛冶場の一時間のレンタルと、鍛冶の講習を頼んだ。


 山羊角の女悪魔さんに案内されて、ポータルフロアの隣の廊下を進み、木のドアを開けると、そこは鍛冶場であった。

 小柄でずんぐりした髭もじゃの男がハンマーでガンガンと剣を叩いていた。


「おうっ、見学かいっ」

「いえ、さっそく、一時間の鍛冶場レンタルと講習希望が入りましたよ、ゲドラさま」

「おう、そうかいそうかい、俺はゲドラっていう鍛冶屋だ、よろしくなあ」


 ゲドラさんは髭もじゃだが良い人そうだな。


「Dチューバーの新宮タカシといいます、『Dリンクス』というパーティ所属です」

「おお、あんたがタカシさんか、有名人じゃねえか、よろしくなあ。鍛冶を覚えたいってのは、ええと、あんたか?」

「は、はひっ!」

「おう、同じ神さんを信仰する兄妹だなあ、よろしくなあっ」

「はいっ、私は方喰鞠子と申します、よろしくおねがいします師匠」


 やっぱり『創作者クリエイター』の神様は、鍛冶屋さんの神様なのか。


「よし、一時間で、ナイフを一緒に製作して、鍛冶の基本を教えようじゃねえか、なっ」

「は、はひっ!!」


 鍛冶場は結構広くて、炉が三つに作業テーブルが五個あって、壁に色々な道具が掛けられていた。

 先生達も興味深そうに鍛冶場を見ていた。


「いやあ、凄いですね、ちゃんとした鍛冶場だ」

「講師の先生も居て、作業を教えてくれるのですねえ」

「これは良い体験だなあ」


 ナイフか、ナイフは何本あっても良いからね。


 マリちゃんは真剣に素材の量や下準備をメモに書いて聞き入っていた。


『これはいかん、俺も今すぐ札幌迷宮に急がねば』

『いうてお前は創作者じゃあねえだろう』

『まあ、盗賊だが、友達にも創作者はいないなあ』

『京都の陰陽鍛冶さんたちは喜ぶのでは?』

『異世界との技術交流かあ、夢が広がるなあ』

『ゲドラさんは川崎にいる一人だけかな、京都とかには居ないのか』

『悪魔じゃないからなあ、一人だろうよ、レグルス陛下も川崎にしかいないらしいぞ』

『各迷宮の女悪魔さん、同じ人が売店にいるのだが、あれは分体なのか?』

『分体が出来る女悪魔を採用しておるのじゃ』

『そうなんだ、採用するんだ』


 魔界で求人してるのかな?


 マリちゃんがハンマーを持ってトンテンカントンテンカンと真っ赤に焼けた鉄を打ち始めた。


「おお、鞠子さんや、あんたは筋が良い、絵ばかり描かせていてはもったいないぞ」

「そ、そうですか、嬉しいですっ」


 みんなわくわくしながら、ゲドラさんとマリちゃんの作業を見守った。

 ナイフはこうやって作るのかあ。

 勉強になるなあ。


「『きょうはいいてんき~~♪ おひさまわらってぴっかりこ~~♪ さあげんきをだしておかのむこうまであるこうよ~~♪』」


 【元気の歌】を歌いながら、みのりと鏡子ねえさんが入って来た。


「おお、歌は助かるぜ。【労働の歌】は歌えるかい?」

「も、持ってるけど覚えてませんよう」

「そうかい、まあ景気づけてもいいやな『あ~~あ~~、鉄を打て鉄を打て~~、一心不乱に鉄を打て~~、飛び散る火花がお前の迷いだ~~、打ち込み打ち込み不純な心も悲しみも、全て鉄に打ち込み火花に変えろ~~』」


 ゲドラさんが渋い声で労働歌を歌った。

 みのりは耳コピーをして、リュートを演奏して、続けて歌う。

 ああ、なんか景気が良くて気持ちがすっきりする歌だなあ。


 そんなこんなでマリちゃんの処女作のナイフができあがった。

 ゲドラさんが回転砥石で刃を付けて、木製の柄を付けて完成である。

 なんだか凄く綺麗な一品であった。

 凄いね、『創作者クリエイター』。

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