第148話 鏡子ねえさんの部屋ができあがる

 鏡子ねえさんとチアキを伴ってみんなで帰る。

 高田君と別れ、樹里さん藍田さんと別れ、みのりと別れ、東海林、泥舟と別れて行って、三人となって俺のマンションに帰った。


「凄い立派なマンション……」

「もうすぐ私の部屋も空くんだ、チアキも一緒に住むか」

「住む! 峰屋家は嫌だ」


 嫌なんだ。

 まあ気持ちは解る、お金持ち過ぎて居心地が悪いんだろう。


「みんな良い人だけど、かまいすぎだっ」

「すまん」


 構われるのが嫌だったか。

 なるほど。


 三人でエントランスに入ると、大家のナギサさんが顔を出してきた。


「あら、服部さん、お部屋の内装、終わったわよ、今日からでも入れるわ」

「そうなの、ありがとうナギサさんっ」

「今日から引っ越そう!」

「まだ布団とか無いからな、明日の昼に一緒に買い物いくか?」

「いく……、あ、だけどお金が……」

「今日、狩りすればお金が入るぞ」

「ほ、本当? ど、どれくらい?」

「昨日の先生との狩り動画で五十万ぐらい入ったから、メイン狩りだからもっと入るかな」

「そ、そんなに!!」

「タ、タカシくんたち、人気あるのね、知らなかったわ」

「わりと受けてますので」


 ナギサさんは相変わらずDチューバー事情に疎いな。

 Dチューバーのワンルームマンションのオーナーなのに。


「ご、五十万……、えー、一生に稼げるぐらいのお金……」


 どんだけ半グレどもはチアキにお小遣いをやって無いんだ。

 鏡子ねえさんと一緒に殺意のある表情を浮かべてしまった。


「まあ、狩りの上がりも結構あるし、気にするな、何でも買っていいよ」

「プ、プレステ5とか、買ってもいいの?」

「ああ、問題無い、一緒にやろうぜ」


 チアキがむふうという顔をした。

 うんうん、何でも買えば良い。

 可愛いベッドとか、寝具とか、女の子の夢を金で買うんだ。


「中見せて貰ってもいいですか」

「ええ、はい、鍵よ」

「あ、あと、チアキと一緒に住みたいんですけど、それはあり?」

「んー、本当は単身者用なんで良く無いけど、事情がありそうだから目をつぶるわ」

「わあ、ありがとう大家さんっ」

「ありがとう、ナギサさんっ」


 ナギサさんは心が広くて良いな。

 みんなでエレベーターに乗って三階まで上がった。


「鏡子、はやくはやく」

「まてまてチアキ、あわてんな」


 二人は昔からの仲のいい姉妹のように駆けて行った。

 俺も追いかけて鏡子ねえさんの部屋に行った。

 空っぽの部屋の中で、二人がドアを開いたり戸棚を覗いたりしていた。

 ワンルームマンションだからしかたが無いが、俺の部屋とほとんど一緒だな。


「タカシ兄ちゃん、メモ帳とボールペンをちょうだいっ、買う物メモするっ」

「チアキはしっかりしてるな」


 俺は収納袋からメモ帳とボールペンを出して渡した。


「ええと、食器がいるでしょ、あと洗面用具と」

「シャンプーとリンスとボディシャンプー。バスタオルと、ああ、洗濯機もいるな、要る物多いな」

「ソファーはいる?」

「いや、メンバーがたむろするのはタカシの部屋だから、こっちにはいらない」

「あ、そうかっ」


 やっぱりたまり場は俺の部屋なんだな。


「ねえさん『金時の籠手』は向こうで付けるか?」

「ああ、要らないな、チアキの装備も迷宮売店で買うし、私らの準備は無いぞ」

「じゃあ、俺は着替えてくるよ」

「おう、あとでな」


 チアキがはしゃいでいたな。

 何よりだ。

 自分の居場所が出来ると嬉しいもんな。


 俺は自分の部屋に戻り、学生服を脱いでいつもの冒険ジャージを着た。

 『暁』と『浦波』は迷宮に着いてから出そう。


 着替え終わってソファーで一息ついていると、チアキと鏡子ねえさんが部屋にやってきた。


「ああ、家具が入るとこういう風になるのかっ」

「いごこち良いだろ、このソファー私がデモゾンで注文したんだ」

「いいないいな、鏡子センスいい」


 そう言ってチアキはローソファーでゴロリンとでんぐりがえしをした。

 ハイテンションのチアキは珍しくていいな。


「お茶でも入れるか?」

「いいな、ほうじ茶をくれー」

「チアキは? ジュースもあるよ」

「ジュースをください……」


 はしゃいでいたのを見られて恥ずかしいのか、またちょっとうつむきかげんになったな。

 テンションが高くても良いんだよ。


 ピンポーンとドアベルが鳴って泥舟がやってきた。


「来たよー」

「泥舟もお茶を飲むか」

「ください」


 泥舟のマグカップにもお茶を注いだ。

 チアキのコップはまだ無いから紙コップにコーラを注いであげた。

 今日も良い感じに泥舟は足軽の和服スタイルだ。


 みんなでお茶を飲んでまったりする。

 ドアベルが鳴って、みのりがやってきた。

 やっぱ、『吟遊詩人』バード服は格好いいけど目立つな。

 まあ、鏡子ねえさんの蛇柄のボディスーツほどではないが。


 みんなで雑談をして過ごす。

 なんだか良い雰囲気だな。


 俺のDスマホが鳴った。


『新宮か、今、下に居るぞ』


 俺は窓から下を見た。

 東海林と樹里さんが俺を見つけて手を振ってくれた。


「さあ、行こうか」

「おう」

「ええ」

「行こうか」

「んっ」


 『Dリンクス』出動だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る