第147話 先生の話は意外な事だった

 ホームルームが終わった。

 廊下に出た宮川先生が呼ぶので教室を出た。


「なんですか先生」

「いや、それがな、先生の口座に大金が振り込まれていて、昨日の配信料だったんだよ、五十万」

「ああ、良かったですね」


 『Dリンクス』が人気なので、普段の狩り以外でも、わりと配信料が入るのだ。

 常連のリスナーさんに感謝だな。


「配信料は頭割りなのか、困ったなあ、教員は副業禁止なんだよ」

「Dチューバーになれば配信料と狩りの上がりは付きものですからね」

「他の教員Dチューバーはどうしているのだろうか」

「そんなには入らないんじゃないでしょうかね、入っても数百円ぐらいで」

「それくらいの方が気が楽だなあ。新宮も毎回それくらい入るのかい?」

「狩り動画とかだともっと入りますね、あとこの前のイベント動画は公式まとめが作られましたからもっと入って来ます」


 権田権八の公式まとめは六本腕師匠が作ってくれて異常な完成度だった。

 権八の半生をインタビューでふり返り、奴がどうしてああなったかを解き明かしてからの大人数レイド動画という力のこもった公式動画だった。

 早々と百万再生を突破して、記録にせまりつつあるね。


「竹宮先生と望月先生の口座にも入っていたそうだ、どうしたものか」

「装備買っちゃえば良いと思いますよ。五十万あればそこそこの装備が揃いますし」

「ふむ、それも手か、必要経費として使ってしまうのだな」

「で、個々の報酬にするのが嫌なら『第三臨海ティーチャーズ』の口座を作ってそこにプールして、先生方で迷宮に入りたい人の準備に使うとか」

「ああ、それが無難だな、ありがとう新宮、気が楽になった」


 宮川先生は廊下を去っていった。

 教員という仕事もいろいろと大変なんだなあ。


 教室に戻り、一時限目の先生を待った。



 さてさて、放課後である。

 みのりと東海林と一緒に廊下を歩く。

 泥舟が合流してきた。


「今日は初レイドだね、楽しみだよ」

「権田権八戦でもうレイドしたけどね」

「あれは特別だよ。でもあの時はみんな来て燃えたねえ」

「東海林君が来てくれて凄く嬉しかったよ」

「そんなそんな」


 東海林が照れた。


「あ、居た居た、タカシ師匠~~、みのりん~~」

「こんにちは」

「僕も来たもん。チアキちゃんはいないかな」

「ばっか高田、家に決まってるだろ、でもあーしも会いたいチアキちゃん」

「霧積は?」

「今日は師匠の日だから先に行ってるって。迷宮に付いたら呼んでくれってさあ」


 『オーバーザレインボー』の樹里さん、藍田さん、高田君がやってきた。

 いつもみんな元気だな。


 みんなでワイワイ喋りながら歩く。


「鏡子さんとチアキちゃんはどこで合流なんだおん?」

「俺のマンションで合流だよ」

「一人暮らしうらやましいおん」

「わりと面倒くさいよ」

「タカシ師匠のお部屋みたいっすよ~~」

「わあ、良いわね」

「せ、狭いからなあ」


 『Dリンクス』と『オーバーザレインボー』が俺の部屋に集まったら混み混みになってしまいそうだ。


「まあ、マンションの前で合流で良いだろう。集まったら連絡するよ」

「そうだな」


 初めてのニパーティ合同狩りだな、なかなかワクワクする。

 人数が多いと魔物も倒しやすいし、分け前は減るけどね。

 

「ムカデコワイです、樹里さんと藍田さんは」

「コワイっす」

「嫌です」


 女性は虫が嫌いだなあ。

 センチネルセンチピート部屋はどう見ても女性向けの嫌がらせだが、階が深くなると、甲虫系とかジャイアントマンティスとかのカマキリ系もでるからなあ。

 慣れておくと良いのだが。


「カエルは大丈夫なのに」

「トードは可愛いっす」

「塗り薬出しますし」

「おまんじゅうも出るんだよ」

「まじすかっ、あたったこと無いっす!」

「どんな味でしたどんな味でした」

「銘菓ひよこ系な感じ、ネットでググったら販売元ホームページあったよ」

「教えて欲しいっす、買うっすよ」

「食べたい、カエル饅頭食べたいです」


 ドロップ係って遊んでいるよなあ。

 しかし、ガールズトークはキャピキャピしてるな。

 高田君の隣を歩こう。


 昇降口で靴を履き替えようとしたらラブレターがまた入っていた。

 うーん。


「わ、ラブレターっす、タカシ師匠モテるっすねえ」

「世界一のE級配信冒険者だからねっ、タカシくんは」

「それ、どうするんですか?」

「一読して捨てる」

「一読はするっすねえ、いやあ、来年のバレンタインが楽しみっす」


 食べ物を捨てるのは抵抗があるのだが……。

 でも、さすがに怖くて食べられないなあ。

 迷宮に持って行って魔物に喰わせるか。


 収納袋にラブレターを入れて靴を履き替えた。

 みんなで校門を目指していくと、鏡子ねえさんとチアキが待っていた。


「よお、お帰り」

「お、おかえりなさい」


 わあ、チアキは見違えたなあ。

 髪も綺麗に切ってすごく可愛い格好をして良い感じだ。


「可愛いな、チアキ」

「……」


 チアキはしかめっ面をして鏡子ねえさんの影に隠れた。


「もっと可愛いのあったのに」

「だめ、恥ずかしい……」

「可愛いし、似合っているよチアキ」

「……」


 しかめっ面のままチアキはみるみる赤面した。

 可愛いなあ。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る