第146話 学校に行ったらみのりが上機嫌だった

 クラスに入るといつものようにみのりがデデデと走り寄ってきた。


「大変だよタカシくん、チアキちゃんが可愛いよ」

「そうかそうか」

「おねえちゃんも、ママも、パパもデレデレで溺愛だよ、将来が心配だよ。魔性の幼女だよ」


 そうかそうか、峰屋家に受け入れられたか。

 たぶん可愛がられている間、チアキはチベット砂狐みたいな渋い顔だったんだろうなあ。

 目に浮かぶようだ。


「『Dリンクス』新人入ったんでしょう、幼女の『盗賊シーフ』」

「イケメン悪魔さんに託されたんでしょ、新宮くんっ」

「一緒にお風呂に入って、可愛い服を着せたら、もう大変よっ、萌え萌えよ、萌え萌え」

「良いなあ、可愛い妹私もほしー」


 というか、お前らどけ、毎朝道を塞ぐな。


「おはよう新宮」

「おう、東海林、今日の事『オーバーザレインボー』のメンバーにも伝えたかい?」

「ああ、みんな乗り気だった、鏡子さんも強いし、タカシも凄いからな。峰屋さんの歌も助かるし」

「ほほほ、『吟遊詩人』バードは役に立つのだっ」

「ああ、今日も期待してるぞ、みのり」

「うっ」


 今日はセンチネルセンチピードの大群と戦うのを思いだしたらしく、みのりの表情が歪んだ。

 俺は自分の席に座る。

 みのりは前の奴の席に座った。

 東海林が椅子をもってくる。


「【火炎嵐ファイヤーストーム】の魔法が使えればかなり楽らしいが」

「呪文屋に売ってないかな」

「階層三のコモン呪文スペルだからなあ、滅多に出ない上に欲しい奴も多いから」

「レア呪文スペル欲しいよねえ」

「宝箱から出れば良いのだが」

「二十階のフロアボスで運試しね」

「うちはあまり運が良くないからなあ」

「十階で装備金箱出したのにか」

「あれはたまたまさあ、鏡子さんに折られたし」


 まあ、あれは運が良かったのか悪かったのか。

 霧積のレア酔いが治ったという点では良かったかもしれないな。

 あのまま深い階に突っ込んで行ったら、たぶん人死にが出ていただろう。


「おい、タカシ~、昨日のイケメン紹介しろや~~」

「あたいら子宮にズキュンと来ちまってさあ~~」

「あれは悪魔だぞ、深い階に行けば出るよ」


 不良の姫川と高木が寄ってきた。

 あいかわらず馬鹿だなあ、こいつら。


「あんだとー、こらっ、だったら連れてこいや~~」

「世界一の男を倒したんだろ、楽勝だろ~~」


 ゴゴン! と鈍い音がして姫川と高木がしゃがみ込んだ。


「タカシに絡むなって言ってんだろっ、おめえらっ」

「す、すいやせんっ、後醍醐先輩っ!」

「か、絡んでねえっすよ、雑談してただけっすっ」

「世界一のマイケルを倒したタカシは、世界一のE級配信冒険者なんだからな、もっと敬え、おらっ」


 後醍醐先輩が姫川と高木を蹴散らした。


「わりーな、タカシ、あいつら馬鹿でよ」

「いえ、助かりましたよ」

「チアキちゃん入って良かったな、後は魔術師だなあ」

「そうですね、それで大体パーティの形が整うんですけど」

「泥舟が魔法使いになって、僧侶が入れば完璧だけどなあ、まあ、そうもいかねえか」

「槍がもったい無いのが難ですね、後醍醐先輩」

「東海林もそう思うか。パーティの編成って難しいよなあ」


 後ろのドアががらりと開いてチヨリ先輩がやってきた。


「みなさま『おはようおはようおはようございます~~♪ すてきな朝、青い空、白い雲に今日の元気をはじけさせましょ~~♪』」


 おはようの歌好きだなチヨリ先輩。


「チアキちゃんもうちの事務所に入れなさいよ、子役の仕事沢山あるわよ」

「そういうのは本人に聞いてからですね」


 多分チベット砂狐な顔で嫌がる気がする。


「んもう、みのりさんと一緒にPVに出たら盛りあがるのに。というか『Dリンクス』のPV作るべきだわっ」

「俺は音楽はちょっと」

「残念ね、イケメンなのに」


 まあ、Dチューバーになってからの魅力加算イケメンだからなあ。

 元々美少年だった泥舟とは違うぞ。


「先輩、おはようございます」

「あらっ、後輩のみのりさん、おはようですわ~~、おほほっ」

「チエリ、お前先輩風ふかしてっと抜かされるぞ」

「うう、なんかみのりさんが入って来ただけで、人気ごぼう抜きで怖いのよ」

「そうですかっ、やったーっ!」

「まだ、シングルも出して無いのに、CMの引き合いが凄いって社長がこぼしてましたわ、まあ、マリアさんと一緒のオファーですけれども」


 それはまあ、そうだろうな。

 マリアさんは世界的なシンガーだし。

 やっぱり世界ツアーとかみのりも行くのかな。

 なかなか、冒険とアイドルの両立は大変そうだな。


「タカシくーん、一緒にCMに出ようよう~~」

「いやだ、面倒臭い」

「くそう、俺にもCM回ってこねえかなっ」

「後醍醐は整髪料のCMとか来そうね」

「そうかー、やっぱりなあ」


 後醍醐先輩は自慢のリーゼントに櫛を入れた。


「おーう、みんな席につけ~、後醍醐も北村も自分のクラスに帰れ~」


 お、先生がやってきた。


「へーい」

「はーい」

「あと、新宮、後でちょっと話がある、ホームルーム後に来てくれ」

「はい」


 なんだろう?

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