第141話 チアキ初めてのスパチャを貰う

 パティさんが寄ってきてチアキの頭に手を置いた。


「君は『盗賊シーフ』ですかあ?」

「うん……」

「おー、私の後輩ね、ピッキングツールをプレゼントしまーす」


 そう言ってパティさんは懐からキャンバス地で出来たお財布ぐらいの包みをチアキに渡した。


「一流品ね、使ってくださーい」


 チアキは包みを開いて中のツールを一つ一つチェックした。


「チアキちゃん、失礼じゃないかな?」

「師匠に教わった……、人から貰った道具を信じるなって……」


 宮川先生の忠告にチアキはそう答えた。

 そして、一本の細いツールをパティさんに渡した。


「粗悪品……」


 パティさんはにっこり笑ってポケットから同じ形のツールを出して包みのポケットに挿した。


「合格でーす、良いお師匠さんについてたねー」

「うん……」


 チアキの表情が曇った。

 師匠さん死んだのかな。

 パティさんはチアキの頭を抱くようにして撫でた。


「『盗賊シーフ』の人生はお別れの連続ね、パーティが全滅しても自分だけは生き残って生還するよー」

「うん、そう、言ってた……」

「そうねー、辛いね-」

「ツールありがとう、凄く良い奴……」

「【気配消し】と【観察眼】を覚えるねー」

「ありがとう、凄い盗賊のおねえちゃん……」

「パティ・ニュートンよー、世界一の『盗賊シーフ』よ、また会おうねー、チアキー」

「うん、約束……」

「約束よー」


 なにげにパティさんは良い人だな。

 チアキに盗賊の心得を話していた。


 見上げるような大男の重戦士が寄ってきた。


『エリベルトだ、マイケルが迷惑をかけたな』

『いえ、気にしてません』

『俺がいれば負けさせはしなかったが、まあしょうがねえな』

『ははは、あんたが遅れたのは神の思し召しだわさ』


 テレサさんが突っ込んだ。

 ああ、そうなのかもな。

 神様は運命に干渉して人を試すのかもしれない。

 マイケルに負けていたら、『暁』も『金時の籠手』も巡行して行ったのだろう。

 権田権八の時の事も考えると、ぎりぎりで勝つか負けるかの状況を作るような気がする。

 すこしひやっとする考えだけどね。


『まあ、賭けは賭けだ。『暁』はお前さん達に持たせておくよ』

『わるいね、こいつとマイケルとパティはブロンクスの下町育ちだから、チンピラ気質なんだ』

『悪かったな、テレサ』

『三人で『ホワッツマイケル』を始めたんですか?』

『いや、あと二人、ウルホと、死んだティナで始めたぜ、ニューヨーク迷宮でな』


 それで世界一のパーティか、凄いな。


『ねえ、早く下に潜りましょうよ』


 キャシーがテレサに声を掛けた。


『あ、悪いね、じゃあ、あたしらは潜るよ。あ、望月先生、これあげる』

「え、あ?」

「くれるって、先生」

「そ、そうですか、サンキューベリーマッチ」


 テレサは望月先生に書き付けを渡した。


「ほ、ホワッツイズディス?」

『地上の材料でポーションもどきを作るレシピ。錬金スキルの熟練値が伸びるよ』

「あら、良かったわね、望月先生。ポーションのレシピですって」

「わ、これは錬金術師アルケミストを目指さないとだめかなあ、意外に手に入りやすそうな材料だなあ。さ、サンキューベリーマッチ!」

『錬金人口を増やそうぜ、じゃっ』


 『ホワッツマイケル』の連中は手を振って神殿から出て行った。


『うおー、さすが世界一のパーティ、気前が良いねえ』

『チアキちゃんにピッキングツールが手に入ったのは良いね、意外に買うの大変だし』

『デモゾンで買えばいいじゃんか』

『デモゾンの安いのは中国製だからのう、チアキのはアメリカ製の最上級の奴であろう』


「そうなの、チアキ」

「うん、凄く良い品物……」


 気前が良いなあ、さすがアメリカン。


 神殿を出て、売店でチアキにDスマホとリストチェッカーを買ってあげた。

 安いのを選んでいたが、遠慮しなくていいんだよと、高いのを買ってあげた。


「新宮が良いの買いたまえよ」

「お、俺はこれが慣れているから」

「タカシは自分にはあまりお金は使わないけど、人にプレゼントするときは惜しみないんだよ」

「なんという聖人か」

「あ、ありがとう……、タカシ、おにいちゃん……」


 ほわー。

 なんだかお兄ちゃんと呼ばれると嬉しいね。


「どういたしまして」


 チアキの服にはポケットが無いので、入れるポシェットも一緒に買った。


『このロリコンどもめっ!』

『あ、不人気の目玉先生!』

『偽物であろう、奴は休暇である』


「この子の口座無いんだけど、契約出来るかな?」

「ええ、IDに紐付けておきますので、インフォメーションで口座を開設してください」

「ありがとう」


 売店のお姉さんにお礼を言って、インフォメーションに行く。


「あ、タカシさん、チアキさんのパーティ参入ですか?」

「お願いします、あと、D迷宮銀行の口座開設も」

「かしこまりました、ちょっとお待ち下さいね」


 先生方が興味深そうにいろいろと見ていた。


「契約処理も簡単ですなあ」

「Dスマホを中心にID管理して、一元処理なんですな、いやいや、良く出来たシステムだ」

「迷宮にDチューバーを呼び込むのが目的ですから、サービスが手厚いのですわね」


 しばらくして、口座開設が終わり、通帳とカードが出て来た。


「判子は要らないの?」

「だいたいサインで使えますよ。DIDは偽造不可能なので」

「そうなんだ」


 まあ、ID偽造したらサチオとか訪問して来そうだしね。


 スマホが入ったポシェットを下げて、なんだかチアキは嬉しそうだった。

 ピッキングツールもポシェットのポケットに入れていた。


『チアキの成長を祈って』


 ビロリンとチアキにスパチャが飛んだ。


『『『『『祈って』』』』』


 ビロビロビロリン。


「あ、ありがとう、みなさん……、スパチャ、初めて……」


 チアキが自分の幼女カメラピクシーに向かって手を振ってぎこちなく微笑んだ。


『可愛い』

『天使や』

『このロリコンどもめっ!』

『あ、本物の目玉であるな』


 目玉さんって、どうやってキーボードを打ってるのだろう。

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