第140話 チアキを連れて地上に帰る

「それじゃ、僕はこれで」

「いかないで……」


 チアキがサチオの袖を取った。


「困ったなあ」

「どこへ行くの?」

「地上に出て、半グレたちのたまり場を回って説得してくるんですよ」

「荒事になりそうやな」

「まあ、そうですね、おかあさん」

「チアキ、サチオは仕事やて、離してあげな」

「でも……」


 チアキはうつむいて手を離した。

 サチオはチアキの頭を撫でた。


「またどこかで会えるよ」

「うん……、いってらっしゃい、サチオ」

「うん、じゃあ、またねチアキ」


『なにげに悪魔と幼女の絆はいいな』

『きっと、十年後に迷宮で戦うんだ』

『泣かせる!』


 サチオは手を振って階段を上がっていった。

 その背中をチアキはずっと見つめていた。

 なんで気に入っちゃったんだろうなあ。

 チアキにとってサチオはとっても大事な人になったんだな。

 人の縁て不思議なものだ。


「さて、うちはそろそろ帰るわ、タカシ、あとは頼んだで」

「わかった、チアキの面倒を見るよ」

「服を買ったり、お風呂に入れてやり、きっとチアキは綺麗にするとべっぴんになるで」

「……」


 チアキはかーちゃんにも俺にも警戒しているようで上目勝ちにこちらを睨んだ。

 かーちゃんが粒子になって消えて行く。


「あっ……、消えた……」

「かーちゃんは一日三回、三分しか居られないんだ。俺のスキルだよ」

「そう……」


 先生たちがレジャーシートから立ち上がった。


「気が付いたら、もう夕暮れね」

「迷宮の空も赤くなるんだねえ」

「とりあえず、タカシくん、警察に届け出よう」

「そうですね」

「や……」

「大丈夫だから」


 俺がしゃがんでかーちゃんがやったように目線を合わせると、チアキは迷ったのちに小さくうなずいた。


「さあ、泥舟、東海林、帰ろうか」

「迷宮で幼女を拾うとは、新宮、お前というやつは」

「まあまあ、東海林君、それは言わない約束だよ」

「うむむ」


 先生方に貸した装備を返してもらった。

 宮川先生はあんまり戦ってないなあ。

 主に望月先生の銃がスライムや角兎を倒していた。


「助かったよ、新宮くん、鉄砲は良いねえ」

「『射手アーチャー』を目指しますか望月先生」

「いやあ、その鉄砲はさすがに手に入らないだろう」


 魔銃はマイケルから分捕った物だしね。

 世界に一つぐらいしかないだろう。

 遠距離から魔法弾をぶち込めるのは楽だね。

 竹宮先生の弓は当たらないしね。


「弓は難しいわね、他の飛び道具は無いのかしら」

「投げナイフとか、投げ斧とか有りますけど、弓よりももっと難しいと思いますよ」

「なんでも楽な道は無いのね」


 チアキの手を引いて、みんなで迷宮の階段を上がって行く。


「チアキはDスマホは?」


 チアキは黙って首を振った。

 持って無いのか。

 配信料とかはどこに振り込まれるのかな?

 そういや、銀行が無いようなアジアの僻地とかではどうしてるのだろう。

 Dダンジョン系の銀行はどこにでもあるけど。

 そこになるのかな。


「先生、デモンズ神殿でクラスチェンジにどれくらい掛かるか見てもらいませんか?」


 泥舟が提案した。


「そうだね、狙ってる職業へどれくらいで行けるのか励みになりますし」


 東海林も同意した。


「そうだね、良いかね新宮?」

「ええ、構いませんよ、チアキも良いよね」


 チアキは黙ってうなずいた。

 口数が少ない子だな。


 俺たちはロビーに出て、デモンズ神殿へと入った。


 今日の担当はバフォメットさんだった。


「お、今日はタカシたちが来たぞ」

「すごい、でっかい悪魔……」

「ザ・悪魔という感じですね、望月先生」

「ちょっと怖いわ」


『バフォメットさんは結構温厚だよ、竹宮先生』

『問題はあの目玉だよね』

『目玉うぜえ』


 大目玉さんの人気は最低のようだな。


「今日は先生方が転職にどれくらい掛かるか診断して貰いたくて来ました」

「そうかいそうかい、どれどれ」


 先生方は一瞬譲り合ったが、宮川先生が前に出た。

 バフォメットさんがペタペタと体を探る。


「一番近いのは戦士かな、レベル五ぐらいになったらまた来てごらん」

「は、はいっ、ありがとうございます、バフォメット先生」

「うむうむ」


 次は竹宮先生だ。

 なんかさわり方が冒涜的な気がしないでもない。


「ふむ、魔術師という所か、あなたも五レベルぐらい欲しい」

「あ、あの僧侶になりたいのですがっ」

「そうだなあ、信仰心がちょっと足りない、僧侶であれば八レベルぐらいか」

「あ、ありがとうございました」


 竹宮先生は頭をびょんと下げた。


「さて、次は君だね」

「お願いしますっ」


 バフォメットさんは望月先生の体をペタペタ触った。


「錬金術師が一番近いな。あと二レベルぐらいで転職出来そうだよ」

錬金術師アルケミストですか、魔術師をやりたいのですが」

「ふむ、それならば五レベルぐらいになったら、またおいで」

「はいっ!」


 理科教師だから、錬金術師アルケミストになりやすいんだろうなあ。


錬金術師アルケミストにしときなよ、先生』

「え、あ? だ、誰?」

『『ホワッツマイケル』のテレサだよ』


 デモンズ神殿の入り口に、テレサさんと、キャシーと、パティさんと、やたらにでっかい男がいた。


『はーい、タカシ』

『よう、キャシー』

「タカシくん、あなた英語上手いわね」

「Dチューバーになると外国語の補正が付くみたいなんですよ」

「まあ、それなら、生徒をみんなDチューバーにしなくては」


 竹宮先生、仕事が無くなりますよ。


錬金術師アルケミストは良いよ、ポーション作り放題だし。先生にもお勧めだ』

『そ、そうですか、困ったなあ』

『なに絡みにきてるんですかテレサさん』

『今日は新人のレベル上げだよ、そうしたらタカシたちが神殿に入るのを見たんでなっ』


 なんというフランクな人達だ。

 アメリカ人らしいとも言えるかな。

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