第142話 チアキを警察署に連れていく
先生方と一緒に迷宮を後にした。
リボンちゃん達に手を振って地獄門から出る。
外はすっかり夕暮れで、帰宅の人達が足早にバスターミナルに急いでいた。
駅の方から、みのりと鏡子ねえさんがデデデと走って来た。
「タカシ~~、新人のチアキを見せろ~~」
「見せるのだ~~」
勢い良く駆けて来たのでチアキが怖がって俺の影に隠れた。
「なんだよ、配信を見たの?」
「護衛が暇なんでスマホで見ていた。みのりの顔合わせが一段落したので急いで来た」
「わあわあ、チアキちゃん、可愛いねえ、私は峰屋みのりだよ、
「私は鏡子だ、『
「こ、こんにちは……」
「大丈夫、二人とも『Dリンクス』の仲間だよ」
「仲間仲間」
「 『きょうはいいてんき~~♪ おひさまわらってぴっかりこ~~♪ さあげんきをだしておかのむこうまであるこうよ~~♪』」
急にリュートをかき鳴らして歌い始めたみのりをチアキは口をぽかんと開けて見ていた。
通行人も足を止めて見ていた。
体に活力がみなぎってくる。
歌い終わると、聞いていた民衆から拍手が起こった。
チャリンチャリーン!
「いや、投げ銭はやめてください」
「いや、なんとなく、すまん」
「今度、配信でスパチャするわ」
チアキが小銭をかき集めてポシェットに入れていた。
さすが『
「タカシ君、これからどうするの、先生方と一緒に晩ご飯?」
「お、それは良いねえ」
「どこか良い所に行こうか、今日は教えてくれたお礼に奢るよ」
「先生、その前に、警察ですよ」
泥舟がそう言うと、そうだったそうだったと先生方はうなずいた。
俺たちは警察署に向けて歩き始める。
「警察? 何しにいくんだ?」
「一応、チアキを保護したって届け出ないとね」
「そうなのか、黙ってお持ち帰りしたら駄目なのか」
「誘拐罪に問われてしまいますよ、鏡子さん」
「そうなのか、東海林はよく知っているなあ」
鉄道でもなんでも、駅員が勝手に迷子を保護したらいけないんだよね、あとで親から誘拐罪に問われる事があるから。
でもまあ、迷宮が出来てから、けっこうそういうラインのタガが外れ始めている感じはある。
「じゃあ、チアキを雇っていた半グレの事務所に殴り込んで貰ってこようぜ」
「そういや、事務所ってどこなの?」
「堀之内、でもサチオが行くって言ってたから……。あぶない」
「むう、サチオとも一戦したい所だが」
やめなさい。
もう、ねえさんは戦闘狂なんだから。
「そうすると、その事務所、つぶれてしまうわね、チアキちゃんはどこに住んでたの?」
「アパート、立ちんぼの外国人のお姉さんたちといっしょ」
「「「「「……」」」」」
全員嫌な感じに沈黙した。
半グレどもめ、チアキをどこに住まわせていたんだ。
「じゃあ、なにか荷物とかは取りにいかなくていいの?」
チアキは首を振った。
「私は何も持って無いから」
……、よしサチオ、半グレたちを全滅させてこい。
「これからは私たちと一緒だからな、思い出も沢山作ってやるし、いろんな好きな物も買ったりできるぞ」
鏡子ねえさんがチアキを並んで歩きながらそう言った。
「あんまり」
「ん?」
「あんまり、人生に期待しちゃ駄目だって、裏切られた時に辛いから……」
「……、タカシ、半グレの事務所はどこだ、ぶっ殺してくるわ」
「ねえさん、気持ちは解るけどね」
サチオ、頑張れ!
意味無く、サチオへの好感度がどんどん上がっていく。
川崎警察署はさいか屋のある通りをずっと海側に歩いて、国道沿いの十字路にある。
署の近くに来ると騒然としていた。
サチオが堀之内で暴れているのかな。
駐車場から出ようとしていたパトカーが止まった。
「タカシくん、堀之内で半グレの事務所が襲撃されたと通報があったけど、何か知らないかい?」
パトカーから林田さんが顔を出して聞いて来た。
やっぱりサチオかあ。
「迷宮の運営が占有ゴロたちを排除に出たようです。サッチャンの弟と名乗る悪魔が一人、迷宮を出ていきましたよ」
「それでか、悪魔か、Dチューバー分隊でないと駄目か」
「かなり高レベルの悪魔ですから、どうにもならないかもしれません」
「おっちゃん、力を貸してやろうか?」
「服部鏡子さん……、い、いや遠慮をしておく」
「なんで~~?」
まあ、林田さんの判断が正しいな。
「その子は?」
「半グレの所で占有に協力していた子供です、サチオって悪魔に託されました。この子を保護する許可が欲しくて、今日は来ましたよ」
「わかった、迷宮棄民の管轄は生活安全課の迷宮係だ、ちょっと待っていてくれたまえ、今、案内する」
「堀之内は良いんですか?」
「悪魔相手だとDチューバー分隊でないと歯が立たないし、その事を報告にいかなくては。ついでにタカシ君たちを案内するよ」
林田さんはパトカーをバックで駐車場に戻した。
さすがはお巡りさん、運転が上手いな。
林田さんを見て、チアキはまた俺の影にささっと隠れた。
「大丈夫だよ、お嬢ちゃん、そんなに怖がらなくても」
林田さんはしゃがんでチアキと目線を合わせて微笑んだ。
「さあ、こっちだよ、というか大所帯だね」
「今日は学校の先生を迷宮に案内してたんですよ」
「こんにちは、臨海第三高校の教員の宮川と申します」
「これはこれは、神奈川県警、川崎署、迷宮課の林田と申します」
なんだか、大人達はわやわやと挨拶を交わしていた。
鏡子ねえさんとみのりはチアキにちょっかいをかけて、嫌がられていた。
やめてあげなさい。
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